【第543話:金色の奇跡】
ヴェスタ達の前にまた扉が現れる。
それは今までの扉と明らかに違い、格式有る文様が刻まれ重厚な黒い扉だった。
金具は純金の輝きを持つオレイカルコスの輝き。
黒い構造材も木目に見えるが、元の姿がどんなものか想像も付かない質感だ。
扉の上に表示部が有り、赤い文字で進入禁止とアウステラ語で書いてある。
左右をみればあのカマキリたちがずらりと何列も並んでこちらを見ている。
何か在れば間違いなく襲ってくるのだろうと見て取れる。
ここに至る通路にもぎっしりいたので、万にとどく数が居るだろうと想像された。
「こ、ここで間違いなさそうだね‥‥ごめん、キャプテンとしてはここで引き返すべきだとはわかるの‥‥でも‥‥」
ヴェスタは泣きそうな顔になっている。
この扉は越えてはいけない境界だと想像できた。
あの銀のカマキリ達が動き出したら、それこそスヴァータイスを持ってしても勝てないかも知れない。
それだけの数がそこには居るのだった。
「‥‥戻りたい人はスパイラルアークに戻って待っていて‥‥ユーリア戻っていいのよ?」
「イヤ!!」
即答で返すユーリアも涙目になる。
「いっしょがいい!」
ぷくっと頬をふくらませるユーリアを、いい子ねとアイカとジュノが撫でる。
二人も笑顔でヴェスタを見てうなずいた。
「‥‥わかった。行こう」
静かに3人もうなずいて肯定。
「アイカ左を‥‥」
ジュノはそれだけ告げ、右手に剣を左手に大型ハンドガンを握り、頼もしく立ち上がる。
「りょうかい」
アイカも返答とともに詠唱を開始する。
ユーリアもたどたどしいが詠唱しながらアイカの横に立った。
「もし中に入れたら扉を盾にしましょう‥‥」
ヴェスタがそう言ってドアを押す。
ぐっと押すが開かない。
がちゃがちゃ引いてみるが変わらない。
そうか引き戸か?!と左右にも動かしたがもちろん開かない。
鍵がかかっているとは想定しないヴェスタだった。
「あかないわ!」
ユーリアが戻りヴェスタの横で手を添えコマンドを放つ。
「ひらけ!」
その言葉にどんな力が込められるのか、ユーリアの手のひらが僅かに光を放つとドアがばしゃんと勢いよく内側に開いた。
ビー!ビー!ビー!
レッドアラートの中、ころんとまたユーリアは勢いで中に転がり込んだ。
『でかした!!』
アイカ達の声もまた揃うのだった。
警報とともに銀のカマキリ達が一斉に動き出す中、ジュノ達も押し合いながら扉をくぐり、バンと力いっぱい閉めた。
>> Field.Stabilize(duration = extended)
>>Parameter.Protect(Gaismas,noraidīšana)
Execute
アイカは詠唱し終えていた上級結界魔法を放ち扉を封印。
すぐに扉が真っ赤になるほどの攻撃が加えられたようだが、扉の強度も有るのか結界はかろうじて保っていた。
「ここはアイカが!奥へ!」
アイカの宣言に、一瞬ジュノは悩んだが、ヴェスタに腕を引かれて走り出す。
「すぐ戻るよ!」
ヴェスタはアイカにそれだけ告げて走り出した。
ユーリアとジュノが続く。
アイカは声は出さず、親指を立てた片手をぐっと上に突き出し答えた。
次の結界魔法を詠唱し始めていたから。
その頬にはにやりとした笑みが、まるで言いたかったセリフベスト5の一つを言えた満足感を持って張り付いていた。
しばらく進んだ先で角を曲がると、また正面に扉が見えた。
ジュノはたたき切ろうと、一歩先を走り剣を抜いた。
ばん!
あと少しで到着というところで扉は内側から開かれた。
ききーっと床を削ってとまるジュノが手を広げて二人を止める。
「ジュノ!ヴェスタ!!」
扉から見慣れたルクールの白い外装が飛び出してきた。
シールドの中の瞳が金色に輝いている。
『ルクール!!』
3人が駆け寄って抱きつく。
「ごめん、みんな‥‥ああ!アイカが大変だよ!!」
ルクールは謝った直後に駆け出す。
まるでアイカの窮地が見えているかの様に言って駆け出す姿に、3人はつい戸惑いから追えずにいる。
ルクールが角を曲がってから、はっと気付いてジュノとヴェスタも走り出し、ユーリアはヴェスタに手を引かれて後に続いた。
どぉおん!!
「くっ!!ここまでですか」
遂に結界のリキャストが間に合わず扉が粉砕される。
アイカは素早く地を蹴り、後ろ向きに飛び距離を取った。
「アイカー!!」
そこにルクールが駆けてきて、アイカにどーんと抱きついた。
「ルクール!?無事なの?!」
「うん!」
驚いてたずねたアイカの目に、ルクールの顔がシールドごしに見える。
「ここは任せて!」
とんっと背を向けるルクールに違和感を感じたアイカ。
ルクールの両目が金色に輝き眩しいくらいだった。
「ルクール?!どうしたのその魔力は?!」
この設備に入ってから、ずっと感じている溢れ出す魔力が全てルクールに集まっているようだった。
輝く金色の魔力がルクールのものだとアイカは知っている。
何度も放出系の式を指導したから。
繰り返し式を教えてもルクールは初級魔法すら発動できなかった。
魔力の扱いはアイカ以上の精度で出来るのに。
「すごいの出来るように成ったんだよ!」
うれしそうなルクールの声は、迫りくるカマキリの大群に向けられる。
「きえちゃえ!!」
ぱぁぁん!!!
ルクールの前に金色のフラッシュが瞬き、落雷のような音が収まったときには、がしゃがしゃいって迫っていたカマキリの大群の姿は無くなっていた。
ただそこには静けさと黒い塵のようなものが吹き散らされていく。
ちりちりと焼けるような音もして、扉の向こう側にはもう何者の気配もなかった。
アイカは呆然と先程までそこにあった大質量の大群の行方を推察した。
(いったい‥‥何が起きたというの‥‥)
驚きで声も出ないアイカにふたたび抱きつくルクール。
ぎゅうっとしがみついて声を落とした。
「心配かけてごめんね‥‥ただいま‥アイカ‥‥」
そのアイカからは見えない表情は、涙はなかったが悲しみに縁取られていた。
アイカに気取られぬよう、明るい声で誤魔化しながら。
そこでやっとジュノとヴェスタが戻ってくる。
「アイカ!」
「アイカ無事?!」
ぎゅっと抱きついてくるジュノとユーリア。
ヴェスタも外から押さえて5人でひとかたまりに成った。
事情は後でと言い、ずんずんと戻っていくルクール。
「だ、大丈夫なの?カマキリは?」
ジュノもおそるおそる続いて外に出る。
そこにはただ暗闇だけが広がり、ガラスの向こう側には輝く銀色は一体も居なかった。
「さ、おうちに帰ろう‥‥スパイラルアークに」
にっこりと笑顔になったルクールが呼びかける。
金色に輝く目を細く閉じて。




