【第157話:第二回帝国艦隊交渉】
さすがに日中の作業で3人共どろどろに汚れたので、一度拠点に戻ることにした。
VTOL機なら本気で飛べば、30分くらい身支度をしても日没前に帝国艦隊に戻れる。
お風呂に入り、フル装備+女神使徒スタイルに着替えて大急ぎで西へ向かった。
幸い距離も方位も良かったので、日没寸前には艦隊上空にたどり着いた。
今回は着水して水上機モードになって旗艦に寄せていく3人。
「‥‥帝国もアヤンタ艦隊の異常にきづいたよね?」
ヴェスタがたずねる。
「それは仕方ないね。こちら側が潮流の下流になるし、遺留品や遺体がそれなりに流れて生きたはず」
ジュノは辛そうに答える。
3人はこの一日の作業で、すっかり王国側の心情になっていた。
「遺体や遺留品を引き上げてくれたりしたのかな?交渉してうけとれないかな?」
アイカの悲しそうな顔は、もうすっかり遺族のような表情。
心には今日一日、共に作業をした皆の顔が浮かんだのだろう。
ジュノも同じような表情でいる。
危機感をもったヴェスタが、心にむちをうつ。
「ふたりとも‥‥気持ちはわかるけど一旦仕舞っておいて。帝国はしたたかだわ」
ヴェスタの目には悲しみの色がない。
怒りでもなく、ただただ使命に燃える最初の日の眼だ。
「あくまで私達は困っていた王国に手を差し伸べた‥‥王国の味方だと思われないように」
厳しい顔で告げたヴェスタが表情を和らげる。
「‥‥アイカごめんね、わたしもそうして話したいのだけど‥‥今は我慢よ」
ヴェスタのほほえみに、同じ気持ちを持ちながらそれでも顔をあげた強さを見た二人は、ニコリと笑みを浮かべる。
ヴェスタにならったのだ。
「ようこそお運びくださいました使徒様、聖騎士様」
旗艦の上甲板が謁見の場所となって、またひざまずいて将軍たちが迎える。
今日は人数が少なめで、シャラハ将軍はいなかった。
かわりに文官と思しき士官が3人ほど、カヴィール将軍のすぐ後ろに並んでいた。
4人いる、別のえらそうな服の将軍はさらに後ろに控えている。
パルスジェットで降り立つ3人は先日の姿のままだ。
今日も女神の使徒(戦闘モード)姿のヴェスタが口をひらく。
「‥‥話し合っていただいたようですね?どうですか?帝国艦隊の結論を聞かせてください」
ガシャとジュノがスマートライフルで甲板を打つ。
アイカも式神を2機身体の横に浮かせて、うっすら黄色い魔力をまとわせている。
ふたりとも笑顔だが、きりりと眉をあげ、プレッシャーを与える圧を瞳に宿す。
先日たっぷりと聖騎士の実力を見せつけられたカヴィールが、びびった顔をする。
「う‥うむ。協議を重ねた中で、確認したい点も幾つかあったのだ?!‥‥あったのですが‥‥」
偉そうに言うのでジュノのライフルが、片手持ちのまますぱっと降りてきて将軍を狙う。
1秒とかからず、ピタリと心臓に狙っているとわかり、慌てて言い直したカヴィール。
「お聞きしたいのですが‥‥よろしいでしょうか」
しゅんと小さくなったカヴィールに満足したジュノがライフルを立てる。
見事な砲艦外交である。
ジュノのライフルの威力はシャラハから聞いていたのだろう。
「どうぞ。ただしウチの聖騎士達はあまり我慢が出来ませんので、気をつけなさいね」
にっこりと笑うヴェスタは、えっへんの姿勢をくずさない。
以前に鏡の前で皆にダメ出しされながら練習したポーズだ。
「お‥‥お前達、ご説明して差し上げなさい‥‥」
すりすりと文官達の後ろに下がるカヴィールの威厳は地に落ちた。
「お‥‥恐れながら使徒様にご確認したき儀がございます」
メガネのいかにも文官です風な青年が、カヴィールに押されて前に出た。
人間一人いても射撃結果に変化はないのだが、気持ちの問題なのだろう、カヴィールはちょっとほっとした顔。
「うむ、申されよ‥‥」
えらそうにしないとダメだよとアイカやアイ達が霊子通信でうるさいので、指示通りに答えた。
えっへんがすこしプルプルしてしまうヴェスタ。
「えぇ‥‥まず、お話の有りました交易路の実現時期に付きまして、具体的なご予定など伺えますでしょうか?」
ふるふるとなって話せないメガネ君のよこから、めがねちゃんがくいとメガネをあげながら質問する。
想定していた質問なので、ここでヴェスタはアイカに丸投げする。
事前にそうしようと決めていたのだ。
「アイカ、答えてあげなさい」
「はい使徒様」
すいとアイカが前に出て答える。
元々アイカが具体策をねっているので、すらすらと答えていく。
何度かアイカとやり取りをして、納得したのかメガネちゃんはうなずいて下がる。
次は反対側からメガネ無し君が声を上げる。
「もう一点といたしましては、ペンデシン奥地のルートに関する、武力的支援に関してですが‥‥」
即座にヴェスタが丸投げする先を変える。
「ジュノ、答えてあげなさい」
「はっ、おまかせを」
ヴェスタはもう練習したことだけ話してとアイ達にダメ出しされていた。
まゆげきりっとして、とか笑顔は保つなどと、更にアイ達からは指示が出続ける。
すっかりプロデューサーや監督になっているアイ達。
素材はいいがポンコツな役者をなんとか使いこなしていた。
「うむ、ドラゴンなど見つければ瞬殺だ。大船にのった気でいるがいいぞ」
頼もしいジュノに具体的なドラゴンの生態や、脅威度を説くメガネ無し君。
何度かこれもやりとりして、納得せざるを得なくなる。
文官たちの質問が答えられると、いよいよまた将軍が前に出される。
文官と将軍が互いに後ろに回るので、遠くなってきた。
「ちと、とおいが?」
ジュノが圧をかけると、ぐいぐいと将軍が文官に押されて出てくる。
やめろおすなおすなフリじゃないぞと、定番のボケをかますが、アイカが「コホン」と咳払いしてやめさせる。
「‥‥ええと、なにか王国側が穏やかでない様子も伺えたのですがぁ?どうしたんでしょうかねえ?」
ちょっと皮肉な笑みになるカヴィール将軍。
これはこまる質問だろうみたいな顔だ。
ジュノもアイカも沈黙を守る。
ヴェスタもジロと見下ろして、口を引き結んでいる。
この間が大事だとアイ達から指示が出ているのだ。
「それがなにか?」
ヴェスタがせいいっぱいの無表情で最後に笑顔を添える。
不器用なこれ笑ってませんよ、みたいないつもの笑顔だ。
「ひぃ‥‥な‥なんでもありませんです」
ひと笑いで将軍を黙らせるヴェスタの不気味な笑顔の威力。
よしいいぞそれだ、今日イチ働いたなどとアイ監督達もご満悦の効果だ。
(クスン‥‥ひどいわ‥やさしく笑っただけなのに‥‥)
ヴェスタの心は傷ついたが、交渉はうまくまとまり、3日以内にまずはラマディン=ラカンラマン海峡まで下がると約束してもらう。
合わせて、実現可能だという議会へのカードとして、明日の日中にオアシス予定地の視察に同行することが決まり、2度目の交渉を終えるのだった。
ヴェスタと将軍はおなじくらいほっとして別れるのだった。




