【第655話:たのもしい協力者】
マナミがシャチ型潜水艇で一人向かったのはカルサリク。
乗機の式神七式ではなく、こちらで来たのは座席の問題だ。
式神は単座なので、客人を乗せられない。
今回の任務は人を連れ帰ることだから、タンデムだった座席に補助席も出してマナミの他に二人まで連れ帰れる仕様で出てきた。
「シートを前にずらしたから狭いわね」
マナミの身体は成人男性よりも大分小さいので、操縦席を前いっぱいに動かし、後席を下げて間に補助シートを入れている。
載せる予定の体格データはあったので、こちらもぎりぎりに整えて3人乗りにしてある。
操縦自体は式で制御しているので、姿勢は問題ないのだがパーソナルスペース不足で、居心地が悪いのは感じていた。
「まぁ、今回のミッションの間だけと我慢するしか無いわ‥‥丁度いい機体を今度作っておかなきゃ」
このシャチ型潜水艇は、機能を第一に設計されているので、居住性は考慮されていなかった。
もともと乗員2名と作られている。
「そのかわり、この静粛性と速度を両立させている所はさすがのアイカね」
快速でウォーターポンプが吐き出す水に押し出され、潜航したまま60ノットを超える速度が出ている。
これで静粛性を捨てれば更に加速できることもマナミは把握していた。
「もう河口についた‥‥なんとか夜明け前には戻れるかな」
タイムスケジュール的には少し余裕を残してカルサリクについたマナミだった。
市街地を越え森に近いあたりにマナミは上陸地点を設定していた。
海岸線側にはずっと道路もあるのだが、人気も多い。
上陸して船体を固定しマナミは船体後部のハッチから船外に出る。
「さて、ここからがミッションみたいなものね」
なにしろ式を飛ばして探すわけにも行かないので、事前の打ち合わせなしで探すのは大変だった。
連絡取れるようにと、宿泊先を聞いてあるのでそこまで行けば話ができるなとも考えていた。
潜水艇のシフト収納から取り出してきた、小型融合炉や各種センサーと動力用のモーターを地面に並べるマナミ。
これから移動用の足を組み立てるのだ。
マインビームを振りかざし部品を出力していけば、10分もかからずに3人乗れそうな小型自動車が組み上がった。
屋根はないが、風避けのクリアフェンダーは付いた骨組みのような4輪車。
3人を輸送する最低限のアッセンブリーだ。
合理的なマナミの設計思想は、アイカの美意識ベースの潜水艇と風味が違った。
座席は前に操縦席、後ろはベンチシートだ。
「完成!ふふんわたしもなかなか組み立て上手になったわ」
にんまりと満足のタイムで組み立てたマナミだった。
この車の設計は移動しながら図面におこしていた。
3D図面を引いておけば、あとは自動で部品が出力出来るから、短時間で車を準備できる。
融合炉などの複雑な部品は事前にスパイラルアークⅡで組み上げてあった、予備パーツから漁って持ってきていた。
その部品で動かせる最適解を形にしたのが、この骨組みの車だった。
ぶぃぃと快速で街を目指すマナミの車は電動で動くので、本来はもっと静かに走れる。
この時代でも最先端の内燃機関っぽい音をフェイクでまきながら進むのだ。
こうして移動の足を緊急で準備したマナミ達だった。
来た道を正確に戻り、リステル達の後を追って森まで来たマナミ。
「ごめんね狭かったでしょ?迎えがすぐ来るからね」
そう言って後部ハッチを開放し、客人をおろすマナミ。
この潜水艇は短時間なら重力制御で飛ばせるので、川べりの空き地に上げていた。
「平気よ、お手間おかけしたわねマナミさん」
そういって下りてきたのはスフィーラ・サルディア。
ナラインの娘だ。
「お嬢様お手を」
先に飛び降りていてスフィーラを下ろしたのはセイラシュ。
ナラインの副官だったセイラシュは、幼い頃からスフィーラを知っていた。
スフィーラは仲の良い親戚のおじさんといった雰囲気だ。
二人はマヤカランからルクールを引き上げる際に、協力を申し出てくれて連れてきている。
もともとセイラシュは回収していく予定だったので、スフィーラもいれてルクール達の回収時に合流していた。
「カルサリクは一旦私の式で監視することにして、こちらを優先するのがリステルの方針です」
真面目な顔に戻してマナミが言う。
二人には先んじてカルサリクに潜入してもらい、情報を集めてもらっていた。
スフィーラには街の人に混ざり込み、住人の状態を見てもらった。
セイラシュはこそこそとだが帝国軍の軍事施設をまわり、戦力の把握と注意の方向性を探ってもらった。
ずっと似たようなことをしていたので、得意ですよとセイラシュは取り組んでくれていた。
今回の回収ミッションに合わせて、代わりとなる監視用にマナミの式をカルサリクの重要な位置に仕込んだ。
行政府、帝国の駐屯地と港だ。
二人とも想像以上の働きで、詳しくは後ほどという中、マナミの知りたいことはだいたい移動中に教えてくれていた。
「幸い二人の持ち帰った情報から、今回の難民達には監視はないと判断できるわ」
にっこりとマナミが言う頃、しゅんと光学迷彩を解いたスパイラルアークⅡが着陸してくる。
「おぉ‥‥これが‥‥」
「すごい‥‥本当に飛んでるわ」
二人ともかなり驚いてくれる。
さっきの潜水艇も飛ぶのを見たが、視界を圧する宇宙船の大きさは初めてだった。
「かつて見た使徒様の乗り物よりも大きいですな」
セイラシュはアヤンタ海軍時代に、ヴェスタ達のVTOL機を見ていて、こういった機械が在るとは知っていたが、スパイラルアークⅡは数段上の技術だ。
音もなく静かに着陸した船体下部の、第一格納庫が開きスロープになる。
潜水艇を回収する工程だ。
とととっとスロープを小さな女の子が走ってくる。
「おかえりーまなみ!」
ながい銀髪をゆらしてマナミのそばまで来るのはメーナだ。
「ただいまメーナ。いい子にしていた?」
ずっと退屈だった拠点の手伝いから解放されて、楽しそうに走ってきたメーナ。
ぽふっとマナミに抱きついて、初めて見る二人に警戒のまなざし。
「この人たちはだれ?」
ぽんぽんと頭をかるくたたいて、マナミもにっこりとした。
「ちゃんと説明しておいたのに、眠かったから聞いてなかったな?」
明け方のこの時間には、移動中にすぐ寝たメーナは元気に目覚めていた。
「き、きいていたよ?」
聞いていなかったが、そういうとマナミが怒ると思ってメーナはごまかす。
もちろんマナミにはお見通しだが、怒る必要がなければマナミも十分メーナに優しいし甘いのだった。
なにしろメーナは、アークⅡ唯一の子供枠だったから。
「紹介するわね、この子がさっき話ておいたメーナ。あっちが姉のリーベよ」
そういって指さした先では、操縦室に近いハッチを開けて階段を展開し下りてくるリーベ。
「はじめましてお二方。マナミの姉のリーベです。ようこそスパイラルアークⅡへ」
そういって丁寧にお辞儀するリーベは、マナミよりもヴェスタ達聖王国の雰囲気を纏っている。
「ご丁寧にありがとうございます。スフィーラ・サルディアです。ナライン・サルディアの子で、ヴェスタ様達は幼少時より存じ上げてましたわ」
リーベのお辞儀角度を越えて頭を下げたスフィーラ。
セイラシュも隣に倣っている。
顔を上げてスフィーラはにっこりと笑う。
「アイカ様と本当にそっくりなのですね。ご姉妹とはお聞きしておりましたが」
そう言って握手しているスフィーラとリーベ。
セイラシュも帰還の挨拶をしているのを尻目に、腕を組むマナミ。
「‥‥わたしは似ていないのかしら?」
髪は後ろでくくっていてもマナミも全く同じ容姿だが、中身が似ていないと気付かないマナミだった。
首をかしげる姿は、その横で同じくこてんとしているメーナとよく似ているとも自覚がなかった。




