【第154話:聖騎士ジュノの素顔】
文末に地図を付けました。
(‥‥いた‥‥みつけたわ!)
アイカは立ち上がり、VTOL機に向かう。
あれから数時間、残された僅かな王国兵を一人づつ、上空の式神でこっそり確認していたのだ。
少し早足になってしまうが、気配を抑える。
ヴェスタを起こしてしまわないようにと。
「ジュノ‥‥来て‥‥」
アイ01がそっと隙間から入ってきて、ジュノの足をとんとんとする。
んっと気付いたジュノが目覚める。
パイロット席に寝かせたヴェスタの足元で、すがるようにしてうたた寝していたのだ。
大きな外装パーツすらパージしていない。
頷いて微笑んで見せてから、そっとヴェスタを確認する。
表情を失くしたヴェスタは顔色悪く寝ている。
(よかった‥‥寝てくれてる)
ジュノが起きている間に、ヴェスタは何度も悪夢に目覚めしくしくと泣いていたのだ。
そっと毛布を直してからジュノは気配もなくヘルメットを持ち外に出る。
最悪戦闘もあると想定したのだ。
「ごめん、おまたせ。どしたの?」
ジュノは微笑んでアイカに話しかける。
アイカもまた少なからず傷ついたのだと気付いているのだ。
「王国海軍の将軍を見つけました。ナライン将軍です。残りの艦船を取りまとめている大型艦にいました」
アイカはピクっとほほを歪める。
「先日の船とは別で‥‥将軍も重症のようです」
ジュノも想像がついたのか、表情をけわしくする。
「アイカ‥‥ここを‥‥ヴェスタを守って‥‥わたしが行ってくる。救急セットにナノ再生シートまだあるよね?」
うなずいたアイカはすでに準備していて、手渡す。
ジュノを待つ間に準備して、自分かジュノに行ってもらう気だったのだ。
「おねがい‥‥彼なら話しを解ってくれる可能性がある」
接触当初から従順で理性的、そして良識のある様子だった人柄を思い浮かべた。
ジュノも同じ感想を得たのか、少しだけ微笑んだ。
「任せて‥‥位置情報送って」
言った時にはスーツの力でほぼ水平にジャンプしてパルスジェットを吹き散らした。
大気を震わすパルスの振動と音、そしてあの神なる青白い炎と共に彼方へ飛び去った。
見送るアイカは心配そうな目をする。
あれだけのことがあって、はたして自分たちの話しを聞いてくれるだろうかと。
ジュノの拡張マップに、索敵結果を送りつつ現地の式神03を確認するアイカだった。
いつのまにかよじ登っていたアイ01も心配そうにジュノを見送り、アイカの髪をよしよしとする。
大丈夫だよと言うように。
亜音速で飛ぶジュノは、時々地を蹴る。
この方が燃費がいいのだ。
自重155kgもある外装パーツには電磁ポイントによる接続と、瞬間的にかかるUMSの重力制御が一瞬入る。
これにより地を蹴る摩擦も減り、ロスを減らす。
蹴る瞬間だけジュノは軽くなるのだ。
立木の枝すら足場にして、時速1000km/hに迫るジュノ。
わずか30分で目的地の海上に抜けホバーに切り替える。
(みえた‥‥‥‥悩んでる時間はない)
一瞬直接乗り付けるのはまずいかもと迷うが、時間を惜しむジュノ。
ぎりぎりで舷側を越えがりがりと甲板を削り止まる。
直ぐ側で驚いてひっくり返った水兵を片手で持ち上げる。
「おねがい‥‥ナライン将軍に会いたいの、どこ?」
すとっと立たせてから聞くジュノは、ファイスガードもバイザーも上げて素顔を晒す。
その自分と同じ肌の色に、水兵は怯えながらも指さして船室を指した。
「ありがとう‥‥びっくりさせちゃってごめんね!」
ぺこと頭も下げる女神の聖騎士に、あわてて自分も頭を下げた水兵はやっと声が出た。
「な‥‥なんなんだ?!」
声は出たが意味は成さなかった。
時間が惜しいと、礼儀は後回しとするジュノはずかずかと船室を進む。
「ごめん‥‥とおして‥‥ごめん」
すれ違う者はジュノの姿をみて怯える。
その態度からだけでも、自分たちの評価を見るジュノ。
日中に自分たちに向けた畏怖ではなく、恐怖に引きつるのだ。
ガチャと最後のドアをくぐり、その部屋に入るとベッドに将軍が寝ていて、看護兵らしき女性兵士が付き添っていた。
「ごめんちょっと話せるかな?将軍」
ジュノはもう遠慮はやめて時間を惜しむ。
思ったよりも重体だった。
目を見開きふるえる女性兵士が、壁際まで下がり涙をながし首を振る。
唇は開くが声は出せないようだ。
ジュノはすっとヘルメットを取り、床に置く。
さらりと銀髪が流れて胸元までくる。
「ごめんね怖がらせてしまって‥‥わたし達なら将軍を癒せるかも知れないの、見せてもらうね」
そういってバックパックのコンテナを下ろし開く。
そこには救急キットからもちだした薬品とナノシート。
シーツをはぐと包帯だらけになって、顔も見えないナライン将軍がいて、ぷるぷると震えている。
(よく生きていてくれた‥‥)
ジュノが感心するくらいの重症だった。
手間を惜しんでマインビームで包帯を消し去ってしまうジュノ。
本来ならばとても失礼な行為なのだが、今は緊急と目をつぶってもらうジュノ。
(ひどい‥‥)
軍の訓練でもなんども重症者のホロ映像を見てきたが、これは助からない例でみたタイプの傷だった。
スプレー式のナノマシンをふりかけて、触媒を含んだハンカチ程のナノ再生シートを貼り付けていく。
周りのDNA情報まで読み取って、欠損を修復できる貴重なシートだ。
余分に持ってきたつもりのシートを全て使っても傷を癒やしきれない。
「があああぁぁ‥‥」
治療が進み、将軍が痛みにのけぞる。
(再生ポッドが必要な傷だ‥‥)
下半身と背中側を諦めてそれ以外を重点的に直し、口の奥にもスプレーでナノマシンを吹き込む。
げふげふと激しくむせるが、むしろいい傾向だ。
肺までも焼かれていたのだと治しようがない。
(喉までかな‥‥焼けたのは)
ナノマシン治療は非常に痛いので、普通は全身麻酔をして施術する。
この傷でいきてる生命力にかけたのだ。
(そういえば‥‥この星の男たち‥‥女もかもだけど、やたら丈夫で力も強いよね)
遭難初期から何度も男たちに乱暴にされたジュノはこの星の男が嫌いだ。
縛られて抱えられ連れ去られたのを、今でもありありと思い出せる。
将軍も肌の色は違えど、同じ逞しさを持っているのだ。
「ナライン将軍‥‥話がある‥‥聞こえるか?ジュノだ」
目は再生出来ていないので、視力はないだろうと、耳元にささやく。
「おぉ‥‥おゆるしを‥‥御慈悲を‥‥」
ぶるぶるとふるえるナラインに、ため息が出そうになるジュノ。
「勘違いしないで‥‥火を放ったのはわたし達ではないわ‥‥敵対する悪意ある神々もいるのよ‥‥わたし達は逆らわないのなら味方と思って良い‥‥身体も直してあげるから一緒に来て欲しい。部下に指示して」
一気に話して様子をみるジュノ。
「わ‥‥わかりました‥‥‥‥おい‥‥誰かいないか?」
ジュノはもどかしくなり、女性兵士の肩を抱いて連れて来る。
「ひぃ‥‥」
女性は息を飲み、ふるえるばかりだ。
「名乗って‥‥お願い‥‥将軍を救いたいのよ」
できる限りと思いながら優しくささやく。
「‥‥ミーシアン一等水兵ですナライン将軍」
ナラインは頷くと、将軍ぽく話す。
「うむ‥‥すまんが聖騎士さまの指示に従うように‥皆に伝えてくれ‥‥私の指示だとな」
「あ、はい!了解したいました!」
ここを離れられると思ったからか、明るい顔になり走り去るミーシアン。
静かになったベッドの横に行き、ささやくジュノ。
「わたし達の国に行けば奇跡で直してあげられるの‥‥乗り物を取ってくるから少し我慢していてね」
ナラインは今度は別の震えを見せる。
「‥‥も‥‥もったいのうございます‥‥ありがたや‥‥」
ジュノはアイカの人選が間違っていなかったと確信を持つ。
「治ってからちゃんと説明するから‥‥わたし達は王国の人に不幸になってほしいとは思わないわ‥‥それだけは解って‥‥じゃあとでね」
「は‥‥はい‥‥確かに承ります‥‥」
力ない声だが、さっきまでの死にかけよりは大分良くなった気がするジュノ。
ヘルメットとコンテナを回収し、外に出た。




