【第540話:それぞれが思いを】
ルクールは自分の身体を外から見ることに成った。
流石に見間違えることはなく、ヴィェラとクララとは別と認識する。
違いは首から上だけで、顔は同じものだがそこに自分だと見分けられる気配が有った。
「あなたは‥‥」
ルクールはなんとなく想像がついていた、あのアイカのアストラル・プロジェクションから戻った時に、この身体が攻撃してきたから。
キラリと黄金に輝くソリッドボディは、長く自分として認識していた姿だ。
ふわりと柔らかい今の自分を、両手で抱きしめるルクール。
指だけではなく、手のひら全部が温まる。
アイカの与えてくれた、愛を受け取れる身体だ。
警報の時にヴィェラは手を離し、今のルクールは自由になっていた。
拘束されている自分の身体が不憫に見えるルクールは、装置を開けてルニーアを自由にしようとする。
ひと目見てどうすればそれが出来るのか知っていた。
ブウン‥‥
そのルクールの喉元に金色に輝くサーベルが寄せられた。
「何をしている?」
サーベルをいつの間にか抜いて、距離をつめていたのはクララだ。
「くっ‥‥」
ちりりと喉の皮膚を焼かれて下がるルクールは、両手で喉をおさえた。
じりじりとやけどの痛みが、ルクールに怒りを呼び覚ます。
「よくも!!この身体は私の大切な宝物なの!‥‥傷つけないで!」
きっとクララを睨みつけるルクール。
アイカが自分のために準備してくれた物に傷がついたと怒りを覚えたのだ。
かぁっと燃えるように下半身から力が上がってくる。
ルクールの瞳から黄金の輝きが漏れだした。
アイカに教わった魔力変換だ。
クララは素早く反対の腕も伸ばすと、いつの間にかライフル状の武器を持ちルクールを狙っている。
このオレイカルコス製の義体はシフト収納している武器を、好きな時に自由に取り出せるのだ。
「動けば次は警告なしに射殺する」
クララの言い方は命に価値を持たないGMの言葉。
遠慮なく撃つだろう。
「ダメだクララ!‥‥それが何者かわかるまで処分してはいけない‥‥‥その力‥‥まさか終末の雷か?」
ヴィェラの声は最後が小さくなり誰にも届かなかった。
ルクールも驚いていた。
アイカに教わった時と違い、ごうごうと体内に魔力が溢れてくる。
(な‥‥なにこれ‥‥とまらないよ‥‥)
今は教わったように絞っているが、それでも魔力の放出は止まらない。
ルクールは制御し、止めようとしているのだが、その力はどこから来るのか溢れ続ける。
「ダメよルクール!その力は使ってはいけない!」
ルニーアはついに口を開いてしまった。
あまりに不吉な黄金の気配に、呼びかけてしまったのだ。
ヴィェラとクララの視線がルニーアに集まる。
しまったとルニーアは口を閉ざし目をそらす。
「ルクールと呼んだな?」
ヴィェラの声にはさらに低下した温度が添付されている。
「‥‥あなた‥何者?」
ヴィェラの手にも、いつの間にかライフルが構えられている。
交差するように別々の目標を狙うヴィェラとクララだった。
ぐるぐると階段を降りるヴェスタ達。
ジュノが先頭に立ち、ヴェスタユーリアと続き、最後尾はアイカだ。
「きついよぉ‥‥いつまで降りるの?!」
ここは2.0Gの重力があり、ヴェスタは息が上がってしまう。
「止まって‥‥」
ジュノが止めて、ヴェスタがとまるとぽよんとユーリアが当たる。
「ご、ごめん」
ヴェスタの背中に胸で体当りしたユーリアは、素早く横にしゃがんだ。
ジュノの手のひらが横に伸ばされ、くいくいと下にふられたから。
姿勢を下げろのハンドサインだ。アイカは少し後ろで詠唱を始めている。
「なにかいる‥‥」
階段の縁からちらりと下を見るジュノがつぶやくような小声。
「銀色のカマキリみたいのが居るよ」
ちらちらとヴェスタとユーリアも見た。
アイカの位置からは見えているようで覗き込まない。
壁際に寄って詠唱が続いている。
ユーリアは漏れ聞こえる知らない複雑な式から、上級魔法だろうと読み取った。
「ヴェスタ‥‥」
「まかせて‥‥声は一応かけてみましょう」
交渉はヴェスタの領分だ。
姿を隠したままアイカのいれてくれた言語モデルで翻訳し、現地の言葉で話しかけた。
「敵対する意志はありません。人を探しています。交渉は可能ですか?」
答えは銃撃だった。
ピキュゥゥン!!ピピキュゥゥン!!
どうどううとヴェスタの頭上を越えて、赤いビームが走り壁で爆発する。
「交渉決裂!」
ヴェスタが短く宣言した。
見ればわかるのだが、ジュノはヴェスタの指示がなければ指揮を受け取らない。
「散開!!」
ジュノの合図ですいと顔を出したアイカの式がリリースされる。
きしくぅううん!!
ピンク色の極大ビームを放つ荷電粒子砲の魔法だ。
ずがあぁああん!!
2体いた銀色のカマキリの内、一匹がプラズマに飲み込まれ爆発する。
シュン!!ぎぃいん!!
「わあ!!」
ジュノの反射をしてぎりぎりのタイミングで白銀の鎌が振り下ろされた。
ぎぎぃいん!!
左右の鎌を立て続けに切り込むカマキリを、かろうじてジュノは受け流している。
赤い複眼からの視線は高い位置に有り、ジュノを無機質に見下ろしている。
「さがれ!!」
ジュノの指示で迷うこと無くユーリアを抱き跳ねるヴェスタ。
アイカも詠唱しながら器用に後ろ向きに階段を登る。
ヴェスタはリニアの反発も使い、中央の吹き抜けを越えて、反対側の階段に着地し見上げる。
この位置からはジュノの交戦ポイントは上になる。
ライフルの照準を向けるが、ジュノと銀カマキリが速すぎて、射撃チャンスが見当たらない。
「ジュノ!3秒だよ!」
アイカが式を唱え終わりホールドしながら告げる。
「りょうかい!」
ぎぃいん!!
ジュノの切り込みもカマキリは鎌で防御。
相手の凄まじい力が、弾かれたジュノの腕のぶれで見て取れる。
ヴェスタもカウントに合わせ射撃準備。
とん!!
ジュノはヴェスタの横にめがけて跳んだ。
アイカの高速詠唱が式を発動させる。
>> Density Factor : Extreme
>> Penetration Priority : Max
>> Stability : Decay Allowed
Execute —
「いけえっ!!」
ずばぁああああんん!!!
ジュノを追うように飛び出すカマキリの横に光が炸裂した。
それは重金属を弾頭にする散弾攻撃。
円筒状の階段室に爆音がこだまして響く。
ころんと受け身を取ったジュノが、きりっとカマキリを目で追う。
弾丸よりも衝撃でカマキリは壁にめり込んでいた。
ずん!!
そこにリニアジャンプしてきたジュノがプラズマソードで体当たりのように体ごと突いた。
ざしゅう!
プラズマのブレードを体ごと引き抜くと、カマキリはがしゃりと地に落ちて動かなくなる。
「よし‥‥」
そこでやっとジュノは短剣を戻し勝利宣言。
ふぅ、とみなのため息が漏れる。
ジュノは厳しい目でカマキリをにらむ。
斬りあった腕のしびれがまだ取れなかったから。




