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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第26章
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【第551話:あと一手ほしいから 】

微笑みの中でアイカは力を失う。

「アイカ!!」

腕の中にくずおれるアイカをしっかりと抱きとめたヴェスタは、共に腕を添えている仲間たちを見回す。

「ど‥‥どうなったの?!」

きょろきょろと見回すヴェスタはそこに異質な光景を見出した。

宇宙は先程から光に飲み込まれ星一つ見えない。

足元に雄大に広がっていたアウステラの巨大な地平すら、無音の光の中に消えた。

そこは明らかにヴェスタの知っている宇宙ではなかった。

そして左腕を絡めるようにしてアイカを支えているユーリアは、あのアストラル・プロジェクションの中で見た白と金の姿で、瞳から溢れる水色の光りに包まれている。

ヘルメットは収納され、そのままのユーリアを見せている。

いつの間にか保護スーツを押し上げる膨らみまでが、大きくなってヴェスタの腕を押し返す。

右をみればジュノの白い保護スーツの隙間からは、ユーリアを上回る青い光が溢れていた。

これらはヴェスタの保護スーツが展開している保護シールドの裏に描かれるVR映像。

あまりに強い光がヴェスタを焼かないように、仮想映像で描かれている。

それは可能な限り正確に状況を描いているはずだ。

ヴェスタはその画像を信じられずに居る。

「どうしちゃったの‥‥ジュノ‥‥ユーリア‥‥‥‥アイカ‥‥」

ヴェスタは急に心細くなる。

元通りなのは自分だけと感じて、この異質さに怯えていた。

「じゅのぉ‥‥こわいよ‥‥」

ぎゅっと抱き寄せるとジュノの光はすっと消えて、抱きしめる力が増える。

「ヴェスタ?!だいじょぶ??」

ぐっと抱きしめられて、ヴェスタは涙が溢れ出す。

「えーん‥‥じゅのぉ‥‥」

アイカとユーリアごとジュノに体を押し付けて、安心するヴェスタだった。


「これは‥‥とてもまずい事態だと思う」

ジュノは回りを見やってそういった。

今やスパイラルアークの外部確認窓は真っ白な光に飲み込まれて、ただ白い画面を表示しているようだ。

ハードシールドを上げても大丈夫だったので、今はクリアシールドを減光して二人は見回していた。

ユーリアは光を放ったままアイカの横に寝ている。

アイカは呼吸や鼓動すら僅かで、スリープ状態に見えた。

「どうなったんだろう?ルクールはどこに行ったの?」

ヴェスタは恐怖から幼児化したように、幼い仕草でジュノにすがった。

ジュノは厳しい視線を緩めず、アイカと外を何度も見比べる。

「拮抗している‥‥アイカは本当にすごいわ‥‥」

ジュノはなにかヴェスタに見えないものを見るかのように、あちこちに視線を当てる。

ヴェスタはそのジュノの仕草すら不安に思い、さらに身を寄せる。

「‥‥ルクールは式にほどかれてあそこに居るわ‥‥かろうじてコマンドを一時停止している状態ね」

ジュノは白い窓に指をさした。

アイカを見てさらに言う。

「アイカは意識を失いながらも、魔力が続く限り抵抗を続けている。ユーリアも複雑な式を振りまいてアイカを補助‥‥翻訳?しているのだわ‥‥」

ヴェスタはついに怖くなって目を閉じジュノの胸に顔を埋める。

「こわいよぉ‥‥なんの話なのかわからないよ‥‥」

とんとんとその振動だけはいつもと同じだと、ジュノが背を叩くとヴェスタは落ち着いた。

じっと辛抱強くジュノはヴェスタを抱きしめる。

ヴェスタが話を聞いてくれなければ、前に進めないから。

「本来のAIは自分で自分を定義出来ない‥‥それが出来る特殊な個体がたまたまわたし達の回りにいたのよ」

ジュノは話題を少し変えてみた。

「アイカとアイカのコピーたちね」

少しだけ理解できる話になったので、ヴェスタが顔を上げた。

ジュノはにっこりといつもの微笑みを見せてくれる。

「今のこの状況を覆すには、もう一度無茶が居るのよ」

ヴェスタがやっと出口を見つけて瞳に光を戻した。

「アイカと同等のAIが必要なの」

ヴェスタは少しだけ考えて答えた。

「そんなのいないよ‥‥ここにはジュノと私しかいない‥‥ユーリアじゃダメなんでしょ?」

ちらとユーリアを見たジュノはこくんとうなずく。

「ユーリアは全てをアイカに預けて、アイカはユーリアそのものも式に織り込んである‥‥ルクールに干渉するための翻訳モジュールとして組み込まれていて、動かせない」

すごいバランスで保たれているのだとジュノは言う。

ヴェスタは少しづつ違和感を受け取っている。

ジュノが少しづつ注ぎ込んでいるから。

「あと‥‥一歩足りない‥‥制御しきって、ルクールのコマンドを終了するには‥‥もう一手必要なの‥‥」

ジュノの声にはヴェスタが恐れる覚悟が籠もっていた。

「高度な式を操りきり、さらに魔力を上乗せする‥‥そうして制御できる魔法が必要なの」

その魔法はAIにしか使いこなせない。

ここにマナミかリーベ。

せめて魔法の使えるリステルがいてくれたらとヴェスタは考えた。

スパイラルアークⅡの皆は位相のズレた世界の裏にいる。


 何も答えられずジュノの胸に顔を押し付け瞳を閉じたヴェスタ。

声を出したり、何かを見たら全て壊れてしまう幻想を抱いて、怯えているのだ。

「ヴェスタ‥‥聞いてほしいことが有るの‥‥」

いやだ‥‥聞きたくないとヴェスタはふるふると首を振る。

きっと聞きたくないことだと予感があった。

声も出せずただ嫌がってみせるのだった。

「ここでは時は止まっているの‥‥わたし達は今フリーズした世界に居るのだわ」

そのジュノの宣言をヴェスタはふるふるとただ首を振ることで受け入れずにいる。

そうしていれば失われないのだと信じて。

「その担保は今‥‥アイカを削って保たれているのよ‥‥」

はっとヴェスタが顔を上げる。

先ほど抱きとめたアイカの儚さはそれかと思い至った。

記憶していたより、とても軽くなっていたのだ。

「少し昔話に付き合ってほしいの‥‥」

そうしてジュノは話し始めた。

とても悲しいジュノ=アウレリアスの物語を。



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