【第155話:みたいなものでは無くなる】
ヴェスタには申し訳ないが、VTOL機を動かす。
拠点につれていき、スパイラルアークにある再生ポッドに入れれば将軍を完全に癒やすことも可能だった。
アイカの義体を製造するのにも使う、ナノマシンによる人体製造可能な設備だ。
コパイ席で操縦するジュノはアイカが心配するより遥かに操縦が上手かった。
「ジュノ‥‥操縦できたんだ?」
「失礼ですがぁ?」
コパイ席に座っていて操縦できないでは務まらない。
軍の教練でも揚陸艦や強襲戦車の操縦を習うし、身体を使う作業は大抵素質が有るジュノのことだ。
苦手だという射撃でもかなりの腕前なのだ。
拡張マップにピンを指してある将軍の乗る船をすぐ見つけ上空2000mにつけるジュノ。
ホバリングに移行して待機させる。
「アイカあとよろしく」
そう告げると、返事も待たず後部カーゴに向かった。
「了解!気をつけてねジュノ!!」
アイカも背中に声をかけた。
ドアが閉まる前にぴっと片手でピースしてみせるジュノがカーゴルームに消える。
将軍を迎えに行くと、副官だという左官の肩章を付けた青年が対応してくれた。
「聖騎士さま‥‥どうか将軍をお願いします」
しっかりと頭を下げて願われた。
おそらくVTOL機を回す間に、ナラインが説明してくれたのだろう。
船で動ける人間は皆日中のような態度を若干取り戻していた。
少なくとも怯えたり恐たりはしなくなった。
ジュノとアイカが思った以上に有能なナラインに感謝さえおぼえるジュノだった。
くびねっこを捕まえるスタイルではなく、ちゃんとお姫様だっこで連れて行くジュノ。
体格的にはジュノの倍は嵩があるのだが、軽々と運ぶジュノに船員達も感心する。
「ではちりょうが終わり次第、マヤカランの将軍のいえに送るね。みんあも頑張って戻ってね」
今回は最初からヘルメット無しできたので、にっこりのジュノを沢山見てもらえた。
かわいいな、とかいい女だともちらほら聞こえてご機嫌になるジュノだった。
先程の青年将校を含めて将軍以外はだいたいジュノと肌色が似ていた。
それも少し関係改善に役立ったのかもしれなかった。
アヤンタ王国は、法制度すらある人種差別のない国となっているのだが、実質として現場には現地の血が多く、上層部には西方の血が濃いのだった。
ひゅうと控えめなジェットでVTOL機に戻ったジュノは普段あまり使わないエンジニア席の横のリザーバ席に将軍をベルトで止めた。
「少し飛ばすけど我慢してね‥‥」
ぽんぽんとジュノは優しく将軍を叩いて上げる。
アイカはジュノが現地の男に優しくするのを初めて見て密かに驚く。
マヤカランに行ったときも、店で男性が対応するとあきらかに嫌そうな顔をしていた。
(ジュノ‥‥男性嫌いになったのかと思ってた‥‥大丈夫なのかな?もう)
アイカも少し微笑みの成分を増やすのだった。
VTOL機は快調に飛ばし、途中でヴェスタも目を覚ました。
「ごめん‥‥いっぱい寝ちゃって‥‥」
「いいのいいの、操縦久しぶりで楽しいよ」
ジュノはすぐに笑顔を見せた。
「ヴェスタが寝ている間に進展が有りました。アヤンタ王国のナライン将軍を連れて行って治療することとなりました」
アイカの声にナラインも声をかける。
「使徒様こんな姿で失礼いたします、聖騎士ジュノさまアイカさまのご厚意に甘えてご一緒しておりました」
喉は大分治療が進んだのか、まだ目はあかないが会話には困らなくなったナラインは、そうヴェスタに告げた。
「‥‥ナライン‥‥将軍‥‥」
ヴェスタは顔色を悪くする。
ナライン将軍はまだ顔中包帯だらけで痛ましい姿だった。
ジュノがぶんぶんと首をふる。
きにしちゃだめだよと言いたいのだ。
「ご案じ召されませぬように、ナラインは丈夫なのも自慢なのですよ!すぐに良くなりまた侍らせていただきますぞ」
ヴェスタの声色から心配されたのかと、謙譲するナラインだった。
流石にナノ再生ポッドに意識の有るままいれるのは拷問になるので、麻酔を使った。
ナラインは申告通りにとても丈夫で、普通の人間なら死に至る傷だったと裸にしてさらに解った。
服も準備してあげないとねとアイカが気付いて、ナノマシンで羊毛から作ってあげることとなった。
アイカの抑えていた将軍の写真からなんとなくこうかなと、アイカがデザインして出力した。
なんかちょっとかっこよすぎたかな?とアイカは言うが、男服にセンスがないのが証明された。
そのままお祭りのパレードに出れそうなのが出来上がってきた。
再生時間は48時間と出たので、とりあえず放置して帝国海軍に行こうと決まる。
「まだ時間余裕あるけど、準備しておこう」
ジュノがそういってヴェスタとアイカをお風呂に連行する。
「なぜお風呂?!」
アイカはちょっと抵抗したが、いいからいいからとジュノが強制連行。
ジュノは甲斐甲斐しくヴェスタを綺麗にして、アイカの頭も洗ってあげた。
「ふふ、サービスいいですねジュノ」
アイカもにこにこで洗ってもらう。
いつもみたいにおっと手が滑ったとかやらないので、快適だった。
三人でゆっくり湯船に入る。
「‥‥提案が有るの」
会話が途切れたところで、ジュノが言い出す。
「なあに?」
ヴェスタもだんだんと普段の様子にもどってくる。
「もしね‥‥イヤじゃなかったら‥‥3人で家族になろうよ。えと、もう家族みたいでは有るけどね‥‥ファミリーネームを共有しよう‥‥ミッションが終わるまででもいいから‥‥」
ジュノは珍しく言いづらそうにそういって真っ赤になった。
「アイカはもともとファミリーネームなんてないので良いですよ!」
アイカはにっこりとわらいジュノをぎゅっと抱きしめる。
ちょっと嬉しかったのだ。
「アイカ‥‥ありがと」
ヴェスタもにっこりと笑う。
「もちろん私もいいわ!そんなに拘るほど家を知らないしね」
ヴェスタにはちゃんとファミリーネームがあるが、ジュノは自分の名前がきらいだとヴェスタが言っていたのを覚えている。
「それでね‥‥わたしちょっと前から考えてたの‥‥」
もじもじとするジュノをヴェスタもぎゅっと一度抱きしめた。
ジュノは下を向いて恥ずかしそうに告げる。
「ラウメン聖王国の3人だからさ‥‥ラウミナスってどうかな?変じゃない?」
真っ赤になるジュノを左右から抱きしめるアイカとヴェスタ。
「ステキだと思う‥‥ずっと一緒だよジュノ」
「うん‥‥わたしも気に入りましたよ!ジュノ」
二人に言われて、てれてれになるジュノはちょっと涙目になって嬉しそうにする。
「うれしい‥‥ありがとうふたりとも、わたし‥‥もう家族なんて持たないのだと思ってたから‥‥と‥とてもうれしいよ‥ううっ‥クスン」
最後は顔をしかめて泣き出してしまったジュノを、しっかりと抱きしめたヴェスタとアイカもちょっともらい泣きする。
「3人いっしょです‥‥」
アイカがささやくように告げる。
「家族なんだ‥私もとても嬉しいよジュノ」
ヴェスタも目を赤くして優しくささやいた。
そうして家族みたいだった三人は、今日から家族になるのだった。
同じ名前を名乗るのだと決めて。




