【閑話:苦笑いの二人】
挿絵を入れました!
「リステル‥‥まずいことになった‥‥」
いつもの晩御飯を一緒に作っていたら、マナミが固まる。
「どうしたの?」
白いエプロンに、青いリボンがついた可愛らしい格好でオムレツを焼いていたリステルが振り向く。
青ざめた顔のマナミが唇を噛んでいる。
(AIKA-02がここまでするとは‥‥)
マナミはリステルを自分で呼んでおいて、思考に沈んでいた。
「う‥‥うん。王国艦隊がほぼ壊滅したわ‥‥今」
マナミの監視用式は今4機動いている。
一機は静止軌道にいて俯瞰し、一機は帝国艦隊、もう一機を王国艦隊につけていた。
最後の一機は今も頭上にいる安全保障だ。
先日からヴェスタ達につけていた式を帝国艦隊に付けていた。
式はあと2機あり、やろうと思えば動かせるがヴェスタ達の監視に割くのを躊躇っていた。
能力的に負荷が大きいのもあるが、覗き見るのをためらうようになっていた。
「これは‥‥ナノマシンで作った合成バイオガス燃料だわ‥‥水で消えない青い炎はこの世界にはない」
リステルも核パルスジェットの燃料として知識があった。
ごくりとツバを飲むリステル。
「け‥‥消すことはできるの?」
極低温にすれば消えるとだけ知るリステル。
「そうね、上級魔法があれば直ぐ消せる‥‥アイカが使えるかどうか‥ティア7以上の義体が要るわ」
マナミはAIKA-02の関与を確信していた。
そして今アイカ達よりに思考していることに気づき驚く。
完全燃焼するバイオガスの青い炎はほとんど煙を出さない。
今現場を覆う白い煙は水蒸気なのだと、マナミはぼんやりと考えながら式の映像を見つめた。
王国艦隊が居ないと色々と都合が悪い。
まさかヴェスタ達が介入して、この自体になるとは予想もできなかった。
マナミは食事中もずっと浮かない顔で考えていて、リステルはとても心配した。
最近時々飲んでいるお酒をマナミにも勧める。
「ちょっとだけ付き合ってよ」
そういってグラスにワインを注いでわたした。
マナミはとてもアルコールに反応が良く、この量でもほろ酔いになる。
「うん‥‥」
まだ、どこか上の空のマナミがちびっと舐める。
自分がアルコールに弱いと解ってからは、飲酒に対して慎重になった。
初めて嗜んだ日に相当やらかしたと、あとで知ったのだ。
その夜の事は、リステルに聞いても詳しく言わないし、自分でもうろ覚えだった。
「少しだけ考えてあったのだけどね、最悪帝国艦隊は全滅させようかなとも思った」
リステルがとんでもないことを言い出す。
マナミが今まさに悩み考えていたことでもあった。
アヤンタ本国を蹂躙した帝国艦隊が、満足してここにはこないとは考えられなかった。
「‥‥それは最後の手段にしたいわ」
マナミの式を2機も使えば、恐らく10分かからず遂行可能だ。
リステルは自分の持っている装備で可能だと考えていた。
「帝国の船をね‥‥こないだの海戦で調べたんだ。補給艦だけじゃなく軍船の残骸もね」
先日の海戦でリステルは5隻もの軍艦を大小沈めていた。
大型艦は半分程度資材にするために回収し、これを分析してあった。
「彼らの船はとても丈夫な木材で丁寧に作ってあったよ。良い職人が選び抜いた材料で作るんだね」
それは帝国の国力の一端を垣間見ることでもあった。
この南方よりも硬い木が沢山あり、選んで船を作る余裕があるのだと。
作り手を選ぶことすらできるのだ。
それは単純に、広大な国土の広がりすら想像させた。
「ただ‥‥その優秀な船に自信があるのか、火薬庫や弾薬が比較的甲板に近いね。場所もどうも同じ辺りにある」
帝国はあまり海戦で負けたことがなかった。
まず数で圧倒する状態から開戦し、相手より優れた兵器を持つからだ。
大砲の性能で、艦船の性能で勝り、数を揃える。
窮地に陥り、改善したことがなかった。
そこに弱みが有るとリステルは指摘する。
「ウチの砲手には制限無く練習させているしね‥‥わたしのレールガンでも狙える‥‥おそらく夜戦を仕掛ければ、被害を出さずに削っていけると考えていたよ」
そのための訓練もさせていた。
高速の揚陸艦で急接近し、火箭を小舟に打ち込む。
それを追従した単縦列のフリゲートで抜けながら狙撃するのだ。
この方式なら恐らく外さなければ一隻目で大抵の船を沈められる。
これは4隻しかないフリゲートのダメージコントロールに有利だ。
そうして夜間の不意打ちや心理的裏をかき続ければ半数を無傷で倒せると試算したリステル。
のこりは何だったら力技でも倒せると考えていた。
マナミはまたリステルに驚かされる。
てっきりマナミの式や航空戦力を当てにしているのだと思っていたのだ。
それをAIKA-02に見られるのをマナミは厭うたのだ。
まるで敵対する様に見えるのではと。
そう思われても仕方ないことをしてきたし、リステルに害をなすなら直接でも戦う覚悟は有る。
ただ、AIKA-02が悲しいだろうと思うと、ためらわれるのだ。
あちらからはあれ以来連絡してこないし、こちらのコールにも出ないのだ。
まるで見捨てられてしまったように感じて、マナミはさみしく想う。
そう仕向けたのが自分でも有るのだと、悔やむのだ。
結局この夜にはなにも決めることは出来ず、思いがけず深く酔ったマナミはリステルにそっと寝かしつけられるのだった。
ワインに少しだけいれたリキュールの効果を確認しながら、やすらかに眠ったマナミに微笑みかけた。
リステル達の計画はかなり順調だった。
当初予定した1週間を下回り、3日で南方植民領地を取りまとめた。
抵抗があったのはカルサリクだけで、南側3都市は無血で開城となった。
カルサリクも抵抗は少なく、レジスタンスの協力もあり、速やかに領主を排除した。
リステルは西方の住人にたいして容赦がない。
領主一族も肌色にこだわらず全て囚えた。
これには反対する意見も多少あったが、リステルの厳しい面を知らしめる事案ともなり後に役に立つ。
もちろんリステルはそこまで計算済みで事に当たっている。
北のサラディックも、降伏してきた。
各街の降伏した領主一家と、希望するものはアヤンタ王国本土に送った。
そのために一隻の補給艦を運用し、護衛にフリゲートも一隻付けて帰した。
もちろん意味を持たせて帰したのだ。
そうして決めたこと一つずつを手札として抱えながら、予定より大分早く建国となった。
各町々には元々の街長や、取りまとめになりうる人間を置く。
ウルヴァシャックにも代官を置き、リステルは今マナミと共に7つ目の都市建設を計画していた。
アヤンタ王国側に平原があるのだが、実はここにも触手貝が居て、昔から禁忌とされていた。
リステルが王となり最初にしたのは、もちろん法制度の見直しだが、2番めに力を入れたのは、この貝達の討伐だった。
流石に手持ちの力では無理なのでマナミを頼ることにしていたが、技術関係や都市計画の補正よりも優先したのは、理由があった。
もちろん防衛上のニーズも有るのだが、そこに石油が出るとマナミに教わっていたからだった。
リステルは産業革命を起こすつもりなのだ。
今こっそり艦隊などで使っている核融合炉のチートでは無く、住民が継続して使える力を求めたのだった。
その大事な時期に起きた変化にリステルもマナミも悩んだが、なんとヴェスタ達が解決してくれた。
帝国艦隊が引き上げ始めたのだ。
「マナミ‥‥ヴェスタ達に足を向けて眠れない」
「‥‥ほんとうね‥‥これは流石に同意だわ」
苦笑いの二人は、バケモノ貝をどうやって倒そうかと相談を始めるのだった。
自然に仲良く寄り添いながら。




