【第775話:もうこそこそしません】
囮にするため襲わせた、南の村の他にもいくつもケイオ族の村がある。
その中でも最大のものが東のオアシスに近い街道沿いにあった。
(南北の部族は取り込まれてしまったようですね‥‥ケイオ族は最も人数の多い部族。こちらで抑えたいものです)
そして理想としてはケイオ族を尖兵に、残りの部族を追い落としここに帝国を進駐させたい。
そこまで行けば間違いなく干渉しようとしてくるだろう。
「いままでこそこそしていた分、鬱憤をはらさせてもらいますよ‥‥」
くすくすとかわいらしい声で笑うアウレリア。
カウチでくつろいでいたハルトマン軍曹は実年齢を知らないが、20代だと言われてもうなずける容姿だった。
「まかせておけよ‥‥うまいこと取り込んでやる」
そういって横に来たアウレリアの腰を抱き寄せるハルトマン。
にんまりした笑みを向けるアウレリア。
「おそらく聖王国から接触してくるわよ?‥‥魔女達がね‥‥」
にまにまするのは、決してハルトマン達が遅れを取らないと自信があるから。
なにより自分の義体が同行するのだ。
この義体にはオリジナルにつながるものは一つも使っていない。
いつものものより少し低コストな体だ。
ハルトマン達には何をされても気付かれないが、作りとしてはティア10以内に収まる物だ。
いつも使っているお気に入りの体はオレイカルコスのフレームを持つティア12に該当するもの。
リーベ達に与えたものと同等品だ。
「ダメよ‥そろそろ着くわ」
アウレリアの胸元に顔を埋めるハルトマンを押しやり、ふと横を向く。
「‥‥あら‥‥あちらも始めたようね?」
ぴくとハルトマンもだらけた顔から表情を消した。
アウレリアの見た位置に、共有のARマップが表示されている。
ハルトマン達の外装は、アウレリアが統合して情報共有する仕組み。
クラーク達が村を襲い出したのが、共有マップで光点の動きとして確認できた。
こういった電子装備もすでにハルトマン達は使いこなしていた。
「こちらはこちらで楽しみましょう?お猿さん達をひれ伏せさせに行くわよ」
くすくすとまた楽しそうに笑うアウレリア。
今日はやたらと機嫌が良かった。
それはあの女神達が嫌がることだと知っているので、楽しくて仕方がないのだった。
まだ年若いギリアムは隊の中では最底辺だった。
戦力としても、斥候としてもあまり役に立たないとまで言われ、面倒な仕事を押し付けられたりもしていた。
ハルトマンやヴィクトル達に媚を売って、なんとか立場を保っていたのだ。
それがアウレリアと出会い立場が変わった。
ナノマシンへの適性がとても高かったのだ。
先ずは途中でおかしくなっていく仲間たちを見下ろして、少しいい気分を味わった。
次にアウレリアに褒められ、もっと強くなってほしいと頼られた。
新しい装備の完熟訓練も、未だかつて無いほど積極的に取り組んだ。
戦闘もそつなくこなし、この最後の部隊にまで生き延びた。
補充する兵が準備できれば小隊を任せるとまで言われていたのだ。
そうして天狗になって、ハルトマン軍曹やヴィクトルの真似をして弱いものをいたぶったりもした。
まるで自分が上等な人間になった気分を味わっていたのだ。
そして今回は金ピカの鎧まで準備され、『聖騎士』様になるのだという。
『使徒』様に続く、人間としては最上位の格なのだと教わった。
かつて見た偉そうな将軍より、王族よりもえらいのだと。
それはギリアムを天にも昇るほど舞い上がらせていた。
(うぐぅ‥‥いてぇ‥‥ナノマシンが?治療しているのか?)
涙と鼻水をだらだらとこぼしながら、ギリアムはよだれと共にうめきを吐き出す。
焼き切られた右足から尋常ではない痛みが伝わってくる。
「ぐふぅ‥‥まじょめぇ」
かつて深夜の暗い森でくすくすと笑っていた綺麗な笑顔を思い出してしまう。
あの夜の恐怖は未だに悪夢として、ギリアムの中にくすぶっていた。
ずるずると腕と片足で這い進み、まもなく建物に隠れられそうだった。
防御の高負荷で、すでにアシストも電磁バリアも切れてしまい、ナノマシンは膝から先が燃え尽きた右足の修復に精一杯なようだ。
ゴゴン!
「ひぃ!」
ドシャ!!
足元に何か重いものが連続して落ちてきた気配がした。
おそるおそる首だけで振り向いたギリアムは、半分消し飛んで真っ黒な断面を見せるクラーク副隊長を見た。
手足もあらぬ角度に曲がったり、黒焦げになって無くなっていたりする。
とんっ
振り向いているギリアムの後ろに、すたっと影が舞い降りた。
傷一つ無いアイカが純白の鎧をまとい、これも白いオービットガンを従えて舞い降りた。
すでに式神は腰の装甲に仕舞い、最後の仕上げと無力化しておいた者を処理するために下りてきたのだ。
戦闘しながらもここにアイトリースは居ないと確認済みだった。
それはアイカを笑顔にしてくれる。
「随分時間がかかってしまいました。あなたで最後ですね」
ぴーちちち
と小鳥の鳴くようなさえずりがギリアムに聞こえる。
ごうごうと後頭部の上で輝く白い光り。
「や、やめ‥‥」
ごぉおうう
涙ながらに訴えたそれがギリアムの最後のセリフとなった。
振り下ろした右腕から圧縮したプラズマのハンマーを振り下ろし、アイカは仕事を終えた。
思ったより時間がかかったのは、アイトリース達が居る可能性を考え、村に被害を出さないように加減していたからだ。
しゅっと空気を切り裂いて、槍が投げつけられた。
かなりの速度は手だれの投擲なのだが、弾丸を捉えるアイカにはあくびが出る速度。
ぴきゅん
右の腰から飛び出した、純白の式神八式が荷電粒子ビームで焼いてしまう。
「悪魔め!よくも聖騎士様を‥‥ケイオは貴様らに背を見せたりはしないぞ!」
新たな槍をとなりにいるものが手渡す。
立派な羽飾りを付けた男は、この村の戦士長だった。
アイカは少し迷ったが、ちゃんと説明すべきだと思い直す。
「お待ちなさい‥‥あの金色は聖騎士ではありません。わたくしが聖王国の聖騎士です。あの者達は名を語る偽物ですよ?」
男の後ろには何人もの戦士たちが走って集まってきている。
「騙されるものか悪魔め!!聖騎士様の敵だやってしまえ!」
ひゅんひゅひゅんと何本も槍が投げつけられるので、面倒になったアイカはとんと飛び立った。
腕の良いものが何人かいて、上空にまで投げ上げてくるが、直ぐに届かない高度まで上がるアイカ。
「あなた達にかまっていられるほど暇ではないのです」
先程見つけた飛行物体は相当の大きさだったので、ここにいたのは足止めのためかと思い至ったアイカ。
もうかまっていられないとアクティブレーダー用の霊子波を叩きつけた。
無音で広がるそれは全周囲に撒き散らされ、反応を返してくる。
特にエネルギーフィールドやコンシールの魔術がかかっていると、てきめんに反応がある。
追ってきているはずのジュノ達にも位置を知らせることにもなる。
「みつけました!」
どぉん
アイカはソニックブームの衝撃波を撒き散らし、大空へ舞い上がった。
もう遠慮する必要はないのだと。




