【第539話:揃ってしまう者たち】
漆黒の空間に緑色の光が滲んでいる。
正確に60度の角度を持って向かい合う3面。
あの文字達の部屋だ。
今は3つのカーソルが同期して点滅する、いつもの姿に戻っていた。
「レンカはどうしたの?」
静寂を良しとするその暗闇を柔らかなソプラノが破った。
ルニーアの声だ。
ーーここは審議の間。音声による会話は禁じられています。
さらさらと右手の文字列が変化してそう告げる。
「その設定はもう解ったから‥‥二人しか居ないのだしいいでしょもう?」
ーーよくありません。ルールがあるのですから従わなくてはいけません。
ルニーアの声に即座に返答がテキストでなされる。
そこに遅延はない。
この星に着いて、初期にルクールが作り出したシステムは想像通りに強い機体を開発した。
大陸の3方向の端で生産した基本モジュールは、ルールに乗っ取り勝ち進み、強化されて北を目指す。
その進化をモニターし、上のセクターを作る。
そこでも同じ事を繰り返し、北の果で回収する。
その回収機体からも多大なデータが得られる。
そうして作り上げた機体を宇宙船に詰め込み指示された座標へ向かわせる。
それが全てだったはず。
ーー貴女の承認したルールなのですよ。
このGMもルニーアは知っている。
長い時を競り合い高め合って戦った間柄だ。
「クララは昔からそうだ‥‥扱いやすいとも言えるけど‥頑固だね」
ルニーアの評価には皮肉が交じる。
搦手でイチコロだと言いたいのだった。
「とりあえず一度離してくれない?少しお散歩したいの」
ルニーアは拘束されている。
首以外はカプセルのようなシートカバーで隠され、頭も左右上下がカバーされ正面しか見えない。
音はない空間だが、有っても前からしか聞こえないだろう。
ルニーアの前には承認すべき項目がリストになって並んでいる。
ーー承認し終えたならフリータイムを設けましょう。
クララの文字から感情は読み取れなかった。
文字からは。
ふんと皮肉げに笑うルニーア。
そして決してその項目達を承認したりはしない。
しなければルニーアを害せ無いと知っていたから。
がちゃりと重い音を立てて扉が開いた。
かなりの距離を置いて、四角くドアの形が暗闇を切り取った。
「いたいよ!はなしてぇ!!」
じたばたとする気配とともにヴィェラが入室した。
左手で嫌がるルクールを引いている。
入り込んだ光は3面の文字の後ろにそれぞれ大きな椅子を浮かび上がらせた。
その一つはルニーアが占めていて、今一つにはルクールと同じソリッド外装をきらりと光らせた少女が、足を組んで険しい目で腰掛けていた。
最後の一つは空席でヴィェラのもの。
片手でルクールの手を引いたヴィェラが席に向かい進む。
しゅるんと音もなく入口のドアはなくなり、真の闇が落ちた。
「みえないよ!!くらいのはイヤなの!」
ルクールは強引に連れてこられてうんざりしていた。
ぐいぐいとヴィェラはルクールを席へ連れてくる。
ヴィェラたちには可視光意外の電波が見えるので、アクティブレーダーの様に発する電波で全てを見ていた。
甲高い声でルクールは騒ぐ。
「はなしてぇ!!」
「だまれ」
ヴィェラは冷たく命ずるが、ルクールは黙らない。
「手をはなしてくれたら一回黙るから!」
ジロと睨みつけてからクララを見るヴィェラ。
「‥‥優先コマンドを受け付けない‥‥コレはなんだろうか?クララ」
クララは額に手を当てて、お前も黙れと言った顔をして睨む。
「‥‥この部屋での発声は禁じられているはず」
ヴィェラより少し高い音程で、同じ温度の声だった。
すっと光が満ちて部屋が明るくなり、文字列が消えた。
光は些細なものだが、真の暗闇に落ちたそれは多くを浮かび上がらせる。
「一旦、閉会とします」
そう告げたのはヴィェラだった。
クララは立ち上がって何か言いたそうにするが、沈黙を保つ。
ゆるりとロールした背まである金髪が揺れ、金色の瞳をすがめた。
ルニーアは限界まで瞳を見開き口を引き結んでいた。
(なぜ?!ルクールがここに!‥‥どうして来てしまったの?!)
もちろん一目でルクールだと解ったルニーアだが、その気配があまりに変わり果てていて驚いていた。
「何者だ?お前は」
ヴィェラは再び問うた。
「ルクールだよ!」
きりっと険しい顔で言うのだが、険しいつもりの顔はどこか可愛らしいのだった。
ルニーアの顔から厳しさが薄れる。
(かわいい‥ルクール‥‥ふわふわしていそうだ‥‥)
ルクールの髪は細くふんわりと広がっていて、険しい表情に見せてくれなかった。
「‥‥ルクール、これは何者なのだ?知っているのか?」
ヴィェラはルニーアをルクールだと思いこんでいるので、そう尋ねる。
ルニーアは瞬時に対策を考えたが、打開策は思い浮かばず沈黙を保ってしまう。
それがヴィェラ達に別の解答を与えると知りながら。
ビー!ビー!ビー!
甲高い音が警報を鳴らす。
連動して画面が数枚開いて、施設の入口を映した。
ころんとユーリアが転げて入ってくる映像にルクールは声を上げてしまう。
「ユーリア!!」
じろりと3者の視線が集まり、空いている手で口元を隠したが、遅かった。
片手はヴィェラが手首を保持したままだった。
ヴィェラとクララの視線には不審が、ルニーアの瞳には嫉妬が灯った。
(私意外の名前を呼ばないで!ルクールは私だけの妹なのよ!)
ルニーアの思考は、ルクールに関して正常に動いてくれない。
長い幽閉の時代を経て、そう歪んでしまったから。
「大丈夫?ユーリア」
アイカが助け起こして、ユーリアにたずねる。
ぽんぽんとジュノも頭を叩く。
「えらいよ!ユーリア」
「ありがとうユーリア!」
ヴェスタも嬉しそうに抱きついてくる。
「うん!よかった!」
ユーリアも入口が見つかって嬉しそう。
入口と階段をきょろきょろみながらヴェスタが言う。
「でも‥‥どうしよう‥‥スヴァータイスもここ通れないよね?」
ヴェスタは武器を持っていないので、困ってしまう。
「アイカ、式はないの?」
ジュノは戦力評価のためにたずねる。
「式は無いですが‥‥魔力は十分すぎるくらいありますね‥‥ここ」
アイカの目には地下からごうごうと溢れ出る魔力が見取れた。
「じゃあヴェスタにはコレを」
そう言って背負っていたライフルを渡す。
ユーリアはこれねと右腰からハンドガンタイプの小型レールガンを渡し、使い方をレクチャーする。
「ユーリアは放出系も一応使えますよ!へたっぴですが」
喜ぶところか悲しむところか判断にまようユーリアは微妙な顔。
「すごいよ!アイカみたい」
ジュノがよしよしと褒めてくれたので、にっこりとユーリアは笑った。
「まだ中級までしかつかえないけどね!」
そう言って頬を染め、照れた笑いをうかべるユーリアだった。
ジュノはこれも腰の後ろから大型ハンドガンとショートソードを抜き出す。
ショートソードは展開するとプラズマソードになる得物だ。
ジュノの外装には常にここまでの武器が装備されている。
今日はスマートガンだけ置いてきた。
「これで勝てないと判断したら一回撤退するよ」
ジュノが指示を出し、皆が頷いた。
「最悪はスヴァータイスを突入させます!」
アイカがにんまりとそういった。
式を残してあるので、遠隔でも動かせるし、出口を監視できるのだった。
「撤退も含めて、ジュノに判断任せるわ」
ヴェスタもそう言って従い、前進すると決めるのだった。
ルクールの気配を追って。




