表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第25章
636/784

【第537話:大事なものを探しに】

 最近は毎夜毎朝とアイカはアストラル・プロジェクションでマナミ達を呼び出す。

もちろん大事な局面に入ったと言うのもあるが、それ以上に気が急いていた。

早く合流してアイ達を抱きしめたい気持ちでいっぱいなのだ。

もうすぐ帰れるのだと信じられたから。

「やりました!」

今朝も朝ごはんの準備中から、ヴェスタとジュノを掴まえ、こうして報告してくるアイカ。

「アイカの仮説はまた証明されましたよ!あちらの観測値も少し近づきました」

昨日話した重力の仮説だ。

早速マナミ達も試してくれて、こちらとの誤差は少なくなったのだと喜んでいる。

「きっとこの宇宙船までくれば、もっと近づいて‥‥クスン‥‥」

もう微笑みながら泣き出してしまい、よしよしとジュノとヴェスタに包まれるアイカだった。

「あれ?アイカ、ルクールは?」

ユーリアが配膳しながら聞く。

朝ごはんの準備に誘ったら、アイカがアストラル・プロジェクションしてるあいだ、もう少し寝たいと言われたのだ。

アイカといっしょに行くよと言っていたと、ユーリアが言う。

「おかしいですね‥‥戻った時はもういませんでした」

首をひねるアイカ。

ちょっと見てくるねと、キッチンをユーリアに任せ、部屋に戻る。

「めずらしいね、朝一緒じゃないなんて?」

ジュノも不思議そうにユーリアに聞く。

「うん‥‥なんか顔色悪かったし‥‥具合悪いのかもと思って寝かせておいたの」

手際よく準備をしながら会話が出来るほど、ユーリアは家事に慣れた。

もうお皿を落として割ってしまうこともない。

「おいしそう!クロワッサンね」

ヴェスタが好物の軽いパンを見つけ、目を輝かせる。

あまり料理を評価しないヴェスタが喜ぶと、ユーリアも嬉しい。

「バターたっぷりで作ったからおいしいよ!」

ジュノも入って手伝いながら3人で5人分を準備する。

少し狭くなったキッチンで5人はなかなか手狭なので工夫がいるのだった。

「大変!!ルクールがぁ!!」

アイカが大慌てといった雰囲気で駆け戻ってくる。

非常に珍しい慌てるアイカを見るのだった。

「どしたの?」

眉をよせたジュノは、まだ事態の重要性がわかっていなかった。




 アイカがアストラル・プロジェクションで昨日話した結果を聞いてくると目を閉じた。

そっとベッドを降りたルクールは、準備していた手紙を机に置いた。

昨夜そうしようと決めて、こっそり準備した手紙だ。

目を閉じたアイカはにっこりと微笑んでいる。

きっと良い結果だったのだろうと、ルクールも嬉しくなる。

(アイカ‥‥本当は直接話したかったけど‥‥きっと止められると思うから)

この機体の仲間は皆、とてもルクールに優しい。

どこの誰かもわからないこの身を、家族のようにあつかってくれたのだ。

最後にアイカに抱きつきたかったが、決心が鈍りそうなので辞めて、そっと外を目指した。

ジュノとヴェスタはまだぐずぐずしている時間なので、あとはユーリアに見つからなければ気づかれずに抜け出すことが出来るだろう。

キッチンの気配は楽しそうに働くユーリア。

昨夜一緒に仕込んだクロワッサンを焼いているはずだ。

(ユーリア‥‥あとをお願い)

妹とも思うユーリアに家事を押し付けるのは気が引けたが、意外とカンが鋭いので気づかれそうと声はかけない。

最後にジュノの寝室に目を向けると、そっと頭が下がる。

(ヴェスタ‥‥ジュノ‥‥‥‥)

きっと二人とも怒るかなと、ふんわりと温かい、少しうれしい気持ちもあった。

すぐにそれはもう手の中には無いものだと思い出して眉を下げた。

(家族だと言ってくれた‥‥妹だよと‥‥)

その言葉には同じ言葉を口にするルニーアの記憶が呼び起こされる。

ルクールは一人でルニーアを探すことにした。

昨日よりも鮮明な記憶が戻ってきていた。

おそらく記憶を取り戻せば、もうここに戻れないだろうとも予感していた。

結局誰にも相談できず出てきてしまった。

せっかく帰れると喜んでいる家族を、このなんだか解らない事態に巻き込みたくなかったのだ。

(無事にみんなが帰れるといいな‥‥大好きみんな‥‥)

そう心の中でだけ言葉にして、ルクールは保護スーツにいつもの外装を身に着けエアロックを抜けた。

(ごめんね‥‥このもやもやが家族に悪いことを運んでいかないように‥‥いかなくちゃいけないんだ)

そう心の中でだけ謝罪しながら立ち去ったのだった。



 

 これを見てと、封筒から取り出してある手紙を二人に見せるアイカ。

ユーリアはこっちだよと、アイカは食事の準備を止めて部屋に戻るように連れて行こうとする。

「どうしたの?アイカ?ルクールはどうしたの??」

カンのするどいユーリアはもちろんアイカの異常に気付いている。

こんなに慌てたアイカは、あの死線をくぐった黒い3機との闘いの中でも見ていない。

「大丈夫探してくるから‥ルクールは迷子なんだよ‥‥‥心の迷子だ」

そういって、ぎゅっとユーリアを抱きしめるアイカは声をふるわせる。

涙はなかったが、アイカが泣いているとユーリアにはわかった。

「い、いやだよぉ!あたしも一緒に探す!ルクールは大事な‥‥大事な家族だよ!」

はっとアイカは驚いたように目を見張る。

ずっと子供だと扱ってきたユーリアも、一人の家族なのだと思い知らされる。

「うん‥‥ごめんねユーリア。ルクールがユーリアには言わないでほしいと書いてあったから‥‥」

そう前置きして手紙の内容を説明した。

ユーリアは途中から怒り出してしまい、最後は泣き出す。

ルクールはユーリアを気遣って、何も言わず一人で出かけたのだとわかった。

自分でもどうしたら良いのか分からず、ただ泣きだしてしまうのだった。

これじゃ子供みたいだと羞恥を覚えながら。




「せっかく焼いてくれたパンは、サンドイッチにしておいたわ!糧食よ!一人一個持ってね」

ジュノがにっこりと冗談めかせて言う。

そこには5つのお弁当。

ユーリアの声や泣き声を聞いていただろうに、ただぎゅっと抱きしめる。

「ユーリアのおかげで、こんな事になってもごはんにありつけるわ‥‥ありがとう」

そういってとんとんと背中を叩く。

両手でユーリアの手を取って真っ直ぐに見つめる。

「必ず見つけ出そう」

ジュノの笑顔には迷いはなく、きっと見つかるよと伝えられた。

ユーリアはただうなずくことしか出来ず、感謝はぎゅっと抱き返すことで示した。

取り乱してごめんねという言葉も胸の内でだけ添えた。

すこしだけ恥ずかしかったから。

機体のアンカーを外すヴェスタは、母艦部分も切り離して身軽になる。

黒の戦隊と戦った時と同じように、この箱にはもう大事なものは残っていないのでここに残していく。

ヴェスタは探索型改とも言えるこの機体をすでに掌握していた。

すぐ前をスヴァータイス01と02の暖色が先行する。

「アイカ!魔法で見つからないの?」

ジュノがふと思いついて聞く。

アイ達は正確に場所までわかると前に聞いていた。

「式と違って個人の魔力を探せるほどルクールを理解していないの‥‥悔やまれる」

仕方ないよとヴェスタとジュノは慰める。

「‥‥ジュノは上に‥‥アイカは外に向かって‥‥私はこの施設の一階から調べる。定時連絡は30分置きにするよ」

『りょうかい!!』

ヴェスタが方針を決め、迷わず進める。

このチームは非常事態に慣れていたから。

元気にジュノとアイカは飛び出していく。

ユーリアはアイカのスヴァータイスに積んだ式砲塔をひとつ任された。

身体はヴェスタの横でシートに包まれているが、心ははやり外を目指す。

外は広い範囲を調べるので、もともと式砲塔は展開する予定だったのだ。


ルクールの残した手紙には、一人一人への感謝を告げる、短い言葉だけが沢山残されていた。

そこにはユーリアをかつて傷つけてしまった後悔と、また傷つけないようにという気遣いも見て取れた。

「大事なものを探しに行きます」

「探さないでください」

紙からはみ出すほどの言葉を残してくれたのに、必要な部分だけを抜き取れば、それだけが読み取れた。

それだけしか情報が無いとも言える。

(まるで家出じゃない‥‥)

ヴェスタはため息とともに、唇を噛んだ。

(必ず探し出すよ‥‥ルクールがいないと帰れないんだから!)

そう心に誓った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ