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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第26章
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【第552話:ジュノの秘密 】

 ジュノ=アウレリアスは名門の子女だ。

この星の支配者層の分家で、格式では王族に並ぶほどのもの。

ジュノの両親は古くから続く宗教団体の幹部も努めていて、日々財界政界との折衝にあたっていた。

その時期の活動は敵対勢力の票田でも有る、工業会に切り込む長期のプロジェクトを進行していた。

義体工場での人間の出産に反対することで、政治的な有利を得ようと画策していた。

そこで彼らは悪魔のような策略を準備した。

彼らには一人の娘がいる。

見目麗しく良家の子女として育てられた清純な乙女で、スポーツに才があり、各方面から視線を集めていた。

可愛らしい容姿と、きめ細やかな琥珀の肌。

ストレートの豪華な黄金の髪はコバルトの瞳と相まって、輝く笑顔は多くのファンを引き付け、アイドルとして社会に対する影響力は計り知れないものに育っていた。

非常に都合が良かったので、両親はどんどんジュノに投資し、その道を進ませた。

世界大会からも声がかかった頃、泥臭いが有効な策略が成された。

両親は痕跡を隠すため、いくつかの組織を経由して娘をさらわせ乱暴させたのだ。

その罪を義体工場で生産された人間になすりつける。

そういった筋書きだ。

もちろん可愛い娘をそのために差し出すほど、両親は鬼ではなく身代わりを準備した。

宗教団体の暗部経由でつながりのある企業が、極秘に開発した人間と見分けのつかないAI義体を準備して、コレをさらわせるつもりだった。


 ジュノを完全に模すためにユーノは半年ほど極秘にジュノと共に過ごした。

両親はジュノにただAIのテストなのだと、仲良くするようにとだけ伝えていた。

ジュノは自分に瓜二つのユーノをとても気に入ってかわいがった。

体のサイズがぴったり同じで、衣服を共有し距離を縮めた。

見た目だけではなく、性格も能力も同じレベル。

スポーツの相手も出来るし、意見も交換できた。

プライベートリンクでペアとして滑り、完璧なユニゾンを楽しんだ。

違いは髪の色だけで、若干薄いプラチナ色だった。

まるで姉妹が出来たかのように感じてジュノは幸せだった。

年の離れた兄も忙しい両親も、仲は良かったが、あまり一緒に過ごしてはくれなかったから。

寝食を共にし、ずっと一緒にいようねと約束していた。


 そして決行の日が訪れ、AIの生贄がささげられるはずだった。

そこで手違いが有り、さらわれたのは本当の娘ジュノで、身代わりとして準備したユーノは無事だった。

色々な不幸の先にジュノは最悪の結末に手を伸ばす。


 連日かけられる取材攻勢にはユーノが予定通り身代わりとしてたった。

逆の意味での身代わりとなったのだ。

 

ーーユーノが無事で良かった。

ジュノはさらわれた先で事情を知ってしまう。

ただのAIだと扱われてひどい目に合いながらも、これがユーノじゃなくてよかったとまでジュノは考えていた。

とてもつらい体験だったから。

自分が間違いでこの理不尽にさらされたのだと、ユーノは生贄のために準備された悲しい娘だったのだと。

自分の身代わりだったのだと。


ーーいっしょにいてあげられなくてごめんね

溢れ出す血をどうしたらいいのかユーノには分からず、ただただ抱きしめるしか出来なかった。


ーーージュノが‥‥失われてしまう‥‥

それはユーノに与えられた唯一のコア指令整合値に反する事態だった。

ユーノはジュノを保つために、完全にジュノに成り代わるのだった。

両親と兄にとっては、かなり都合の良いジュノが手に入ることと成った。

特に愛情を注ぐ必要も、もう無いのだと。




「ジュノはこの腕の中で命を断ったの‥‥」

ヴェスタは目を閉じでいることができなくなり、涙を落とし震えるジュノを抱きしめる。

凍えたように震えていたから。

「もういいよ‥‥そんな悲しいことは忘れてしまっていい‥‥私がずっとそばにいるから‥‥」

ヴェスタの翡翠の瞳にも涙が溢れてしまう。

「これで解ってもらえたよね?‥‥ずっと騙していたみたいでごめんねヴェスタ」

ただジュノを抱き寄せて、ふるふると首を振るヴェスタ。

「騙してなんかいない‥‥ジュノは私の大切なジュノだよ‥‥」

ジュノは嬉しそうに自分でもヴェスタを抱きしめた。

「うれしい‥‥ヴェスタ‥‥」

しばらく味わうようにそのままジュノはヴェスタを抱きしめていた。

次の言葉できっとこの温もりも失ってしまう。

自分は偽物なのだと認めなくてはいけないから。

(ヴェスタのために‥‥ジュノとして生きていきたかったな‥‥)

あの日からつづく二人の旅路を、一つずつ丁寧に思い出すジュノ。

色鮮やかな記憶(ログ)を全て持っている。

ユーノは極秘に開発された、とても高性能なAIだったから。

映像だけではなく声も温度も匂いも全て覚えている。

人間と全く変わらない、高性能な義体。

連邦ではティア11に該当する、極秘機体だった。

それは人を上回る性能で、本来ならば事が済んだ後は顔を変えられ、両親や本物のジュノのボディガードとして運用する予定だった。

あらゆる戦闘術をインストールされていたのも、そのため。

(やどかりがおうちを返す時がきたのよ‥‥あぁ‥ヴェスタ愛してるよ‥‥この気持ちだけは本物だ)

最後に想いを強く刻み、今必要な言葉を紡いだ。


「‥‥今必要なのはAIなの‥‥魔法式を操れるAI」

ジュノの声は温度を下げる。

敏感に感じ取ったヴェスタは見上げるように視線を合わせた。

「ジュノ?」

ヴェスタは呼びかけてから気付く。

ジュノが今まで焦りを隠して、丁寧に話したくない事を伝えた意味を。


ーーAIは自分で自分を定義出来ない


ジュノはそう言っていたではないかと。

「‥‥ユーノなの?」

つうとジュノの瞳から一筋涙が落ちる。

静かに瞳を閉じたジュノがゆっくりと開くと、その瞳には魔力の痕跡たるコバルトの光。

「そう‥‥わたしはJUNO(ユーノ)-00X。ジュノ=アウレリアスのコピーとして設計された、特別なAIなの」

すくと立ち上がるユーノは、瞳をコバルト色の魔力で輝かせる。

人間のヴェスタにも認識出来るレベルの魔力光を放ち、片手を上げ式を織りなす。


Magic.System: ArcaneCore — Online!!


ごうごうとジュノの回りにコバルト色の魔力が渦巻く。


「ありがとうヴェスタ‥‥わたしがルクールもアイカも救い出すよ!!」

にこっと最後にヴェスタに笑いかけたユーノは、たのもしく美しい。

きらきらと光る目でジュノの勇姿を見つめるヴェスタ。

恋するような潤んだ瞳を見るまでもない。

そこに立つのは何一つ変わらない、ヴェスタの愛するジュノだったのだ。



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