【第770話:こちらも始めますよ】
『いってらっしゃ~い!』
元気に手をふって見送った3色3人の少女。
アイカは最後まで手を振って、アイトリースを見送る。
すっと手をおろしたときには、淋しそうな目になるので、ジュノがむぎゅと抱きしめる。
「大丈夫。アイちゃんはしっかりしてるし。私たちも西に行くんだから」
ぎゅうっとアイカも抱き返して、ジュノにぐりぐりっとする。
「うん‥‥わかった」
よしよしとヴェスタもアイカの頭を撫でて、3人でにっこりにもどす。
これがラウミナス家流なのだった。
聖アヴォリアに街を作るため一行を送り出した3人は、もう一つの懸念を晴らしに行く。
アヴォリアのオアシスに沈めたスパイラルアークに戻って、3人で会議をする。
つまりティータイムだった。
「これです‥‥角度が厳しかったので鮮明さにかけますが」
共有ARで大写しに表示したのは、海上の拡大写真。
つぶつぶと黒い影が散らばっている。
低軌道にあがっている式が、定期的に撮影している画像の精査で見つかった異変だ。
画像を見ればかなり角度が浅く、分厚い大気越しと見取れる。
「‥‥この真ん中のとこの‥‥デカいね。あの空母かな?」
ジュノは目を細めて画像を眺め回す。
それは海上を進んできた艦隊が補給のためか、幻術を解き姿を見せた瞬間の画像だった。
「どうでしょう‥‥だいぶフィルターかかっているので、大きさはあまり当てにならないです」
ジュノの質問にアイカが答えつつ、画像を整えてみる。
時系列的に事後に見つけて、その前後の足跡を捉えていなかった。
「座標的にはラカン・ラマン王国の南ですね‥‥前に遊びに行った無人島から100㎞もない辺りです」
アイカが補足して、島の拡大図を添付し『ラウミナス家避暑地』と記入する。
夏休みの度に訪れている、ラカン・ラマン南の無人島だ。
地図にのった小さな点一つで、3人の気持ちをプラスに傾ける効果があった。
すでに2度行っているので立派な屋敷やプールも有って、かなり開発が進みプライベートリゾートになっている。
それは楽しい思い出だけを表す点だから。
「‥‥という事は赤道あたり?艦首は北東を向いている?これ?」
撮影した方位は判らないが、影の向きと時間表示からヴェスタは推察した。
拡大しすぎて青い画面にぽつぽつと短い線となった艦影が写っている。
前回ミラサネルを急襲した時と同じ密集陣形は、直前まで魔導艦の幻術コンシールが効いていたのだろう。
その前後のタイムラインには艦隊を見つけていない。
「そうですね。補給艦以外は同じ向きでしたので、進路はそちらと思って間違いないでしょう」
アイカが画像横に出していたマップを縮小し、スケールアウトするとラウメン大陸の西端が入ってくる。
そこに帝国が補給港を作り運用しているのだ。
進路予想の線を伸ばすと、きれいにそちらを向いているように見えた。
「ラマディン=ラカン・ラマンの海峡を通らなかったし‥‥これはここに向かっていると思ったほうがいいね。偵察機を出しつつ、近くまで行ってみよう」
ジュノも考えてそう提案した。
なにしろゴマ粒のような艦艇の影は無数と言っていい数を確認できたから。
空母かも知れない大きなものだけでも4~5隻いるのだった。
恐らく帝国海軍の全戦力ではないかと予想した。
「了解‥‥一旦海まで行って、潜りなおそう」
『りょうかい!』
ヴェスタの号令で3人で動く、いつもの流れだった。
――ヴァルサール帝国報道 NEWS
『本日、ラウメン聖王国とミラサネル共和国による合同艦隊演習「RIMLAM」が開催されました。今回の演習では、防衛および災害支援を想定した各種訓練が実施され、周辺各国からも多数の視察団や報道関係者が訪れています‥‥』
先日の鎮魂祭の後に完成を見たミラサネル新設海軍と、ラウメン聖王国聖騎士隊で合同の艦隊演習が行われた。
あくまで防衛と災害支援行動の演習だと銘打って、各国からも観覧者と記者を招き執り行った。
RIMLAM(環ラウメン大陸合同演習)と名付けられたこれは、恒例の行事として案内し、次回からはと周辺国にも参加を促していた。
ヴァルサール帝国以外の国に向けて。
ラウメン聖王国からは旗艦ヤオンスラウミナスの他に、新たに換装を終えた2号艦マーサスルディアも巨大空母となった姿をお披露目した。
ラウメン聖王国は、その他艦艇を20隻連ねた全海上戦力を投入した。
ミラサネルからも新旗艦ノヴァミラサネルが、全長300mを越える勇姿を見せ参加した。
それは少し聖王国のものより小さいが、空母の形状を取っていて、STOL機を8機だけ艦載していた。
本国ではもう少し、航空戦力を揃えているのだが、空母に離着艦が出来るパイロットの数が8人しか確保できなかった。
8名中7名はイーシヤンの秘蔵っ子、シャイラ達だ。
最後の一機は鮮やかな青に塗られた隊長機。
他が白に青いラインなのに対して反対の配色だ。
同じ青一色のパイロットスーツに身を包んだのは、グラマーな女性パイロットだったという。
ミラサネル兵達の敬意を集めるこのパイロットは、人前でヘルメットを取らず、詳細は伏せられた。
ただし、たなびいた金髪と合わせて、その正体に期待と敬意をこめた熱い視線を向けられていたという。
伝説の英雄が再び降臨したのだと。
ハーグリーブス大将は護衛艦隊の旗艦となった新造艦エルダヴァスカの艦橋で歯噛みしている。
「どこが災害支援なんだ?これは軍事演習‥‥それも対空母艦隊戦向けではないか」
先日行われた環ラウメン大陸合同演習の様子を収めたニュース映像を見ていた。
画面の中で飛行する聖騎士隊の航空機が、空母からスクランブル発進をかけ、上空で編隊を組むまでが映される。
その後、隊を崩して分隊ごとに水平攻撃、垂直降下攻撃と次々デコイ艦艇を攻撃する。
ペイント弾らしき弾体はデコイの船を次々と捉え真っ赤に染めていく。
船は危険度の高い海洋生物に見立てていると説明があった。
そうして緊急発進から対艦攻撃航空隊としての運用を見せられた。
その後には逆に護衛艦が飛行してくるデコイ機体を、針山のような多数の高角砲でとらえペイントする様も映っていた。
危険な飛行生物の妨害を想定していると説明には有った。
たしかに惑星アルドゥナには数百mもある捕食生物や、翼長20mにもなる巨大な猛禽類がいる。
それらを本当に想定していないのは、徹底した攻撃・殲滅の様子から解る。
「ミラサネルに空母を持たれたのは、本当にまずい‥‥」
それは帝国の技術がなくても空母を作れるという証明でしか無く、外交上の帝国の立場を弱めることとなるだろう。
ハーグリーブスは外向きには政治は疎いし興味がないなどと宣しているが、実質は外交官が務まるレベルで国際情勢を把握している。
そうでなければヴァレリー宰相の信は得られないし、アストレア皇帝から軍を任されることもない。
白紺の聖騎士隊機体にまじり、ミラサネルの青い航空機も戦果を上げている様子が映し出される。
(我らの新鋭機アリミアンフュより、少し大型だが‥‥同等の機動を見せるな‥‥)
航続距離を稼ぎ、大洋上で航空機を運用できる航空母艦の価値は高い。
そこよりもハーグリーブスは航空機の性能と、パイロットの練度に舌をまいた。
離着艦もだが、攻撃行動に無理や無駄がない。
(そうとう訓練を重ねている‥‥)
ハーグリーブスは、自身でもテストパイロットとして航空機開発に参加していたこともあり、帝国で最も航空機の性能と価値を知る将官でも有った。
今回の聖王国の使者護衛任務は、実質RIMLAMに対抗した示威行動ともいえる。
それ以上を見せられないのなら、する価値がないのだと、ハーグリーブスは歯ぎしりするのだった。




