【第156話:できることをする】
お風呂でファミリーになった3人は、もちろんベッドでもいちゃいちゃしていつもの空気をすっかり取り戻して、目覚める。
それが必要なくらい3人は傷ついていたのだ。
ぱちりとアイカが目覚める。
最近のアイカはちょっとだけ寝ぼけた空気を持って目覚める。
ヴェスタのマネをしてみたら、なかなか気持ちいいと知って研究したのだ。
何度もヴェスタの寝ぼけ姿をみて、今何を考えてるか表情から読み取ってその思考にいたるモジュールの組み合わせを研究した、まさにヴェスタ流ネボけの極意に至ったのだ。
まず可能な限り何も思考しない状態をキープする。
無我の境地に近い状態だ。
これはアイカの中に知識としてあり、古代から続く宗教の鍛錬にも有る手法を採用した。
(執着を”放捨”し、自己や思考、感情を客観的に観察することが重要です‥‥)
ぼーっとすることが出来たら、最初に浮かんだものをふんわり素直に受け止める。
ここでその浮かんだ感情に表情を寄せるのがヴェスタ流だ。
(えへへ‥‥家族になったんだ‥‥アイカはもうジュノとヴェスタの本当の妹です)
にまぁと、うれしそうな顔になるアイカ。
そうして浮かんだ思考や感情をゆっくり見つめ続ける。
堪能するのだ。
(家族‥‥ヴェスタがおねえさんです‥‥甘えてもいいのです‥‥)
にまにまと嬉しいアイカ。
(ジュノもお姉さんだというけど‥‥妹みたいに感じるときもあるなぁ‥‥)
かわいいジュノも思い出してにっこりするアイカ。
ヴェスタにだっこして頭を撫でられる自分を想像し、ジュノを抱っこして頭を撫でている自分をも想像する。
(ん?ジュノはやはり妹なのではぁ?)
アイカの中ではそうなった。
そうしてジュノを妹にしてみたり、やっぱりジュノにも頭を撫でられたりと想像していると、本当に幸せだなと感じるアイカ。
今も右手にヴェスタ、左手にジュノが密着している。
あたたかくていい匂いの二人と同じベッドに寝る時間に、幸せを感じる。
(家族なんだ‥アイカの大切な家族‥‥‥‥あぁみてぇ愛佳‥‥アイカはこんなにも幸せなの)
目を閉じて愛佳の面影を思い出す。
『いい子ね』と、そういって撫でてくれた。
とても幸せそうに自分をなでてくれる愛佳の顔だ。
(‥‥愛佳が教えてくれたこころがこの幸せをくれたよ‥‥ありがとう)
そんな自然な感謝が浮かんだ頃、ヴェスタがむにゃむにゃと言い出したので、そろそろ監視任務にもどらねばと気を引き締めるアイカ。
ヴェスタはほっておくと寝起きは危ないのだ。
じっと見つめる中、目は開いたが何も考えていない無我の境地のようなヴェスタ。
(流石です師匠‥‥一瞬でその境地に‥‥)
単純に起きられていないだけなのだが、アイカの尊敬の念がましていくのだった。
洗顔やご飯、髪を整えて制服のように同じ服をきる三人。
アイカも最近は膝丈スカートを採用して足を出すことにしている。
おそろいの姿が出来上がり、互いをちらちらみてにっこりする。
誰も言わないが、今日からは家族だよと顔に書いてある。
にっこりがこの家族のトレードマークなのだ。
脱衣所兼用の化粧台にある大きな鏡が、その家族の証明を写し出した。
「まずは‥‥できることをしよう」
ヴェスタが真剣な顔で言う。
ジュノもひきしめた顔になり続く。
「街は自分たちなりに救助をしていたから、やっぱり艦隊だね」
アイカもできることを考えてみる。
「海流の流れから想定して、遺留品を集めてあげたいです」
アイカも意見を言う。
ずっとこうしてきたから、自然とそれぞれの得意な事でできることを言い合う。
実はとても合理的な会議とも呼べるこの朝のひとときが、チームを家族としてまとめ上げているのだった。
真剣な顔のままヴェスタが取りまとめる。
「それで行こう。夕方に帝国艦隊に行くまでに、できることはしてみよう」
ジュノもアイカもニコと笑ってうなずく。
こうして新しい一日がはじまるのだった。
結局資材をかき集めて修復し航行可能な艦は4隻となった。
明るくなるのと同時に、ラウメン聖王国の3人が支援に来てくれたのだ。
ナライン将軍は丁寧に残ったものに指示を出していってくれて、3人はスムーズに協力してあげられた。
近海に残っていた船影を残すものを、ジュノがボートで集めてひいてくる。
ある程度大きい残骸も集めて、使えそうなものは回収した。
旗艦にした大型船に色々と機材を持ち込んだアイカがオペレートし、ジュノとヴェスタだけではなく、船員達にも指示をだす。
ヴェスタは海流に沿って南西方面にVTOL機ですすみ、遺品や遺体を回収していく。
カーゴがいっぱいになるくらい回収すると、艦隊にもどり下ろし再度探索に行く。
二度目からは船員が二人補助に入ってくれて、効率が良くなった。
最初は空飛ぶ神々の乗り物に怯えていたが、ヴェスタが親身に涙を流し遺体を大切に回収する姿に心打たれ、自分たちこそ働かねばと気合を入れ直した。
そうして3人の協力のもと、解っていたが凄まじい被害が日の下に顕にされた。
何度もそうして遺体や遺品を集めるヴェスタは、悲しみを怒りが上書きするのを覚えた。
(ひどい‥‥こんなこと許されない‥‥)
ヴェスタはしなやかに怒りと悲しみを心にとどめ、悲しむ船員達のために微笑みを浮かべる術を身に着けた。
手伝いをしてくれていた一人が泣き崩れた。
無数の遺体の中から仲の良かった友達を見つけたのだ。
遺体は焼け焦げていて酷い状態だった。
ヴェスタはこころに従い、まだ少年といっていい歳の水兵を、胸に抱いて背をたたいてあげる。
「つらいね‥‥でもがんばろう‥‥まだまだ沢山冷たい海にいるんだよ‥‥助けてあげようね」
その姿に、もう一人いた年嵩の水兵も涙を堪えられなかった。
そうしてヴェスタ班の3人はチームワークよく作業を続け、日が傾く頃ついにあきらめることが出来た。
できることをしたのだと、生きているものが納得できた時、やっと手を止めることができるのだった。
食料や衣類もできる限りわたして、副官の青年将校に無線機も一機わたした。
どうしても困ったら連絡するようにと。
立ち去る前にはしっかりと敬礼をして並ぶ各艦の甲板に、VTOL機の前で3人も返礼をしていく。
心のこもった敬礼に、少しだけスッキリとした瞳になれたのだった。




