【第772話:いろいろ見つけた!】
※ 少し分かりにくいかなと思い、地図を付けました。
「いました!」
アイカが大きな声で嬉しそうに報告。
この潜水艇には外部に音を漏らさない結界を貼る装置が内蔵されている、魔力を流せるものが艦内にいれば音は外に漏らさない。
音に弱い幻術とはトレードオフとなる式なので重ね掛けできない。
潜水中だけの機能だ。
「なになに?!帝国軍いた?」
ジュノはイルカも居なくなって静かになったので、ソナーに集中して索敵していたので驚く。
アイカはにっこりといい笑顔。
「ええ。進行方向からみても、やはりあの補給港に行くのでしょう」
ふぅとジュノは息を吐く。
この進路と位置情報だけで帝国の意図がある程度読み取れる。
軍人としてだけ見ても、少なくともアヴォリア方面侵略のための進軍ではないと読み取れる。
上陸作戦なら、この位置まで来てこそこそする理由がない。
今のラウメン聖王国にとってもっとも防御力がなく、対応も難しいのが大陸西海岸なのだ。
ここに上陸されて橋頭堡を造られると、守るのがぐっと難しくなる。
帝国の陸軍力はミラサネルで証明済みだ。
いかなスパイラルアークでも雨のように降り注ぐ砲撃は防ぎようがない。
これは南や北の鉱山を優先した時点で、ある程度あきらめた部分だ。
後回しだねと決めていた事。
そこを今、突かれれば致命的だと恐れていた。
「ふむ最悪の想定は免れましたが‥‥これでは帝国の目的がスッキリしませんね‥‥」
アイカは指先が霞む高速でデバイスを操作して、帝国艦隊を把握していく。
式神蛟が2機でくるりと艦隊を回り情報を集める。
「‥‥ずいぶんいるね‥‥空母クラスのサイズもちらほら‥‥4隻くらいいる?」
ジュノはアイカの表示してくれた索敵結果を精査する。
少なくとも船の大きさと数はわかった。
「大型の艦影はそうですね‥‥あとは上がってみないと‥‥潜望鏡深度にあげますか?それとも一回ヴェスタの所に戻る?」
アイカとしてはこのまま見たほうがいいのだが、ヴェスタに無駄な仕事をさせておくのも忍びない。
こちらにいたのだから第二の致命策と考えた、ルーディアの海上封鎖はもう無いのだからと。
ルーディアには民間船も多く就航しているので、向かうようならスクリューなどを壊して邪魔しようと考えていた。
今回のケースでは早く手掛けたほうが、遅延効果が高いと考えたのだ。
「うん‥‥潜航したまま戻るならこの子が速いよね‥‥蛟だけ監視に残す?」
空を飛んでいいなら保護スーツ+外装の方が速度が出る。
ジュノはヴェスタとの合流を優先する判断した。
はっとアイカが固まる。
「まって‥‥これは」
珍しくアイカが目を閉じて集中する。
「低機動から変な航跡がみえました‥‥ええっ!?航空機ですコンシールしています!」
アイカが空中に描いているAR表示の共有マップにも予想航跡を出す。
「はやい‥‥亜音速程度ですね‥‥スパイラルアークより大きい‥‥」
アイカが手にした情報をジュノと共有するため、つぶやきながら解析を続ける。
「潜望鏡深度に上げるよ。レーダーも使える」
この機体は水面下5mほどに留まり、各種センサーを水面から出す機能がある。
潜水艦でいう潜望鏡に相当する伸縮式センサーマストだが、呼び名だけは昔のまま潜望鏡だった。
「うん‥‥」
アイカは集中しているのか、気のない返事。
コンシールの幻術を使われていれば、パッシブ霊子波レーダーでも正確に捉えるのは難しい。
ただ、違和感を拾い上げて予測進路を出しやすくなる。
アイカは今、水平線の上に上ってきた低軌道の式からくる、不鮮明な画像から読み取っているのだ。
秒速7㎞/秒以上の相対速度差をもった映像だ。
わずか10分程度のフライバイの時間を最大に活かしたいと、集中している。
「ああ?!」
アイカがまた大きな声を出す。
びくっとジュノも振り向いて心配そうに見ている。
「‥‥停まりました。アヴォリアの手前‥‥西側です」
それは今日リシュアナ達が向かった、ケイオ族達が住まうエリアだ。
「‥‥どゆこと?!」
ジュノは急激な情報量の増加に、考えるのをやめてしまう。
アイカが答えを出してくれるのを待つ。
すっと視線がそろい、アイカがジュノを見た。
「どうせろくでもない事をしにきたのです!?」
ぷうっと膨れたアイカの意見は偏見に満ちていた。
当たらずとも遠からずだったが。
うんうんと眉をひそめたジュノも賛成する。
「よし、別れよう!わたしがこの子でヴェスタを探しに行く!アイカは飛んでいって!」
二人とも保護スーツには外装を何種類かシフト収納している。
水中用、飛行戦闘用に空中移動用とバリエーション豊かだ。
アイカも飛行ユニットまで装備すれば、超音速での飛行が可能だ。
じゅわあっとカーゴベイに注水する音が響き、ジュノがアイカの出撃を準備する。
シートから飛び出したアイカは少し青い顔色。
焦りを隠せない。
オリジナルはひどいことをする集団だと学んでいるのだ。
その悪人が娘とも思うアイトリースに接触するかも知れない。
そう思っただけで、きりきりと胃が締め付けられるような痛みを感じていた。
下部カーゴベイにするりと侵入するアイカ。
そこはナノマシン保護膜で覆われ既に注水完了している。
保護膜はアイカだけを通し、水を船内には入れない。
『いいよ!開けてジュノ』
アイカの宣言と共に、外装が斜めに開き、後方に滑るようにアイカを吐き出す。
海中にでた瞬間にアイカの全身に光が走り、大型の飛行ユニットがまとわれる。
最初期にジュノを探しに行ったヴェスタの装備と似ている。
ごばぁあ!!!
水中に轟音を撒き散らしたアイカは、スーパーキャビテーションで加速していく。
水を押しのける微小な泡たちが轟音を撒き散らすが、速度は200ノットにも達し水面から約20度程の角度で飛び出す。
ばしゅ!!
空中に出た瞬間に翼が展開し、左右に1m程の主翼を広げた。
ぴちちちぴちと、アイカの高速詠唱も入り、幻術によるコンシールがかけられ透明になると、一気に速度をあげて高度を取った。
ある程度の高度までは姿を見られたくないと考えたのだ。
(おねがい‥‥間に合って‥‥)
先日の運び込まれたアイトリースのくったりした姿が脳裏に蘇る。
もし同じ敵なら、次こそは失われてしまうかも知れないと、アイカは恐れるのだった。
危機にさらされるのは、愛する娘なのだと。




