【第547話:大事なことが解ってくる】
朝ごはんの中で、ルクールとユーリアにも方針を説明した。
「ようするにそのコマンド自体を制御してしまえれば解決です!」
アイカは自信満々にそう言いきった。
発動自体を回避できればいいが、それをしてしまうとルクールは嘘をついたことになり、深刻なダメージをフレームワークの根幹にまで響かせるだろう。
人間で言えば重度のトラウマから深刻な精神的後遺症になりかねない。
生理的に嫌なことを無理やりさせるようなものだ。
そこでアイカは自分を基準に回避方法を模索した。
一旦発動してから制御して、最低限コマンドが動けばいいのだ。
あのカマキリを消した程度に抑え込めば、星にはダメージがないだろう。
聞けばリミットは星が保てなくなるところではなく、ぞのかなり手前に設定してあるという。
あの打ち上げ自体が星を削って成されているとルクールに聞かされて、納得できてしまう。
「バカげたことではなく、バカげた攻撃だったか!」とジュノは評価した。
お茶に睡眠薬を混ぜていたので、程なく起きたばかりのルクールはむにゃむにゃとなった。
よしよしいい子ですねとアイカが抱っこして施術室に連れ込み、色々とデバイスを付けていく。
義体の更新をする時と同じ要領で、セッティングして準備を終えた。
ルクールの横にはユーリアが同じように寝かされている。
「どう?ユーリア‥手順は覚えられた?」
「とてもがんばるよ!」
精神論を持ち出すユーリアに危機感を感じるアイカ。
「‥‥」
ラデクの言う通りだとしても、施術に使う道具は汎銀河連邦のものなので、ユーリアは困惑していた。
コードの海に潜る、ダイブの手順だけで手一杯といったところ。
ふんわりしか知らない外国語の説明書を見ながら、初めて触る機械を操作するようなものだ。
「‥‥解りました‥‥アイカも同行します」
『えええ?!!?』
ジュノとヴェスタは驚いてしまう。
今までここでしてきた作業にない、三身合体‥いや三人でする義体操作だったから。
「へ‥‥変なイレギュラーとかいやよ?アイカ」
ジュノはちょっとドキドキしている。
頭の中ではユーリアとルクールがちょっと混じった、パンダのような手の4本ある生き物が幻視されていた。
「別に特別なことではないのです。技術指導などでは普通にしているものです」
なるほどと一定の納得はあったので、アイカに任せ二人で上に行き見守る。
ガラス越しに妹たちの横たわる姿は、なかなかシュールではある。
ヴェスタはここの装置があまり好きではない。
なんだか不穏に感じるのは、幼い頃に何度もかけられた装置郡に似ていたから。
特にルクールは不意に動かないように拘束もされているので、なおさら物騒な雰囲気だ。
「大丈夫だよ‥‥アイカはダイブもベテランだからね」
ジュノはヴェスタが心配そうにするので、肩をだいて慰めた。
その手にヴェスタも手のひらを重ねる。
「うん‥‥なんだか怖いの‥‥」
そう素直に言ってジュノに甘えることにしたヴェスタだった。
手がかかったのは本当に最初のうちだけだった。
ユーリアは基本的に物覚えがよい。
式の操作や魔力リンクも、放出系魔法すらも驚くべき速さで学び終えた。
可愛そうだがルクールと比較すると、アイカにはその凄さがよく分かるのだった。
そしてそこから先はアイカが困惑する番だった。
ルクールは想像通りAIと非常に似た構造で作られていた。
ただしそのプロトコルも処理形式も未知のもの。
データの形式や格納方法にも独自の構造が有り、ぱっと見た所まったくわからんとなった。
「なぜこの文字で区切るのでしょう‥‥謎すぎます」
これらはアイカ自身が予想したように、理解しがたい差異を持ってアイカの侵入を阻んだ。
特定のモジュールを見つけるだけでもかなりの手間がかかりそうで、打上までに何かが出来るとは思えなかった。
そこでユーリアは呼吸をするように仕事をこなし、大変優秀な教師にも成ってくれた。
「ありがたいですユーリア‥‥とても教えるのも上手ですね」
アイカはニッコリと笑ってユーリアを褒めた。
「アイカがこうして教えてくれたんだよ。アイカのおかげだよ!」
そういってユーリアも笑うのだった。
いい子ねとアイカはよしよしを大盤振る舞いした。
そうして予定の時間でアイカが想定したよりも広い範囲を調べることは出来た。
予定時間はお昼ご飯に合わせて戻るよう設定してあったので、想定したよりもだいぶいい進捗にニコニコしながらアイカは戻った。
午後の作業はダイブせずとも、拾い上げてきたコードを解析するだけで進めそうだった。
「おそらくアイカと同じか小さいデータでしたが‥‥構造が全く違うので量だけでは比較できませんね」
アイカはそう言ってため息を付いた。
食事しながら参照の仕方がおかしい、そもそも文法から違うなどとぶつぶつと呟いていた。
予想していたより進行はいいのだが、予想以上に重く困難な道行だったとアイカは言う。
ユーリアは非常に優秀なナビゲーターたり得るが、知見がない。
盲目の賢者を導く、全能な無知という図式が成り立っていた。
双方ともに可愛らしいという特徴があるなと、ジュノはニンマリしていた。
そうして起きてきたルクールも交えて平和なじゃれあいが展開されると、ふとまた不安がよぎる。
にんまりの裏側に未来への予感を感じ取るジュノだった。
ずっとこうだといいのになと。
午後一番にアイカが相談もしたいからと、お昼寝するようにアストラル・プロジェクションに入った。
見た目はお腹が満たされて寝ているようにしか見えないので、ヴェスタも微笑ましいなと上掛けのズレをそっと直してあげた。
アストラル・プロジェクション中のアイカは表情豊かで、いい夢でもみているのかなと見えるのだった。
ついついよしよしとおでこを出して頭をなでていると、パチっと目が開きアイカが戻った。
「ん?ヴェスタ!あちらも着いたそうです!外に行って見てきたいです」
がばっと起き上がるアイカ。
「そうなんだ?じゃあ一緒に行ってみようね」
そういって二人でダイニングに戻ると残りの三人でお茶を飲んでいたが、皆で出てみることに成った。
こうゆう時は効率ではないんだなと、にっこり笑ってしまうヴェスタだった。
結論から言えば何もわからないのだが、アイカは色濃く気配を感じるようで、淋しそうにしたり、嬉しそうにしたりと忙しそうだった。
アイカを見つめるルクールの赤くなった目には、決意の眼差し。
ヴェスタはそっとルクールの肩を抱いてささやく。
「ルクールが居なかったら何が満たされてもアイカは喜べないからね」
はっとヴェスタを見たルクールが困った顔をする。
「もちろん私もね」
そういってヴェスタはぎゅうっと強く抱きしめるのだった。
ルクールがこぼした涙を落とさないようにと。




