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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第10章
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【第656話:メーナの勉強出来ないノート】

 大人たちはとても忙しそうにしている。

メーナは勉強していなさいと拠点に残されたのだが、これは見張りとしての任務でもあるのだと、マナミには言われていた。

「つまんないな‥‥」

新しい情報としてウルヴァシャックで仕入れてきた本を渡されていて、積み上げてあった一冊を開いている。

半日もすると退屈になり、お昼にリーベとマナミが戻ってきたが、食べたらすぐに出かけてしまった。

どうやら食事にも、寝る所にも困っている人たちを助けているのだと、メーナにも解るのだが退屈に感じていた。

「こうして留守番させられるのも久しぶりだな」

惑星アウステラでの戦いの日々でも、拠点や母艦に残されて何度も留守番を経験していた。

最初はアイ達の誰かがお目付け役として残っていたので、遊んでもらい退屈しなかったが、戦闘が激しくなるに従って一人の時間が増えた。

その時間をメーナは式や魔法の訓練に当てていたので、アウステラでは最終的に戦場に出ることを許された。

 食後にお昼寝も済ませていたので、さすがにこれ以上は寝れないしなと、ダイニングに座り足をぷらぷらしながら興味を持てない本を眺めていた。

リステルが準備した本なので、読めばきっと面白いのだと解っているのだが、その気になれなかった。

式を飛ばしたり、魔法を使うのも禁じられているので、以前のように時間つぶしで訓練とも行かない。

「そうだ!アストラル・プロジェクションを練習しよう」

メーナにその力があるとバレてから、アイカに相談したマナミに実際にアストラル・プロジェクションの入り方を学んだのだった。

アストラル・プロジェクションでも魔力を使うが、魔法として行使しなければ魔力の流れを捉えられることはないだろうと考えた。

何よりマナミから「魔法も式もダメ」と言われたが、アストラル・プロジェクションもダメとは言われていない。

いつもマナミの言葉の表層しか見ないのは、メーナにとって都合がいいからだ。

 るんるんと突然ごきげんになったメーナは、さっきまでお昼寝していたリーベとの二人部屋に走っていく。

この新しい拠点は将来整える予定でとても広いので、なかなかの距離を走った。

「はぁはぁ」

アウステラの戦場で鍛えられたのだが、所詮8歳程度のこの身体では大した距離を走れなかった。

飛んだほうが速いし楽なのだが、長いアウステラでの高重力生活で、すっかり飛ぶことを忘れていた。

ぼふっとベッドに飛び込むと、リーベの匂いがして幸せを感じる。

「ママの匂いはおちつくな‥‥」

うつ伏せでマクラに顔を埋めたメーナはくんくんと匂いを嗅いでいた。

くりっと仰向けになるとお腹に両手のひらをあてる。

目を閉じて瞑想にはいった。

「よし!がんばろう」

きりっとしたメーナが、これが手順として落ち着くよとリーベにアドバイスされていた、魔力制御の式を思い浮かべる。

実際に魔力を動かすと、帝国の魔法士に感知される恐れがあるからダメと言われている。

ただ脳裏に暗記している式をだらだらと流していく。

まだ一人で出来たことがないのだが、リーベやマナミに呼ばれて二人の精神世界には入ることが出来た。

「うぅん‥‥」

一通り式を思い浮かべ終わっても、さっぱり瞑想に入れなかった。

「ママとした時はわりとすぐ入れたのにな‥‥ママの手は暖かかったな」

そんなことを思いながら手のひらに集中するのだが、なかなかアストラル・プロジェクションに入れなかった。

そうしてうんうんとしている内に、すやっと寝てしまうメーナ。

リーベの匂いにも安心してしまったのだ。


「あれ?!」

ぱちと目を開けたメーナは、自分が異世界にいることに気づいた。

どこまでも広がる灰色の大地は果てがなく、メーナにはわからないが地平線が円弧にならないので、平面だとわかる。

空は漆黒で、これらの環境にメーナは心当たりがあった。

「月にいる‥‥」

それはとても淋しい記憶とセットなので、一人で居ることが辛く感じた。

「ままぁ‥‥」

きょろきょろと見回すと、中天に青い宝石のような丸がある。

満ちたアルドゥナだ。

そこにはかつていやほど見つめ続けた姉妹の姿。

メーナはかつてアルドゥナの月だったのだ。

意識を持ってから数ヶ月ずっと一人きりで淋しく、この姉妹たるアルドゥナを見つめ続けていた。

「どうしてそんなに遠くにいるの‥‥」

ずっとそう感じていた距離を、悲しく感じるメーナ。

あの当時も学ばずともメーナはアストラル・プロジェクションを使っていた。

アルドゥナをもっとよく見たいと願い、心の手を伸ばす術を身に付けていたのだ。

両手を伸ばし、アルドゥナを掴もうとすればすうっと視界が青い星に近づいていく。

ここはメーナの精神世界で現実の月ではないのだが、メーナには分からず、ただ淋しいという気持ちをふくらませていた。

少しでもそばに行きたいと心の手を伸ばすことで、精神体をアルドゥナの軌道にまで投射していたのだ。

手に触れることはなかったが、青い星を身近に感じられたのだった。

 今もそうして近づこうと無意識にアストラルを動かすが、この精神世界のアルドゥナは大きくなったりしなかった。

「おかしい‥‥全然近づかないよ」

そこまできて、これは過去の自分ではないと気がつく。

見下ろせばちゃんと今の身体が有り、ちんまりとした手のひらの下にぷらんと足も見えた。

足のずっと先に真円の灰色がある。

「あそこから来たのかな?飛んでいる?」

メーナは飛ぶことに違和感がない。

そもそも身体を持った当初から、自由に飛べたのだ。

それは重力制御の技術に似ていて、魔力を動かさないで飛ぶので物理的な技術だろうとマナミ辺りは言っていた。

メーナは人が呼吸し歩くのを意識せず出来るように、空を飛ぶことが出来る。

最初から無意識に飛んでいるので、説明しろと言われても出来なかった。

うーんと腕組をして考えるメーナ。

これはよくアイ03がしている仕草で、遊んで真似ている内にメーナにも身についてしまった。

そうしている内にメーナはこのアストラル・プロジェクションの中でも眠ってしまう。

ふわふわと宙に浮いたままいつのまにかすやすやと寝てしまう。

 その瞬間に心がどこにあるのかは定かではないが、本体である身体はベッドで寝息を立てている。

その表情は抜け落ちているが、時々にんまりするのは何か楽しいことを夢に見ているのだろう。

そうして寝ていると、年齢通りの可愛らしい女の子でしかなかった。

だれもその内面を知ることは出来ない。

メーナが母とも思うリーベにも見せないから。

ただアストラル・プロジェクションで触れ合ったリーベやマナミは知っている。

そこに幼さは有っても、悪意はないのだと。


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