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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第2部 第25章
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【第536話:思い出す事忘れない事】

 今日のユーリアは他の4人、特にアイカ達汎銀河連邦から遭難してきた3人の喜びに感化され、終始にこにこと楽しそうにしていた。

大好きなヴェスタやアイカ達が喜んだことを、自分の事以上に嬉しいと感じていたのだ。

やたらとべたべたとスキンシップするのも、喜びを伝えたいから。

はしゃぎまわって寝てしまったユーリアを、とんとんとしながらアイカもうとうとする。

ルクールも一緒にベッドに横になり、アイカのとんとんを感じていた。

本来なら一緒に寝てしまうほど心地よいその振動を、そっと受け取りながらもルクールの心はざわついている。

(あの空を‥‥知っている)

アイカの式が見上げた晴天の夜空に浮かぶ星々。

その並びを覚えているほど見上げたことが有ったと思い出したのだ。

最近のルクールはふとしたことから記憶が蘇る瞬間が有る。

知っている、見たことが有る。

そういったふんわりした情報だが、それは時に役立つともショップ探しで気づいた。

しかし時にそれは、ユーリアを悲しい気持ちにさせていたのだと後に知って傷ついた。

ただユーリアを喜ばせたくて発した言葉が、知らず傷つけることも有るのだと学んだのだ。

その学びはルクールを無口にした。

思いついたからと、思い出したからと口にすることで誰かが傷つくことも有るのだと。

自分の過去がそういった、仲間を傷つけるものではないかと疑っていた。

(名前を思い出せなかったあの人‥‥ルニーアはあの人の名前だ‥‥)

アイカ達にアストラル・プロジェクションで話をしたと聞いたときから、思い浮かんだ事だ。

それはまた誰かを傷つけるのかもと恐れ、胸のうちに収めていた。

もう一つルクールが感じている事がある。

(ルニーアはきっともう近くにいる)

このセクターに入ってから、さらに濃厚に気配を感じ、眠れば必ず過去を思い出した。

ルニーアと二人で過ごした膨大な時間を気配として感じとった。

それはルクールに別の疑問も与える。

(私は‥‥何者なのだろう‥‥ただの監視装置などでは有りえない知識を持っている)

ルニーアと過ごした時間とともに、思い出されることが有る。

この星の成り立ち。

それはジュノ達のそうぞうした方向で間違っていないと感じた。

(しなければいけない事がある‥‥)

ルクールは何か必須のタスクを逃している恐怖すら感じる。

それがまた誰かを傷つけてはいないのかと。

そうして目を閉じるのが恐ろしくなるのだった。

思い出す事を恐れて。


 アイカ達がユーリアを寝かしつけに行った後は、いつものようにジュノ達はアルコールに切り替えた。

滅多に無いが、嬉しいことが有ったり、耐えきれないほど悲しいことが有ると、どちらからとも無くお酒を出してきた。

スパイラルアークには完全なリサイクルシステムがあるので、水も酸素も尽きることはないのだが、万一のバックアップとして水の他にアルコールを若干準備してある。

もちろん本来の用途でリクリエーションや調味料として使用する目的もあった。

それほど大量ではないが、ジュノとヴェスタが時々嗜むくらいでは無くならない量を積んでいる。

「ユーリアったら‥‥あんなにうれしそうにはしゃがれたら、こっちが遠慮しちゃう」

ジュノの言葉はユーリアを責める意味ではない。

くすくす笑いの気配を捉えるまでもない。

懐いてくれて、大事に思ってくれて嬉しいなと評価した言葉だ。

ヴェスタにはもちろん伝わっていて、うんうんとうなずく。

「最初はね‥‥義務だと、保護するのだと思っていたの‥‥ユーリアのこと」

ヴェスタはそうして地下世界からの旅を通じて、ユーリアを少しずつ知ったのだと話す。

「もう失え無い家族だわ」

ヴェスタのこぼす言葉にジュノもうなずく。

同意できるのは、合流してから同じ手順をジュノも踏んだから。

ユーリアという無垢な魂を見出し、愛すべき女の子として好きになってしまうまでのプロセスだ。

幼い思考や心に純粋さが見えると、行動や言葉が別の意味にも受け取れる。

最初の迷惑そうに話したジュノのセリフのように。

「アイカもルクールも気に入ってくれた‥‥もちろんジュノもね」

ヴェスタが微笑む。

自然な笑みが一瞬だけだが、本物のヴェスタを見せてくれる。

「‥‥嬉しかった‥自分の家族を受け入れてもらった気分」

くいっと結構なペースで飲むのは嬉しい時のヴェスタだ。

淋しいときや悲しい時は、ちびちびと大切に飲む。

そういった事もこの旅を通じてジュノは知ったのだったなと思い出す。

いつしか距離は近くなり、どちらからとも無く手をつなぐ。

あのアルドゥナの地で苦しみと共に理解した、お互いの大切さを確かめるように。

指と指が絡み合い、アイカたちとは違うつなぎ方をする。

1mmでも近くにその肌を感じたいと、手のひらの温度を逃したくないと言うように。

ジュノもちびちびと嗜んでいたが、すっかり頬が熱くなってきた。

(ヴェスタがいるからジュノは笑っていられる‥‥泣くことだって出来る)

感情は全てヴェスタとかかわる部分から生まれるのだとジュノは考える。

そう有りたいとも思うから。

「ルクールは何か悩んでいるね‥‥伝えたいけど、言い出せない‥‥そんな雰囲気がある」

ジュノはちゃんとルクールの事も見ている。

もちろん大切だと感じているし、妹のように側にいてほしいとも思う。

 それでも初めてルクールを見てからずっと、ヴェスタだけは守ると考え油断しない。

これはアイカにも最初に話したこと。

アイカはもう覚えていないのかも知れないが、ジュノは自分だけは忘れないと心に刻んである。

ルクールは完全に信用しないと。

もしかしたら本人のうかがい知らない所で、不利益になる行動をするかもと、疑って見る。

そういった技術も有るのだと、軍学校で知識を得ていた。

 それはとてもジュノをすり減らし消耗させる。

嫌な奴だと自分を嫌いになるほどの苦行だ。

それでもルクールとヴェスタを二人にしないようにさり気なく立ち回り、目を離さない。

(性格悪いよ、ジュノのくせに‥‥)

そこはあまり自分らしくないと好きになれないが、必要だとジュノの中で声を上げる者がいる。

ずっと昔からそばにあるその声には、何度も助けられた事がある。

人間には見えない物を見つけて、思いつけないような危険を見抜く。

その声がルクールから目を離すなと警告する。

皆がジュノのよく当たるカンと呼んでいる、特殊な予感だ。

そうして心は揺れるが、ジュノの微笑みは決して揺れない。

その心にルクールを見張る、冷徹な心も居るとは、読み取らせないのだった。


 ヴェスタはぽてっとジュノの肩に頭を乗せて、全ての警戒心を投げ出してしまう。

それはジュノにだけ見せる姿だと、少し誇らしい気分になる。

グラスを重ねる二人は、どんどん無口になる。

話題がなるのではなく、ただ言葉が要らなくなるのだった。

何も伝えずともわかってもらえていると、互いに感じていたから。

ヴェスタはこの静寂をそういったものだと、安心して受け入れる。

ジュノはそう見せようと努力していたから。




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