【第663話:はじまりの神殿】
午後に入ると、ヴェスタ達3人だけで少し打ち合わせをする。
その間にアイカが指示を出していて、ストレージにシフト収納して持ち込んでいた素材を使い、残りのメンバーで建物を作る。
スパイラルアークとスパイラルアークⅡには様々な素材が大量に収納されていた。
これは先日もウルヴァシャックに作ったが、拠点を作ると土や石などの素材が大抵余るから。
掘った分が使う分より多いので、適当な所で出力したり、酷いと捨てていた。
ウルヴァシャックの難民キャンプ向けに、木材をほとんど使ってしまったので、残っていた石材メインだ。
組成を整えて出力し、パーツは真っ白い艶のある石製になった。
「アイちゃん達よろしくね!」
パーツを出力しているルクールを、ルニーアとユーリアが手伝い整理する。
それをアイ達4人が組み立てて行くのだ。
事前にアイカが測量し設計した、祭壇を覆って守る建物を。
使う一方で足りなくなる分は砂をマインビームで吸い込み、ガラスとして出力する。
これはどんなに頑張っても石材ほどの強度はでないので、石材で骨組みを組んでガラスで壁や天井を埋めるようになる。
そうして祭壇の周りが等間隔に掘られてドーナッツのように円になった。
ルクール達の保護スーツに標準装備されているマインビームは、吸い込むだけではなく設計した形に出力することも出来る。
そうして式神七式やスヴァ―レイクのシフト収納に小分けして持ってきた素材を使い建材を出力していた。アイカのひいた図面をAR表示で立体に表示し、そこに出来上がった材料をはめ込んでいく。
基礎から壁と天井を支える骨組みを建てて、そこにコンクリートより軽く強度のあるガラスがはめ込まれていく。
厚さ5cmはあるガラスは、軍用小銃の高速弾程度は弾き返す。
このガラスを割ろうとしたら、20mm以上の口径が必要となる。
テキパキと真面目に出力に専念するルクール達と、こういった組み立てに慣れているアイ達はあっというまに建物を完成させてハイタッチ。
ぱぱちんと伝統の合図と共に7人の笑顔が咲いた。
『かんせー!!』
わーいとぱちぱちんとあちこちでハイタッチが交わされるのは、なにかスポーツの試合のようだ。
気の利くユーリアがアイ04と二人で濡れたタオルを準備していて、みなにくばる。
「おつかれさま。顔から使うのよ」
ユーリアが手をふこうとするアイ03を止めて、順番にと指導する。
「うーん!生き返るよ」
「冷たくて気持ちい!ありがとうアイちゃん」
ルニーアとルクールも気持ちよさそうに汗を拭った。
こうしてみんなで何かを作る楽しさを久しぶりに味わい、ルニーアは目を細めた。
あのアウステラの過去に、色のついた子供たちと街を造ったのを思い出していた。
アイ達はごしごしと顔と手を綺麗に拭いて、気持ちよさそうにする。
今日はいっぱい運動したなと話し合うアイ03と02は、仕事をしている感覚が薄い。
薄っすらと金色の光りを内側に宿した、マジカルホームと同じくらいの大きさの正六角形をした神殿が鎮座した。
入口の左右に突き立てたプラズマランスの先に、白いバナーが風に揺れている。
シンプルな形だが、厳かさを宿すガラス細工の平屋造りで、小さめの一軒家ほどの大きさに成った。
「思ったより大きかったね!」
ユーリアはルニーアと話をしていた。
「とっても綺麗な建物‥‥ステキだわぁ」
ルニーアがうっとりとルクールに腕を組む。
「本当だね、なんだか神聖さを感じる‥‥女神ヴェルニア様の像のよう」
それはルクール達を作った文明が信奉していた女神の名前。
惑星アウステラの各地にその像や神殿が残っていた。
祭壇に置かれた金のカップからは、尽きること無く透明な水が溢れ出す。
その水を導いて細い川とし、建物の外に導く水路も白い石材で作られた。
祭壇の左右を流れて外に出る姿は、あのラウメン遺跡の神域を模したものだ。
ガラスのために周囲を掘り下げて、少し周りより高くなった丘のようになっているので、その周囲を湿った土地が円形に囲った。
砂は幾らでも水を吸い込むのだが、ある程度吸い込むと固く締まり水をたたえるようになっていく。
神殿のある丘を取り囲むように、すこしづつ水が溜まっていくのだった。
「ここはあの、オアシスの町オンディーヌみたいになるのかも」
アイ01は小さな水たまりになってきた水の行方を追い、ふと砂漠で出会ったミスティの事を思い出す。
最後に見た時は寝不足で不健康そうにしていたなと、眉を下げてしまう。
「どうしたの?」
同じように眉を下げたアイ02が、浮かない顔のアイ01を心配し手を取った。
「なんでもないよ!」
そういってにっこりと笑顔に戻すアイ01を見て、アイ02も笑顔を取り戻すのだった。
アイ01は後でアイカに聞こうと思い、ミスティのことは一旦しまい込んだ。
あの綺麗なオンディーヌの様に、ここもなるといいなと思い、あとで花を植えたいなと考えながら。
マジカルホームの中で打ち合わせていたアイカ達が出てくる。
「すごい!きれいだよ見てヴェスタ」
ジュノはたたたと駆け出して神殿を見に来た。
「すごいよ!みんなありがとう」
そう言ってジュノは妹たちの頭をぽんぽんと漏らさず全員叩いていく。
7人も妹がいると、公平に可愛がるのはなかなか大変かもと思いながら、満面の笑顔になるのだった。
ジュノのまわりにルクール達とアイ達が群がって、頭を叩いてもらいに来るのだった。
がんばったでしょ?と見上げてくるかわいい妹達を、ジュノは等分に撫でるのだった。
「完璧です!すばらしいですよ」
アイカもルクール達とアイを褒める。
設計したのはアイカだが、組み立ててくれた事を喜んでいる。
イメージしていた以上に美しい神殿には、とある気配が濃厚に満ちている。
それはあの祭壇やモノリスからも感じていたもの。
(‥‥これは女神ラウマさまの気配だ)
かつて一度ヴェスタ達と共に生命を救われ、彼方に居られると感じている気配が、溢れ出す水やモノリスに宿っていた。
それは降臨した女神ノアの気配とは明らかな違いが有り、巫女たるアイカが身間違うはずも無いものだった。
アイカが愛佳から受け継いだ巫女としての能力が、胸に抱いたオレンジの枝と共に、宿す気配をも抱きしめる。
アストラル・プロジェクションの能力には、すべてが黄金に輝く光に包まれているように見えるのだった。
「ここは聖地となるのです‥‥」
半眼になり厳かな表情で、アイカは誰にともなくつぶやくのだった。
そのアイカやジュノ達ごと見渡したヴェスタの胸も熱くなる。
そこにこめられた祝福は、巫女ではないヴェスタにもありありと感じられた。
温もりや柔らかさを空気からも感じ取れる。
ぽんとアイカの肩を抱き、ヴェスタがつぶやく。
「ここから始めるのよ」
にっこりと笑ったヴェスタには、もう一筋の影すらなかった。
アイカにはその透明な笑顔が眩しく感じて、頬を染めてしまう。
今日のヴェスタはとっても綺麗だなと。




