【第649話:新しいタスクを】
カルサリクの街区をかすめて海に注ぐ大河がある。
大陸北山脈を水源にする大きな湖も有り、そこまで150㎞ほど河を遡行して水中から隠密を心がけ、ラウメン大陸奥地を目指すヴェスタ達。
水量は十分にあり深さもあるため、全長20mの人形機動兵器が武装したまま余裕をもって潜り抜けられる。
赤緑オレンジのラインが入る3機はアイカとヴェスタ・ジュノのスヴァーレイクだ。
今回は正式版のカラーで、白に近い薄い水色でルティル合金の地の色に、パーソナルカラーのラインが入っている。
ミラサネルでの海戦のように迷彩はしない、正装といった装い。
先頭はジュノで、頭を先にウォーターポンプの吐く水流ですいすいと進む。
「改装版はとても静かだね!」
このスヴァーレイクに至るまでに、潜水艇や式神を経ていて改良して来た。
「V2.02では、水中パックも本体もナノマシン利用で、流体力学的に進化しています!機体のまわりの水を重力制御で捉えて進みやすくもしているのです!これには‥‥」
アイカがほっておくとずっと早口で解説を続けそうだったので、被せながらすごいすごいさすがアイカだと全員でほめる。
「えへへ」
アイカはほめられると説明を止める習性があった。
近距離用にレーザーリンクの通信ができるので、いつものように全員のインカメラ映像が表示されている。
3機とも紺色の水中パックを装備して、静粛性を保ちながらも30ノット以上で水中を進む。
これに付き従う式神七式は全長が少し小さいが、15mほどあり6機が従う。
アイ01から04の朱色ラインが4機、ルクールの黄色とユーリアの水色で合計6機が従う。
こちらも水中用にハードポイントシステムで同じパックを背負っている。
このアイカ設計の水中パックは、本気を出せば重力制御とスーパーキャビテーションで300ノットを叩き出す。
今は静かに移動中で速度控えめだ。
200mほど遅れて青いラインの入った、リステルのスヴァーレイク。
ダイヤモンド編隊を組むのは3機の式神七式。
それぞれのパーソナルカラーを引いた3機は、マナミとリーベにメーナが乗っている。
ヴェスタ達とはレーザーリンクを開いていないが、同じプロトコルの通信なので、近づけば話せる。
コックピットには僚機達のインカメラ映像に囲まれて、中央に情報用のHUDがある。
そこにはいつもの姉妹+アイ達のアークチーム。
スパイラルアークⅡは4人チームの表示、合計14名の大所帯だ。
「アイちゃん達はこっちのチームだったのに!」
メーナはさみしくてそう主張する。
出発してからずっと騒いでいた。
アウステラではスパイラルアークⅡにいたアイ達と、すっかり仲良くなっているのだ。
声が聞こえたわけではないのだろうが、アイ01の式神がするりと減速し近づいてくる。
「ジュノから伝言。市街地を抜けたら速度上げるよって」
アークⅡのレーザーリンクに入ったアイ01が伝える。
インカメラの映像も表示される、ユーザフレンドリーなインターフェースはリーベの設計だ。
「アイちゃん!」
メーナが笑顔になって嬉しそうにする。
「ん、メーナもちゃんと付いてきているね。何か伝言ある?リステル」
アイ01の式神七式にもインカメラがあり、いつものアンドロイドボディで来ているのが分かる。
本来は式本体や、ミニアイのボディでも操れるのだが、現地でも便利だろうとフルボディのアイ01だ。
「問題なしだよ。メーナが淋しがるから時々来てあげてね」
にっこりと笑うリステルに、アイ01もうなずいた。
「うん、ママに聞いてみるよ。昨日小隊の規模が揃わないとジュノと話していたから、多分半分こっちに配属になるよ。メーナもうちょっと待ってね」
「うん!誰が来るのか楽しみ!」
ふふっと笑ったアイ01が、いつもの頼もしい表情に戻し、後でねと言って速度を上げた。
メーナはアイ達が来てくれるならいいと、急に大人しくなるのだった。
カルサリク北の湖に出来上がりつつある難民キャンプには、日々人が増えていく。
カルサリクだけではなく、サラディクから逃げてきた難民も合流しているのだ。
湖岸沿いにいくつもキャンプが出来ていて、全て合わせると2000人近い人数だろう。
森に逃げ込んだ人々がここに行き着き住み着いているのだった。
カルサリクから逃げてきた少年は、また一人で湖岸に来ていた。
最近は毎日のように、時間が在れば来る。
左右を見渡せば、見えなくなる辺りまで粗末な建物が並ぶ。
兄と二人で逃げてきたのだが、年齢の割に背の高い兄は大人に混じって働いている。
少年も手伝うと主張したが、あまり仕事をもらえなかった。
(はたらいている方が、いろいろ考えなくていいんだけどな)
大きな月を映した湖は広く、対岸は霞んでいる。
湖の奥は全て大きな山に覆われていて、こちらも左右に果てなく続いて見えた。
(ミルミラのお父さんは死んじゃったけど、お母さんは生きている)
近くに住んでいて、仲の良かった幼馴染の女の子もこのキャンプで見つけていた。
(ヴァシュのお母さんはここに来るまでに死んじゃったと聞いたけど、お父さんは元気だった)
そうして知り合いの家の状況を気にするのは、自分達と違い孤児になっていないのを羨んでしまうから。
人と比べて羨んではいけないと両親に教わり育ったが、少年は辛い逃亡の果てにあるこの生活の中で、女神の教えを忘れてしまう。
それは生きるので精一杯では出来ないことだと、子供ながらに考えてしまう。
大きな月は満月の青白い姿で地上を照らす。
湖面のさざなみも照らして、青い夕焼けのようにも見ることが出来る。
森の暗闇に慣れた目には眩しいとすら感じられるのだ。
そうして広大な自然に囲まれ、少年は寄る辺のない淋しさを覚える。
「おかあさん‥‥」
いつも隣で寝てくれた母を、思い出さない夜はなかった。
兄に話すと二人で泣いてしまうので禁句のようになり、誰にもその淋しさを伝えることも叶わなかった。
視線の先でさざなみが右から左に揺れていく。
「あれ?なんだろう‥‥さっきまでと逆に波が‥‥」
そうして見ていると、どこか遠くからごうごうと音が聞こえて、足元の湖岸に波が次々と打ち寄せてくる。
「わわわ‥‥」
靴を濡らしそうになり、下がった少年の視線の先にキラリと何かが光った。
青い光はどこか恐ろしげで、ひぃと息を漏らして少年はキャンプへ駆け戻る。
一人になってゆっくり泣けると思い来ていたのに、それどころでは無くなったのだった。
「危なかったです!」
アイカが慌てた声で告げる。
湖に入ってからも速度を上げて行こうと思っていたのだが、湖岸に明かりが見えて警戒するために止まり、式を一機VLSから飛ばして偵察していた。
暗視様に放った走査用青色レーザーを見て、驚いた少年がいたのに気づき慌てて戻したのだ。
びっくりしたのは少年だけではなかった。
可視光だけでは近づかなければ詳細がわからないのでどうしようかと相談する。
「ある程度規模も解ったし、ここは近づかないでおきましょう。まずは予定通り内陸に行くわ」
ヴェスタはそう判断し、一旦この湖岸の人々は放置することにした。
突発事態に、一旦深度100m程の湖底に集まり作戦会議中だ。
「あれ、多分カルサリクとかサラディクから逃げてきた人だよ‥‥困っているだろうね‥‥」
リステルは地勢と前後の事態からそう読み取り、悲しそうにする。
ウルヴァシャックでも同じ事があり支援しているが、こちらは規模がもっと大きく、なんの支援も得られていないだろうと。
「準備もしていないから、一度アークに戻らないと食料も無いよね」
ジュノは何が出来るかを考えてみたが、現状は無理と思う。
マナミと視線を交わしたリステルが言う。
「マナミと二人で対応する‥‥リーベとメーナを連れて行って」
リステルは勝手を言うのが申し訳ないといった雰囲気。
マナミもリーベとアイコンタクトして、うなずき合う。
ヴェスタ達も見交わしてからヴェスタが言う。
「わかった、アークの食料庫も使っていいよ」
スパイラルアーク達はカルサリクとアズラミールの中間にある仮拠点の砂州に隠してあった。
「ありがとう‥‥たすかるよ」
リステルは重ねて申し訳なさそうにするが、頑張ってねと皆にぽんぽん叩かれて、笑顔に戻した。
そうしてヴェスタ達はチームを分けて対応することと成ったのだった。




