【第774話:アウレリアの思惑】
アイカは迷っていた。
アイトリースに警告をするか、しないかだ。
このアルドゥナに戻ってからアイカは心がけていることが有った。
娘たちとも思うアイシリーズのコピーAIを、本当の娘にしたいと思ったのだ。
そして娘たちが自由な人生を選び歩けるようにしてあげたいと。
先日怪我をした時に、マナミの手伝いをしている男の子ナロンの、アイトリースへの淡い恋心に気付いた。
察したのはリーベで、マナミと2人で相談に来たのだ。
――できるだけ余計な事をしないことにしましょう
そういってにっこりとアイカは笑った。
淋しい気持ちも少し有ったが、アイトリースを大切だと思ってくれる人が出来たのはとても嬉しかった。
――不審に思われないレベルならいいよね?!
マナミもリーベもとてもやる気なので、ほどほどにねとアイカは苦笑した。
そもそもよく判らないのだしと。
アイカですらまだ経験のない事なのだ。
誰かに恋をするなどと言うことは。
それでもマナミやリーベの心に浮かんだその欲求は、善意なのだとアイカは受け取った。
アイトリースやナロンに、幸せな未来を手にしてほしいと。
もちろんアイカにとっても、アイトリースの関心が自分以外に向かうのは淋しい気持ちも呼び起こす。
それでもアイトリースが望むのならば、応援したいとも思った。
今まさにそのきざはしにアイトリースは立っているのだと。
(できることなら裏でこっそり収めてしまいたい‥‥)
それが今のアイカの希望だった。
そうしてアイトリースに警告するのをためらったのだった。
この時点ではまだアイカは、一人でも何とかできると考えていたから。
クラーク兵長はヴィクトールと同格の副隊長で、分隊を一つ受け持っていた。
アウレリアに取り込まれた今でも、このB隊の方を率いている。
高度4000mまで飛び上がったクラーク達は、眼下を索敵しながら進む。
「アウレリア。原住民らしき村があるぞここだ」
クラーク達もすっかりこのレベルの技術をつかいこなしていて、マップデータに記しを付けキャプチャししたものを送信する。
『都合いいわね‥‥ちょっと燃やしてしまいなさい。あわてて助けに来るわよきっと』
今日はゴミの日だから、出かけるついでにゴミを出しておいてねといった雰囲気で虐殺を指示するアウレリア。
「了解‥‥」
通信を切ると3人の部下にも情報共有する。
「よし、好きにしていいぞ。オレが上から見張る」
「やったぜえ!」
「ひゃっほぉ!」
「若い女はころすなよ?!」
好き好きに叫んで部下たちが降下していく。
『そうそう聖騎士ですと言うの忘れないのよ?』
アウレリアの策略はそこに意味を置いていた。
ラウメン聖王国を貶める。
女神など崇めても助かったりしないのだと示したいのだ。
自分たちオリジナルも助からなかったのだからと。
アイカはコンシールを保てる限度の速度まで加速し、高度を12000mまであげていた。
気圧と気温は下がるが、酸素や揚力を必要としない重力制御飛行には、むしろ好条件だけが重なる。
透明化していても重力保持した直径10m程の空気の玉が、高速で低温の外気にまざり水蒸気の尾を引く。
下から見上げれば白い航跡として微かに観測できるだろう。
「なに?!異常に温度が上がった?!」
眼下に村があり、火の手が上がるのをアイカは観測し、迷うこと無く高度を下げた。
ジュノのように直感で敵だと判断したのだ。
(そんな‥‥村を襲っているの!?まさかアイトリース達もそこに?!)
アイカの判断には、秘めた懸念が滲みいくつか判定基準をとばして交戦を覚悟する。
ジュノの外装と同じようにエアロダイナミックも利用するアイカの外装は、コンシールを解き急降下で燃え上がった村を目指した。
「いいぞ!逃げろ逃げろ!聖騎士様からにげきれるならなぁ?!」
そこには金色の悪鬼が居た。
飛び降りてきた3人は、伝説にある聖騎士と誤認しひれ伏した村人を次々と殺し始める。
ドドドド!
パシュ!
ドォォォン!!
手持ちの巨大なミクストアームはマシンガンとグレネードランチャーを束ねたもの。
切り替えることで火炎放射器にも成った。
保護スーツのアシストは巨大な銃を軽々と振り回させる。
「いやぁああ!!」
わーわーと逃げ惑う村人から、若い娘を捉える隊員の一人。
「いやあじゃねえよ。聖騎士様にご奉仕だ、こい!」
そういってずるずるとひきずり、近くの民家に連れ込んだ。
すでに死体の山が出来上がり、そろそろいいなと残しておいた若い娘に手をつけ始めたのだ。
『残念だなマルコ、お客さんだぞ』
「えぇ‥‥はやすぎんよ」
残念そうに女を放り出し、開けっ放しのドアをくぐる男。
ぴきゅきゅきゅん!!
ドアをくぐった瞬間に四方からピンク色の線が男を貫いた。
悲鳴もあげられず額も撃ち抜かれた男がくずおれる。
『やばいぞ!本気出せ!‥‥魔女だ!』
ぶぅんと音をたてて隊員達の保護スーツが唸りを上げた。
対魔女用のモードで、時間制限がある高温防御を入れたのだ。
しばらく腕を組んだまま式神をあやつり上空から観察していたアイカは、狙撃されてもエネルギーシールドで弾いて余裕の対応。
二人目を全方位から狙撃したアイカは効果が薄いのに気づく。
「むっ温度防御をあげましたね?ふふん、まだまだアイカの炎は温度をあげますよ!」
ぴーちちぴちと高速詠唱したアイカが右手を振り下ろす。
地上のガレキをガードに弾丸をばらまいていた男に、灼熱のプラズマが降り注ぐ。
単体敵対象の上級魔法だ。
収束したプラズマはコロナの腕のように輝き、男を包んだ。
「ぐはあぁああ!!」
ごろごろと転がり、魔法の照射範囲から抜け出す男には片足がなかった。
いかなナノマシン保護スーツでも灼熱の太陽で殴られては守りきれなかったのだ。
ぱききぃん!
「むぅ‥‥いいところを邪魔して」
アイカは大口径と思われる狙撃を、アイカフィールドと物理盾にもなるオービットガンでそらし、位置を変え動いた。
さすがにこの口径の砲を、涼しげに受け止められない。
レールガンと思しき弾頭は音速の10倍に達する速度で襲いかかってきたから。
狙撃したのは隊長のクラーク。
本職は凄腕のスナイパーで、似た作りのスマートライフルを装備していた。
ジュノのものと同じ、スーツからもエネルギーを供給するハイエンドなリニアレールガンだ。
キュゥとチャンバー内部で高速回転するチャージショットが撃てるのもジュノのものと同じだ。
真空に近い状態に引いた薬室で、電磁気力で高速回転させた弾頭を、初速10マッハで叩きつける。
たかが30mmの弾頭で、車載レールガンのような威力を叩き出す。
射撃した瞬間に幻術をかけ直し移動するので、アイカも位置を捉えていない。
(当たったはず‥‥魔女め‥‥)
ハルトマンと同じでクラーク達にも魔女の恐怖は刷り込まれていたが、すっかりアウレリアの毒が回り恐怖を上書きして怒りに変える。
(次は仕留める‥‥)
心に強く思うのだが、漆黒の森で両足を焼かれた痛みが幻覚として感じるようにクラークはひるむ。
魔女の付けた体の傷はもう無いが、その痛みは覚えているのだった。
まさかアイカがこの速度の弾頭を捕捉するとは想像も出来ないので、魔術だと思い次に必中を期した。
しゅるんとアイカが宙で横に回ると、ぴたりと停まりきりっとクラークを睨む。
(バカな!?見えてるのか?)
クラークは内心で焦りながらも、スマートガンの冷却とフルチャージを待つ。
アイカは幻術で隠しきれない冷却中の焼けた銃身を赤外線で捉えたのだった。
「そこにいましたか‥‥」
ぴぴぴちちぴーとアイカが真紅の魔力をまとい、魔法が高速詠唱されていく。
そうしながらも地上では6機の式神が2人の隊員を追い回し、次々と純白に輝くプラズマで焼いているとは想像も付かないクラークだった。




