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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第25章
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【第541話:もつれのさきに】

 果てはないのかとも思われる黒い通路を進んでいく。

入口の扉が閉まると真の闇が訪れたので、アイカ達の外装からライトが照らされる。

ヘルメットに内蔵されるそれは闇を打ち払う十分な明るさがあった。

暗闇に怯んで止まっていた4人が顔を見合わし、そこにちゃんといると確認して微笑み合う。

「‥‥すすもう」

ヴェスタに言われてジュノ達も頷き、階段の時と同じフォーメーションで進んだ。

しばらく進むと変化が現れる。

左右がガラス張りになり、薄っすらと外を透かし見せた。

ガラスのあちら側にも光源はなく真の闇が続くが、ヴェスタ達のライトをそれがキラリと反射して形を見せる。

「あ‥ぁ‥‥」

ユーリアが絶望の声を漏らす。

声にはならなかったが、ジュノもヴェスタも同じ気持ちだった。

ガラスの外側にはあの銀色のカマキリ達が無数に並んでいた。

よく見れば後列の方は装備が違い、遠距離武器と思しい装備も持っている。

銀色カマキリの軍隊がそこに群れなしていたのだった。

「う‥‥動かないみたいだね」

少しだけ緊張を解いたジュノが言う。

たらりと汗が頬を伝い落ちるのが、ヘルメットの透明シールドの奥で見える。

「指示がなければ動けないようですね」

アイカだけが冷静に状況を判断した。

「‥‥きっとこの奥に居るのよ‥‥ルクールを見つけるよ」

ヴェスタはそう言って視線を合わせる。

うなずきあった4人はまた進んでいった。

足を止めるわけにはいかないから。

(ルクール‥‥どこに居るの‥‥)

ジュノは先頭を進みながら、そう心で呼びかける。

らしくない焦りには予感が有るから。

先程の階段での戦闘もジュノらしくない強引さがあった。

いなさず避けず、正面からまっすぐ倒しに行った。

時間をかけたくなかったから。

ふわりと微笑むルクールの顔が思い浮かぶのだった。

ジュノの思い出すルクールは、いつもどこか儚げな微笑みを浮かべる。

溶けてしまいそうな空気をまとって。

ジュノは知っていたから。

身体を失い、何もない状態からアイカに救い上げられた魂なのだと。




 不思議な睨み合いがしばしあり、ヴィェラが口を開く。

「先程の力‥‥こっちが本当にルクールなの?」

チラと目線だけルクールに向け、銃口はルニーアに向けたままだ。

「最初から言ったよ!私がルクールだって。そこにあるのは私が昔使っていた身体だわ‥‥返して」

中身のルニーアにはふれず、所有権を主張してみるルクール。

ヴィェラの瞳に光が灯る。

そこには長きにわたるヴィェラの願いがこもる。

長い時間をそのために費やしてきた。

ただ一つの願いのために。

「もしも本物のルクールならば‥‥協力してほしい‥‥それが終わればそこの義体やGMなど好きにして良いわ」

ヴィェラは祈るかのようにルクールに告げた。

「なにをすればいいの?」

ルクールもルニーアを返してくれるなら、出来ることをしたいと思った。

ルニーアの視線からヴェスタやアイカ達と同じ種類の温度を感じたから。

(やっぱりルニーアは私の大切な人なんだ‥‥私を大切だとも思ってくれている)

ルクールにはルニーアの執着が愛情に見えるのだ。

ルニーアの視線にこもる想いは、ジュノやアイカが寄せてくれる妹への愛情に、とても似たものだったから。

「先程止めたコマンドの続きを‥‥」

ヴィェラの瞳には万感の思い‥‥すがるような光すら浮かんでいた。

ルクールには意味が分からずきょとんとしてしまう。

「ヴィェラ‥‥ほんとにルクールなの?このふわふわの者が」

クララは信じられない気持ちと、そうだったら良いのにと言った願いの籠もった視線をルクールに向けている。

二人とも武器は下ろしてしまっていた。

ルクールに敵意を見いだせなかったから。

「間違いないと思う‥‥先ほどのエネルギーはただのGMが扱える力では無かった‥‥ううん、私達ヴィエダイスでも唯一扱えない力‥‥この星の力だった‥‥‥‥全てを終わらせる力‥‥」

ヴィェラは膝を落とし祈るように瞳を閉じる。

さいごの言葉は祈りのように口の中で消えた。

「それではルクールの権限を戻すことを提案します‥‥十分に罪は贖われているのだから」

クララの声にも祈るような願いが込められる、ルクールならば発することが出来るコマンドが有るのだ。

四賢知システム(ヴィエダイス)にも許されないプロジェクト自体の完成を決める権能。

それこそが全てのGM達が求め続けた、使命(ミッション)達成(コンプリーテド)への祈りだった。

「よくわからないよ‥‥」

二人の変化の意味がルクールには理解できず、困惑だけが増えていった。

ヴィェラが顔を上げ、ちらとクララを見る。

その視線はルニーアにも向かい言葉を紡いだ。

「承認して‥‥ルクールの権限の復旧を‥‥」

すっとヴィェラの表情が消える。

表出していた感情を落として提案する。

「ガイドライン02に基づく、補助機体R-002の参照制限および記憶保持を初期状態へ復旧(イニシャライズ)することを提案します」

即座にクララが承認する。

「同意」

あとひとつの同意で積年の願いが叶うのだと。

ヴィェラとクララの視線に本来無いはずの想いが込められる。

この場では表出してはいけないとルールにあるのに。

苦しそうにその規定に逆らってにじみ出てしまうのだった。

あまりに長くその終わりを渇望していたから。

ルニーアは固まってしまい唇を震わせている。

同意なのか却下なのか選べずに。

 ルニーアが憂慮するのはただ一点。

記憶をもどしたルクールが自分を許し、側においてくれるのかと言う事。

悠久の中で育んだとルニーアが思っている愛情はそこに残るのかということ。

ヴィェラがルニーアに近づき正面から見つめる。

「一旦拘束を解きます‥‥協力してくれる?」

そう言って不自然に瞳を近づける。

深く願うように見せて。

かしゃ

右腕の拘束を解きながらその瞳が点滅している。

「おねがい‥‥」

ヴィェラの声には渇望がこもる。

かしゃ

左腕の拘束も解きながらヴィェラの瞳は更に高速で点滅しパルスを送り込む。

膨大なデータをルクールの身体に送り込んでいた。

かしゅん

胴体と頭部の拘束もとかれルニーアはついに自由になったが、その時には送り込まれた膨大なデータの処理に追われ、動くことは出来なくなっていた。


それはヴィェラがヴィェラになる物語だった。


 

 


 

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