【第534話:乗り込んだアーク】
幸い黒い森で使っていた探索型がシフトアッセンブリーにまだ登録されていて、その構成パーツには欠損がなかった。
しゅるりと組み替えて全長150mほどの探索型に戻す。
「なんだか懐かしいと感じてしまいます‥‥黒い森にいたのはついこの間なのに」
アイカの感想に、ユーリアもうなずく。
「こっちのがかわいいよね!」
その姿はユーリアが最初に目撃した機体の姿でもあった。
この探索型に収まった経緯をしらないユーリアにはそう見えたようだ。
ジュノ達にはまた違った意味に見える。
かつてヴェスタを失って、3人でさまよった機体として強くイメージしていた。
喪失と淋しい記憶に結びつくのだ。
しずかな笑みの3人を不思議そうにみるユーリアとヴェスタだった。
ヴェスタは少しだけ不安を感じる。
(なにかがずれていってる?)
説明出来ない不安を胸に秘め、進もうとだけ告げた。
通路は完全に別世界で、重力に変化はないが気温は最終的に24℃まで上り、ヒーターどころか上着も要らなくなる。
「少し前が寒かったから?とても暑くかんじるわ」
そういったヴェスタの姿はかなりだらしない格好になっていた。
ぱたぱたと胸元をはだけて扇いでいる。
キャミソール一枚といった雰囲気の格好は、すらりと脚がむき出しで、涼し気だが目に毒だった。
ヴェスタは肌を晒すことに抵抗が全く無い。
「ヴェスタ、妹たちもいるんだから、もう少しちゃんと隠して!」
ジュノが指摘するも、自分も半袖にショートパンツ程度の姿なので、説得力がない。
その妹たちもスクール水着のような姿に統一されていた。
アイカがこうすると涼しいのと指導している。
おお、なるほど、と一定の同意を得られているようだ。
どこからか来るなぞの白い光で通路は満たされていて、直線で続くかなり奥まで見通せた。
どこまでいくのだろうと慎重に進む中、変化を見つける。
前方にまた扉が有るのだ。
通路は行き止まりで、分かれ道もなかった。
扉の前にまたスヴァータイスを2機並べる。
母艦たる空母部分とヴェスタの本体は後方に下げている。
スヴァータイスの整備に使うので空母の格納庫を半分にして持ち込んでいる。
動作はアイカの式がさせていた。
そうして比較すると、森で使っていた探索型が小さくも見えた。
ジュノとアイカが意思統一して扉を開く。
コアユニットから開けとコマンドで開けられることを、入口で試してあったので同じ事をする。
しゅるっと音もなく扉は左右にスライドし引き込まれた。
「気温が少し下がりました‥‥重力も少し‥‥2.0Gに下がりましたね‥‥」
ジュノもゴクリと喉を鳴らした。
扉の向こう側は日光が差し込んでいて、屋外に見えるのだった。
「わたしが見に行く‥‥アイカはバックアップを」
「りょうかい」
短くやり取りして、ジュノはするりと扉をくぐりくるんと水平に一周回転する。
次に上を確認して、ジュノは脚を止めてしまう。
リニアモーター駆動なので、足を止めても停止せず等速運動で進み続けた。
「これはさすがに‥‥ないよ」
ジュノは正面の壁に当たる前にターンして戻る。
スヴァータイスの確認した画像は全員に共有されている。
「宇宙船?これが?」
ユーリアが不思議そうに聞いた。
もう何度も打ち上げている姿を見ていたので、ある程度規模は想像がついていたが、眼の前に見せられると改めて圧倒された。
「こんなのスペースコロニーだわ‥‥」
見上げた円筒はシルエットだけ残し、雲の彼方に霞んで消えていた。
ヴェスタの声がジュノとアイカと同じで、ルクールはユーリアと同じ状態。
汎銀河連邦でも星系開発初期や、居住地の確保のため作られることが有るアイランド型といわれるコロニーと同じスケールで同じ姿だった。
ゆっくりと回転している円筒部分は直径10㎞程度、長さは50㎞以上あるだろう。
「い、移動中の固定には低重力のほうが有利‥‥無重力だと摩擦で止めにくい‥‥だからって‥‥」
汎銀河連邦のコロニーより大きそうなこれを、ここでは打ち上げようというのだった。
『ばかげているわ‥‥』
それが連邦所属3人の感想だった。
ジュノとアイカが飛び回り調べてきて、危ないことは無いようだと確認できて相談する。
いちいち母艦に格納するのが面倒なので、ヴェスタあやつる本体にコアラのようにしがみついて駐機しているスヴァータイス。
左右から赤とオレンジに抱きつかれるちょっと大きい水色は、お母さんと子供といった雰囲気。
ヴェスタは電磁アンカーを撃って地面に固定し引き寄せ、脚をついていた。
このリニアモーターの機構は、地上から永久にエネルギーが補給されるので、最小に出力を絞っても浮き続ける仕組みだ。
アンカーがないと流されてしまうのだった。
戦闘機動時に地面を使いたい時は打ち込むように脚を着く仕様。
その仕様のお陰で高くジャンプ出来るのだった。
ダイニングで画像を精査する5人。
「この速度の遠心力なら、外縁部で0.2Gほどになりますね‥‥無重力下では。現在の重力では無視できる回転です」
アイカがそのコロニー宇宙船の仕様を読み解く。
「ある程度加速したら等速運動に移るという事でしょうね」
ヴェスタも意見に補足する。
「おそらく航海の大部分がそうなんでしょう‥‥どれほどの時間かは想像もつきませんが」
このアイカの意見には少し誇張がある。
以前アイカは地下での話を聞いて想像してしまったのだ。
侵略者達の辿ってきた億年に達する旅路を。
二度と想像したくないと心が拒絶するほどのショックがそこにはあった。
「これに乗れば宇宙まで打ち上げてくれるんでしょ?とっとと乗り込んでリステル達も呼ぼう」
ジュノは淡々とすべき事だけを言う。
それが今は正しいなとヴェスタもアイカも頷いた。
入口は真上にあると見つけていて、回転軸の中心に開いた穴は大きくヴェスタ達の母艦を通せるものだった。
母艦部分と探索型がドッキングして、スヴァータイスは母艦に収めた。
一応スクランブル出来るように、ジュノはエレベーターに固定した01に乗ったまま。
アイカも後方扉の前で出撃準備のまま待機した。
緊急時には即応可能な体勢だ。
リニアの出力を上げ、ブースターで上昇するヴェスタ。
入口の丸い穴を抜けると、果てしないシャフトが上に続いていて、ゆっくりと回転するその内壁に四方への扉があった。
一番手前の組で、一枚を開けながらヴェスタも機体を回転させホバリング。
ベクトルを一致させてから進み扉をくぐった。
アイカの予想通り、同期してしまえば回転は気にならないで動けた。
横道の左右にあの量産機体がずらりと並んでいる。
奥を見れば少しづつせり上がり何列も見える。
背中が円筒外周を向いているのは、加速中立っていて、回転運動中は寝ているようになる仕様だ。
「すごい数‥‥千機以上は居ますね‥‥この部屋がいくつ有るんですかね」
アイカは上に積み重なっている戦力を想像してうんざりする。
単騎で相手に出来る数ではなかった。
しっかりと武装した姿は、あの最終Sセクターで倒した強敵の姿。
一番出口に近い部分に陣取るヴェスタは磁力アンカーを通路の床に撃って機体を固定した。
あとはリステル達が来るのを待てばよいのだと。




