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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第26章
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【第549話:さまざまな温度】

 ルクールが力ある言葉(コマンド)を放つ。

中央の通路とは逆側の円周に沿った壁が開き、漆黒の宇宙が見えた。

既に膨大な重力の(くびき)を逃れ、分厚い雲を押しのけて宇宙に至っていた。

この時点でヴェスタ達の目標は達成されていた。

(後はルクールを取り戻すだけ!)

アイカの心は何かで満たされ、ルクールの悲しみに触れた時それに火が突いた。

硬質だったルクールの感触がゆらぐ。

ルクールの腕の中に人影が現れた。

それはルクールと瓜二つのシルエットをもつ少女のもの。

(ルニーア‥‥後で呼ぶと言ったのに)

ルクールの首に抱きついたその少女のシルエットもまた白光に包まれている。

凄まじい魔力を内包していると、アイカには見とれた。

アイカはその気配を覚えている。

かつてアイカを襲い閉じ込めようとしたあの暗闇だ。

(あの暗闇にこれほどの光を隠していたのね‥‥)

ルニーアもまたルクールと同時に全ての記憶を戻されていた。

その記憶の中のルニーアは、戦いを厭う(いとう)やわらかな心を持っていた。

(待ちきれなかったの‥‥ごめんねルクール)

ルクールの頬に顔をよせ、しっかりと抱きついた姿は、対になるものと読み取れるほどの姿だった。

(ダメ‥‥ルクール‥‥こちらに帰ってきて)

アイカにはどんどんルクールが遠のく幻視が見える。

ユーリアを抱いていた手を伸ばし、ルクールを掴もうとするのだが、何かの圧力がアイカを阻む。

すっと上を一度見たルクールはうなずき、アイカをもう一度見下ろす。

(アイカ‥‥たくさんの愛情をありがとう‥‥必ずおうちに帰してあげる‥‥)

ルクールの姿に変化はないのに、その温度だけが変わっていく。

なにか次元の違う変化が、アイカ達とルクールを分かとうとしていた。

すぅっとルクールとルニーアを残し、アイカ達が下がる。

遠のくルクールはただの光の玉になって行く。

ふっと暗くなると、そこはもう宇宙空間。

眼下には巨大な惑星アウステラが横たわり、初めて感じる曲率でこの星もまた丸いのだと見せてくれていた。

アイカ達の抜け出した黒い穴の奥には輝く光。

それがルクールなのだとリンクしているアイカにはありありと解る。

(ダメ!!もどして!るくぅーるー!!)

アイカの心の叫びは虚しく遠のこうとしていた。

がしっとユーリアがアイカに抱きつく。

(アイカ!!)

どんとジュノもヴェスタもアイカに抱きつく。

そこから何かがアイカに流れ込むのを感じた。

(おねがいアイカ‥‥ルクールを‥‥)

(アイカ!ルクールを!)

3人の気持ちが温度となりアイカを支える。

(ま、まけない‥‥諦めたりしない!)

アイカは式を織り始めた。

それはルクールを解析し、編み上げたコマンド制御の式。

ルクールの放つ光は遂にあの巨大な宇宙船を全て包むほどに成っていた。


Magic.System: ArcaneCore — Online!!


ごうとアイカからも真紅の魔力が溢れ出す。

唇が複雑な術式(コード)を編み出し紡ぐ。

1行づつ編まれたそれが階層をなして連なり、膨大な文字の連なりを描いていく。

(いかないで)

アイカのこころは並列してルクールに呼びかける。

この心を受け取れと。

ユーリアの、ジュノの、ヴェスタの思いを受け取れと。

アイカの心も複雑な式を織りなし始める。

それはルクールと出会ってから今日までに繰り返された日常の姿。

読み取れない文字はアウステラの言葉。

アイカは連邦の文字で制御式を編みながら、心でアウステラの文字を使い、ルクールに届けたい思いを紡ぐ。

(あぁ‥‥はじけてしまう‥‥)

アイカはそうして二重に詠唱しつつもルクールの状態を把握している。

膨大な器をみたした魔力が溢れ出してきていた。

それはあの地下で一度だけ見た、破滅の力。

(制御する!やらせない!!)

膨れ上がる気配は、巨大な宇宙船すら塵に返すだろう。

それどころか膨れ上がる気配は、眼下の巨大な星すら飲み込むほどのステージに上がっている。

(ど‥‥どこまであがるの!?)

アイカの心にはルクールの織りなしているコマンドが見えた。

全てを原子に霊子に、さらにその先へと変換しようとしている。

(あの時感じた恐怖はこれだったんだ‥‥ほんの片鱗にも満たないあの力の奥を覗き込んだから‥‥)

アイカの無意識がそれを見てはいけないとあの日、光の奥の深淵から目を反らしていたのだった。




 ルニーアは幸せに包まれている。

あの日ヴィェラ達から記憶を戻してもらい、統合した。

ルニーアのもつ記憶の大半はシード値に基づいて生成された予想から作られていた。

全てを記憶しておくことは出来ないので、少しずつ積み重なった記憶は輪郭だけを残し、最後にはその輪郭も失いデータとなる。

後に展開できるようにと圧縮したはずのそれは、すでにラベルだけと成っていた。

それでも戻された記憶だけでも、ルニーアは間違っていなかったと確信する。

(ルクールがすきよ!)

ぎゅっと抱きしめた柔らかな体は温かく、とても心地よい香りがする。

(わたしもルニーアが好きだよ)

心からルクールもそう言えた。

ルニーアがいなければ気づけなかった沢山のことがあったし、この心の半分はルニーアがくれたものだとルクールも感じた。

あの果てしない幽閉の日々を過ごせたのはルニーアの知識のおかげだし、ルクールに惜しみなく注いでくれた心のおかげなのだとも。

(ルニーアに感謝している‥‥ルクールが大切なものに気づけたのはルニーアのおかげなんだ)

あの星を見る旅で最も学んでいたのはルクールだった。

ルニーアという心を通してみた日々は、ルクールに足りないものを満たしてくれた。

(あのときお別れもしないで側を離れたことをずっと後悔していたの)

ルニーアにそう告げるルクールは、あの時とは違う温度をルニーアに届ける。

(あぁ‥‥あたたかいよルクール‥‥とても淋しかったけど、今それ以上をもらったよ)

にっこりと笑みの気配がルニーアに添えられる。

(それに子どもたちも私を癒してくれたの‥‥)

そして瞬時にその温度は下がっていく。

あの戻った子どもたちが何者なのか、ルニーアは知ってしまったから。

死してヴィエダイスが中央制御室で生み出す子どもたちは、特殊なコードを含まされていた。

イレギュラーとしての(シード)を。

それは個性を育てたのだろうが、大切なものを奪っていった。

何を守りたかったのか覚えていた子どもたちは、一人も居なくなっていたのだ。

そのルニーアの淋しさと悲しみに、ルクールも気持ちが沈んでしまう。

(ルニーア‥‥ルクールの代わりにアイカのところに行くといいよ‥‥きっと新しい家族として迎えてくれる‥‥)

(いやよ!ルクールとはなれるのはもうイヤ!‥‥側にいたい)

その言葉はアイカ達がくれた言葉と同じだなとルクールはふわりと温度を上げた。

とても心地よいなと。



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