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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第16章
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【第161話:気にしすぎたこと】

お昼はアイカにまかせてと言われて、ヴェスタもスパイラルアークの操縦室に入る。

「どう?予定の軌道に乗れたかな?」

今回は準光励起霊子ロケットの固体燃料を少し余分に積んでいったので、軌道修正が余裕を持って可能だ。

ペイロード的にちょっともったいないが、重量と燃料の運搬テストも兼ねている。

「ぴたりと乗ったね。風も殆どなかったからイージーモードだよ」

ジュノはにっこりのままモニターを確認している。

毎回色々なテストを兼ねて打ち上げるので、確認するステータスは多い。

基本すべてログが残るので、そちらでも確認できるのだが、リアルタイムに確認するのは不具合確認の基本だ。

カクンカクンと首を振っているジュノ人形のバストショットの映像を見るのは、ネタだけではなく加減速Gの状況を見ている。

重力波のセンサーだけではわからないことも有るので、映像を流して見守る。

「じゃあ今のところマニュアルの修正舵は無しね?‥‥すごいわ」

「そうそう、軌道遷移の噴射も一発だよ」

アイカの勘ともいえる最適化された参照変数の項目が神がかっている。

特に座標系と時間系の変換をどこに重点を置くかで、リアルタイム補正しても大分結果に差が出る。

修正が少ないやしなくていいは、よほどのことがなければ普通は起こらない。

「さすがのアイカね‥‥優秀だわ」

宇宙機に運用にはこういったAIが求められる作業が多いが、人格付与される高度なAIには個体差も大きく出る。

二人でにっこりとして見守っていると、アイカがご飯をもってくる。

とんとんと階段を登って、すぐに操縦室だ。

「おまたせでーす。じゃぁん」

アイカは上手に作れたのか、嬉しそうに真空保温鍋をもって上がってきた。

お手伝いのアイ03がバスケットを頭の上に乗せて持ってくる。

「じゃーん」

アイ03も嬉しそうにカゴをヴェスタにわたす。

アイカがカップにいい匂いのスープをよそってくれる。

「今日は茄子のお味噌汁です!」

この魚だしに独自の調味料を足すスープは人気の一品。

様々な具材と合わせて無限のバリエーションがある。

ご飯はおむすびになってバスケットに収まっていた。

アイカのレシピの中でもレアを誇る銀河系奥地に伝わるレシピらしい。

銀河連邦では、ここと同じ外縁星系にあたる地域も数え切れないほど所属している。

「おいしぃ‥‥茄子あんまり好きじゃないけど‥‥これは好きだわ」

『えぇ?』

ヴェスタの味噌汁に対する評価に、アイカもジュノもびっくりする。

「ん?おいしいよね?」

もしや美味しいのは自分だけかと、たずねるヴェスタ。

「いや‥‥ヴェスタが好き嫌い有るって知らなかったよ?」

ジュノはヴェスタ博士とも呼べるほどヴェスタを観察し研究してきたのだ。

ヴェスタは食べ物に一度もこれ嫌いと言ったことがない。

「‥‥ヴェスタ‥‥食べ物で嫌いなものは他にもあるの?‥ごめんね気づかなくて」

アイカは主に調理を担当してきたので、別のベクトルの衝撃を受けていた。

ヴェスタは何を食べさせてもあまり喜ばない。

時々甘いものとかだとすごく喜んだりするが、これが好きといった意見を殆ど出さなかった。

それは同時に何を食べても嫌がらないと言うことでもあった。

しまったみたいな顔をするヴェスタ。

「ごめん‥‥気にしないで。食べられないものはほとんどないから」

そういって表情を消して、おにぎりを食べだす。

アイカはとても気になったが、二人の表情判定の結果付きでメニューに星マークを付けてきたランキングを振り返り、愕然とする。

(なぜ今まで気づかなかった‥‥ヴェスタの結果だけを抜き出せばほとんどすべて星3になる‥‥5段階の星評価が‥‥)

ジュノはショックから立ち直るが、もぐもぐとしているヴェスタに話しかけられない。

こんなに近くにいて、家族だと言って何も知らないのではと恐ろしくなったのだ。

身がすくむような恐怖ではない。

ふと知らなかったと気付いた恐ろしさだ。

いままで偶然上手く言っていたのではと感じてしまう。

そもそも家族と言い出したのもジュノなのだが、無意識にそれを求めていたのもジュノなのだ。

美味しいおにぎりの味が急に感じられなくなるジュノ。

そこには同じような表情で食事をする3人の少女がいた。


採掘にかかる雑務をこなしながらジュノは考え続けていた。

これでいいのかなと。

ジュノ自身、語ること無く胸に秘めていることも沢山あった。

それはアイカには偶然見られてしまったかもしれないが、ジュノから話したい過去ではない。

できるなら、なかった事にしたいとすら思ってきた時間だ。

(ヴェスタにも‥‥そういった時間があるのだきっと‥‥)

精錬されたインゴットを収納しているストックチェストから綺麗に整えられたインゴットを抜き出していく。

小さなロボットアームがついたチェストには、入ってきたものをカウントしソートする機能がある。

ジュノ達はそれを人力でナノマシンポッドに放り込む。

素材のまま使いたいものも時々有るので、すべて自動で処理したくないのだ。

最近は特にヴェスタの気持ちもあって、貴金属を少しためている。

ナノマシンで生成した金貨で買い物するのが嫌だと言う。

ジュノからすると偽造するのだから一緒だと思うのだが、ヴェスタはそれでもお願いという。

(なにかスピリチュアルな事なのかな?アイカの義体のこともすごく気にした‥‥)

ナノマシンが元素を分解するときに霊子をもまた抜き出す。

まだ汎銀河連邦でも完全に理解されてはいないが、この霊子の位階といわれるエネルギー量で、元素や分子が意味を持つと解っている。

義体の件も霊子や、その先にある何かを気にしたニュアンスだった。

まだまだヴェスタには知らないことがあると、びっくりするとともに、納得もした。

(そうだよ‥‥ヴェスタはジュノじゃない‥‥ヴェスタなんだから)

ふいに当たり前だと、おかしく思いジュノはにこりと笑った。

(ばかみたい‥‥ジュノは頭悪いな!)

ふふ、と笑いながらもくもくと力仕事を続ける。

今は特にチタンとアルミがほしいので、少数でてくるそれを別の台車に乗せていく。

一本出てきた金の延べ棒も同じ様に積んだ。

「この星で生まれた金じゃないとダメだとヴェスタは言う」

面白いじゃないかとジュノは思う。

好き嫌いを言わないのも面白いのだと。

(いいんだよ‥‥ヴェスタの事を好きなのは変わらない)

ヴェスタをもっと知りたいと思うのも変わらないのだと。

そうして笑顔になったジュノはみょうにヴェスタの声が聞きたくなった。

少しだけジュノより低く丸い声に、とても魅力を感じるのだ。




夕方になり、予定の時刻が近づく。

着陸船の回収のため、砂漠の西側にトレーラーを曳いて、レトロカーが走る。

運転はジュノがしている。

いつもは黙っていてもヴェスタがするし、誰も疑問に思わない。

「ふふ、ジュノの運転はなんだか久しぶり。結構上手だよね」

にこりとヴェスタが笑う。

いつもと違うきれいな微笑みに、ジュノも自然と笑みがこぼれた。

「実は時々運転したいなって思ってたんだ」

そう告げるジュノはすっきりとした表情。

後ろに乗っていたアイカも何かに気づいたような顔をする。

じんわりと微笑みが浮かぶアイカも、お昼から背負っていた影をはらった。

「こんどアイカにも運転させてほしいです!」

びくく、となる二人。

「う‥‥うん‥‥一回ジュノ子達でテストしてみようか‥‥」

「そ‥‥そうね、安全対策は必要だわ」

ジュノとヴェスタの態度にアイカはぷくーっと頬をふくらませる。

「酷いです!」

あははと笑い声があがり、いつのまにか三人の笑い声になり響くのだった。

もうすぐ夕闇が落ちるのだが、なんの不安もない笑い声だった。




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