【第662話:ひさしぶりの笑顔達】
「これはなんだろう?アイカわかるの?」
ヴェスタが祭壇の後ろに浮いて、くるくるとゆっくり回る金色の柱を指さす。
アイカは思い出したり、考えるまでもなくそれを知っていた。
「不思議です‥‥そのモノリスの知識がアイカの中にはあるのです。まるで圧縮送信されたファイルを、解凍しインストールしたように‥‥」
その知識は独立したものとして、アイカの頭の中にあった。
あの瞬間、女神ノアに告げられるとともに、アイカの中に湧き上がってきたもの。
「簡単に言ってしまえば、祈りを集める装置です‥‥不敬かも知れませんが、そのように説明されているのです」
装置と聞いてヴェスタの表情が芳しくないので、慌てて付け加えるアイカ。
ヴェスタは、はっと気付いてふるふると首を振ると、笑顔に戻す。
それはいつものあまり上手だと言えないヴェスタの笑みだった。
アイカはむしろ安心できて、にっこりと笑い返して続けた。
「一定の範囲‥‥これはもう星の大きさを越えますね‥‥遠方からでもラウメン聖王国の為に祈れば、この装置がエネルギーに変換するようです。用途は‥‥変更できませんね。先程見たとおりです‥‥水を満たし、植物を育てる。今この砂漠にもっとも必要な力です」
ヴェスタも目を丸くして驚く。
「実はここに国を作ろうと考えていたの‥私達だけの国を‥‥スパイラルアークとスパイラルアークⅡだけの国よ」
今度はアイカが驚く。
その考えは初めて聞かされた。
「ごめんね‥‥まだ何も方策もないし、落ち着いたら相談しようとは思っていたのよ‥‥女神さまは私の考えもご存知だったのかしら?」
そのモノリスは、あまりに都合がいい贈り物だった。
にこりと自然な笑みになり、ヴェスタは告げる。
「ラウメン聖王国を作って、帝国に対してミラサネルとアヤンタから手を引くように、外交しようと考えていたのよ」
すっきりした笑顔で、とんでもない事を言い出すヴェスタだった。
それにしても都合がいいと、にっこり綺麗な笑みに戻してモノリスを見るヴェスタ。
黄金のモノリスは重さを感じさせず浮かび、音もなくゆっくりと回転する。
回りながら陽の光を照り返すので、きらりと時々光って見える。
恐らく正多面体の断面を持ち、縦の辺は頂点と底で斜めに曲がり中心で収束している。
アイカもうーんと考えてから、くるくるし続けるモノリスを見ながら、説明の捕捉をする。
「これはわたし達の扱う常識の、ずっと先にある技術です。その仕組を理解することは叶いませんが‥‥使い方は分かります」
そういったアイカはヴェスタに視線を戻し告げる。
「詳しい機能はみんなにも説明するので、まずはご飯にしましょう。ちょうどお昼ですよ!」
にっこりと微笑んだアイカはもう巫女ではなく、いつものアイカだった。
一列に並んだアイ達とルクール達。
ジュノは気になるのか、ユーリアの手を引いて並び順を変える。
左から身長順に並べ直した。
といってもルクールとルニーアは同じ身長だし、アイ達4人は1mmも差がない。
そうしてルクールとルニーアがアイ達との間にユーリアを挟んだ。
「うん!これでいいね。一列に並ぶ時はこうだよ」
軍隊式の整列を仕込むジュノだった。
ぴしっと敬礼を続ける7人に、軽く返礼してから号令する。
「休め!」
ふにゃんと7人の身体から力が抜けた。
くすすとジュノは笑って、やすみすぎだよぉと怒ったふりをする。
あははとアイ02とアイ03が笑って、みんな笑みに変わるのだった。
「今度ちゃんと練習しようね。この先きっと必要になる」
身体で軍隊の整列や行進を覚えると、機動兵器に乗っても自然と出来るものだよと、ジュノが教えていた。
「‥‥敬礼も新しいのを考えよう!銀河連邦軍の敬礼はイヤだよね?!」
うーんとアイ達もルクールも困った顔になる。
「ジュノを真似しただけだもの、他のを知らないよ?」
ルクールが代表して意見する。
「あそっかぁ‥‥じゃあわたしが考えておくね!」
ぞくりとユーリアは嫌な予感がする。
「そうね!アイカやヴェスタの意見も聞かないとね!」
んっとなったジュノも、それもそうかと考え直してうなずいた。
ほっと、こっそり息を漏らすユーリア。
ジュノが考えたら、きっとすごい敬礼になりそうだと心配したのだった。
組体操みたいなのが出来上がるに決まっていると。
ヴェスタとアイカが止めてくれるのを期待する。
なにしろジュノは、人型機動兵器の頭に腕を付ける発想を持つ人間なのだ。
一旦祭壇を含んで再び防御陣地を構築し、隠蔽のためアイカの幻術で透明化した。
つまりまたマジカルホームに変形したのだ。
アイ達の式神七式が持ち、頂点にさしかわしたプラズマスピアーから、ひらひらと長いバナーが風に揺れていた。
「マジカルホーム=ラウメン聖騎士団スタイルよ!」
そうしてバナー付きのランスはアイ01と03の装備として、レギュラー化するのだった。
にっこりといい笑顔のアイ達とジュノは、うっとりとバナーが風になびくのを見つめていた。
アイカとルクール・ルニーアをユーリアが手伝い、食事を準備する。
その間はジュノとアイ達で行進と整列の練習。
アイ達は魔力リンクでも接続しているので、完璧なシンクロを見せてくれる。
「うますぎて草はえるのだがww」
ジュノは教えることがなくて大笑い。
小銃のようにレールガンを捧げ持ち歩く、小さな兵隊さんの様で可愛らしいアイ達を、アイカもちらちら見てくすくす笑っていた。
この所見せることが少なくなっていた、本当のアイカの微笑みだった。
ヴェスタも何か調べ物なのか、アイカにプリントしてもらった資料を広げながら、そんなチームの様子にこれも笑みを浮かべた。
こうして久しぶりに本物の笑顔に満たされる事ができた。
(これも女神さまのおかげだわ‥‥こうして笑顔で生きて行きたいな)
にっこりのヴェスタは、ちくりと胸が痛む。
少しだけ昔のことを思い出したから。
――もう大丈夫。その笑顔がきっとヴェスタを幸せにしてくれる。
そんな恩人の言葉を思い出し、今の処遇を心配していたのだった。
(せんせい‥‥今どうしているのかな)
思い浮かべるのは、肩を抱かれて微笑みあった日々だった。
今と同じように何の不安も無くなって。




