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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第3部 第10章
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【第654話:遠慮する心と支えたい気持ち】

 どういった形で難民を支援すべきかは、別れる前にヴェスタ達と詰めてきていた。

今後の動きの布石になるので、リステルは人選から相談し、最終的な方向性を決めてもらった。

「フライングに成りますが、内々に国としてしていることにしましょう」

最終的にそのアイカの意見にヴェスタも賛同し、実はと頭に入れてラウメン聖王国の名を出すつもりだ。

リステルとしてはミラサネル国内の有志が、とするつもりだった。

「ここでミラサネルの名を出して万一帝国にもれたら、どんな仕打ちがミラサネル共和国にふりかかるかわからないよ」

そう言って、ジュノにも真剣な顔で止められた。

もともとそれを憂いて聖王国の名を出すつもりになったのだ。

ミラサネル共和国でもアヤンタ王国でもない者のしわざですよと、帝国に示そうと決めたのだ。

 ヴェスタとしては女神たちに許しをもらってからにしたかったのだが、それでは飢えて死ぬものが出るだろうとリステルは懇願した。

そうして即応で難民に手を差し伸べることにした。

「じゃあマナミ‥‥お願いね。気をつけて」

スパイラルアークⅡに戻りながら4人で、今後の打ち合わせもした。

難民たちに説明する代表者が必要だと。

あくまでヴェスタ達が居るとオリジナルには伝えず、代理を立てることにした。

マナミを通してリステルもオリジナルに把握されているので、このアークⅡチームにはメーナしか顔を知られていない人間が居ない。

さすがにメーナに代表者は無理なので、代理の人間を準備したいのだ。

幸いリステルには当てがあり、具合のよいことに近くにいる。

それはアヤンタ王国から力添えのためにと来てくれた人たちだった。


 そういった事情で相変わらず裏働きに徹するリステル達は、フルコンシールしたスパイラルアークⅡで最初に遡行した河と別にある、南の農地に水源として使われている河を遡行する。

こちらも水量も河幅も十分広いのだが、森の手前で大きな取水用の大きな堰があるので使わなかった。

「下流域の水量ならこちらの河の方が多く、河幅水深ともに十分ですね」

アークⅡを操るリーベが言う。

夜が明ける前に荷揚げしてしまおうと計画し、急きょ砂州に沈めていた母船で川上りさせる。

収納状態で全長50mとコンパクトなスパイラルアーク型は、展開しなければ浮上しないままでかなり上流まですすめた。

「二度は使えないルートになるからね‥‥大きめの拠点を作ってしまおう」

コパイ席のリステルはそう言って、図面を引いている。

本来はこういったインフラ関係はマナミがするポジションだが、今は人を迎えに潜水艇で単独任務中だ。

メーナは船に戻った所でダウンして寝てしまった。

もともと式神七式は、式と同じ様に動かせるので、メーナが寝たらリーベがそちらも操作するつもりだった。

 河を堰き止めて農地に引き込む水路に分けているので、湖まで潜航したまま進めないと、北に回ったのだ。

その灌漑設備の構造上、春先などの需要期には河の水位はかなり下がるだろうと想像された。

「拠点は取水設備の上流に作りたいね」

戻ってから低軌道の式が撮影した映像と、以前から積み上げてあるアイカのマップデータを参考に、仮設計するリステル。

「そうですね、アイカに教わった幻術魔法を使って、明るくなる前に抜けます」

リーベは間もなく堰が見えるので、幻術で可視光を制御する。

早口のようにコードがリーベの口から漏れ出し、黒にも見える濃い紺色の魔力が溢れ出す。

スパイラルアークⅡそのものを透明化する魔法だ。

事前に式を飛ばして確認してあったが、このAI達の魔法を現地の魔法士がいれば感知されるのだ。

まだ母船を見つかるわけにはいかないので、リーベの操る式を先行させていた。

ざばっとかなり大きな波を撒き散らし、空中に浮かんだアークⅡは完全に透明化している。

満月に近い大きな月が西の空にまだあり、煌々と夕方程度に辺りの闇を払っている。

その青白い世界に、音もなく舞い上がるスパイラルアークⅡ。

重力制御だけで飛べば、光学的には観測されない。

アクティブレーダーでもあれば欺瞞しきれないが、そこまでの監視は無いと見切っていた。

あの帝国海軍の魔導船や、従軍した陸軍には魔法士がいる可能性が高いので、戦時には出来なかったことだった。

「ふふ、今夜は満月だったのですね。メーナに見せたかったな」

月で生まれて、リーベの娘に成ったメーナは、この大きな月が大好きだった。

リーベは操縦室の後ろにある寝室にちらりと視線を送る。

「そうだね、今夜は雲も薄いからよく見える。動画をのこしてあげようよ」

リステルもそう言って外部カメラを操作した。

時々自分の事すら心配してくれる優しいメーナのことが、リステルも好きになっていたのだった。

「リステルは怒らないからな」と、その子供らしい腹黒さは幸い伝わらない。

純粋な気遣いなのだと感じている。




 なんとか夜明け前に上流の貯水池も越えた先に、見つけていた拠点候補地にたどり着く。

森の外はすっかり開発が進み人の手が入っているので、森の中に入ってから拠点を作る。

河から歩いて来れる距離に、いい感じの谷を見つけていた。

農地が切れた先の森は、山脈の裾野でも有りうねりを伴い山野を形成している。

河の西側にある、まだ未開発のその地域にアークⅡを隠した。

「拠点が完成するまで、このままだね」

リステルは心配そうにするが、リーベは自分の幻術に自信がある。

「ここなら人気もないし、万が一航空機に寄る偵察があっても見えないはずです」

そういってにっこり笑いながらも、二人がかりでマインビームをふるい、アークⅡの下を掘っていく。

直下に収納出来るスペースを作るとリーベが遠隔操作で修めていく。

荒削りだが、スパイラルアーク型を余裕で2隻収納できる穴を掘った。

天井は一旦幻術で塞いであるが、いずれナノマシン成形の軽量稼働ハッチを作る予定だ。

「丁寧にしたいだろうけど、ごめんね」

リーベがいつも拠点を整えてくれて、それを喜びとしているとリステルも知っているので、手のかけられない現状にわびた。

これは自分のわがままなのだと、リステルは自覚しているのだ。

「整えるのは後でいいんです‥‥きっとリステルは誤解していますね。私もマナミも拠点作りが好きなんじゃないのですよ?」

えっと言った顔で振り向くリステル。

信じられないと顔に書いてあるようだった。

いつも女優のようにコントロールされているリステルの、思考の伴わないあどけない仕草が、かわいらしいなと笑みを浮かべるリーベ。

「食事も家事も‥‥拠点を綺麗にするのも、ただ家族の笑顔が見たいだけなんですよ」

少し照れくさそうにそう告げて、赤くなった頬を隠すように作業に戻るリーベだった。

にっこり微笑んだリステルは、とても元気になる。

「さあ!明るくなる前に出発できるように準備しよう!マナミももうすぐ帰ってくるしね!」

ふふんとリステルは鼻歌まで漏れてきて、リーベもくすくすと笑い出すのだった。


(もうとっくに私達は家族なんだな)

それはマナミも含めた3人の気持ちだった。



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