【第145話:移りゆくティアの変化】
「えっほえっほ」
ヴェスタは真剣な顔でロケットを頭上に掲げ、山地を越え走る。
拠点の南西側山地は標高が600mほどと低く、丁度砂漠に抜ける谷があるため通路となっている。
「ヴェスタって、時々古臭いかけ声しますね」
後ろを支えて追走してくるアイカが声をかける。
「え?!そっかな?」
えっほをが古いかどうかは判定できないが、いたって真剣に運ぶヴェスタ。
なにしろ運んでいるのは小さいとはいえ宇宙ロケットなのだ。
電子機器の固まりだし、今の自分たちがたどりついた最新の科学技術の結晶だった。
それぞれの右肩に担がれ、20mほどのこれは1段目の核パルスジェット部分だ。
毎回切り離して、パラシュートで回収しているので、素材は無駄にしない。
二段目から先はすでに運び終わっていて、合体して打ち上げる予定だ。
万が一の事故に備え、拠点との間に山地を挟んで隔離した発射場を作った。
作ったと言っても軽く整地して、退避観測所を地面にえぐって作っただけのものだ。
一時間もかけずに作ったが、ここでティア8まで打ち上げをするつもりだった。
「よおっし、到着!」
発射場には二段目のロケットと先端に衛星となる、監視プローブ衛星が収まった、先端の鋭いフェアリングが付いている。
大体1/3ぐらいの長さで、全部で60m近くある。
先端に向かうほど細くなり、まさにロケットといった姿。
今回の1段目には初期加速を稼ぐため、4機の補機科学ロケットが付く。
前回の反省点で初速がある程度つかないとパルスジェットの効率が悪く、ミッション全体のコストがかえってあがり、制度も下がると解った。
補機は1段目より先に切り離すので、どんどんと自重が軽くなり速度は上がるといった動きになる。
「アイカ!そっちもうちょいあげて!」
「はーい」
かちりと噛み合い、全長があらわになる。
「でかいなw」
ヴェスタがあははと笑いながら言う。
「これでも小型にしようとがんばったんですよお!」
アイカも笑顔で叫び返した。
おいしょおいしょと二人で立ち上げる。
電磁保持ランチャーにセットすれば、もう打ち上げ準備完了だ。
100m程離れた位置に塹壕のように掘った発射退避壕に降りる二人。
しゅるんと頭まで保護スーツが覆う。
「ふふふぅ、緊張してきました!」
「アイカ楽しそうね!」
にっこにこのアイカにヴェスタも笑顔が浮かぶ。
『ジュノあげるよ!』
『おっけえ!負けないよ!』
ジュノは飛行しながら上空で観測と警備をしている。
補助に式神01も入っていた。
ヴェスタはまさかと思い聞く。
『‥‥追いかけっこするき?』
『むふん!』
ジュノの鼻息が荒い。
『打ち上げカウントダウンいきますよー』
アイカの声でみなの緊張が高まる。
『10‥‥‥‥5‥4‥3‥2‥1‥ふぁいや!』
どぉぉん!
『くっそぉ!やっぱり速いな!』
ジュノもフルスロットルでパルスジェットを吹き追いかけるが、それで追いつかれるようでは軌道まで上がれない。
「あははっ」
「ジュノったらぁ」
アイカが声を出して笑い、ヴェスタはちょっと心配そうにする。
ジュノの足元を式神01がくるりと回った。
スパイラルアークの操縦室にもどった3人で、衛星の遷移を見守る。
この大陸の上に止まってほしいので、惑星の自転を追い越して対数螺旋を描き高度を上げる静止軌道衛星。
「いいですね‥‥計算通りにあがっています」
アイカが緊張しながら確認作業を続ける。
ジュノもヴェスタも息を飲んでホログラフィーで拡張表示される惑星と、人工衛星の軌道を見守った。
「もう少しティアが上なら式を入れるんですが‥‥たぶん現状では遠くて無理です」
アイカの義体能力の制限があり、使える魔力に限度があり、制御できる距離も決まる。
「そかぁ‥‥ティアも7だし義体のバージョンアップする?アイカ‥‥あ!もちろん体型は変えちゃダメよ!」
ヴェスタの後半にジュノも食いつく。
「そうだよ!いまのままが可愛いんだから!」
「むむむぅ‥‥まあ骨格の素材を変更するだけで大分出力は上がるので、お肉に変化は無いですよ?」
前にも議論をかさねアイカも認めたが、義体のバージョンがあがっても体型は維持と、ジュノヴェスタ二人の意見が一致していた。
うんうんと満足そうな二人。
「でも‥‥贅沢を言えばティア8からなんです違うのは。魔力的には桁が変わります」
ティア8はもちろんこれから目指す技術だが、ルティル鉱石が必要となる。
この鉱石はまだ地上で見つかっておらず、見通しが立っていない。
「でも‥‥いつになるか分からないし、一旦ティア7で作ったらどうかな?他に急いで欲しい装備もないしね」
ヴェスタは義体の更新に賛成という。
「そうだね、ティア6でしっかり武装は整えたし、今は欲しいものないね」
ジュノも賛意を示す。
「‥‥じゃあ一旦設計してみますね。素材の試算もしてみます」
アイカもちょっと頬が緩んでいる。
ジュノもヴェスタもお見通しで、ニコっとして大事な妹を見た。
「‥‥よっし!ミッションこんぷりいとですよ!静止軌道に乗りました。霊子波信号の受信状態もいいですね」
ジュノとヴェスタが両手をあげてアイカに向く。
「いえい!」「やった」「わぁい!」
ぱちちんと3人でハイタッチする。
丁度交替時間で揃っていたアイ達も4人でハイタッチ。
息ぴったりのアイ達のハイタッチは音もそろい、きれいに決まった。
「‥‥試算の結果現状のストレージ素材で十分作成可能と出ました!」
ぱちぱちぱちぱち
ジュノもヴェスタも食後のお茶をいったんテーブルに置いて、笑顔で拍手。
「ナノマシンポッドにも余裕があり、現状でしたらティア8までに十分2000Npためられると予想できます‥‥なので贅沢にナノマシンで充当してルティナリウム合金製フレームで組みます!」
「おぉ!?」
「ということはぁ?」
ジュノもヴェスタも実はよく解っていない。
「‥‥実はよく解っていませんね?」
半眼になるアイカにはお見通しだった。
てへ、みたいな顔になる二人。
「もう‥‥最大瞬間魔力放出量が倍以上になります!これで上級魔法まで撃てますよ!」
「おぉ‥‥す、すごいなアイカが戦術兵器になる‥‥」
ジュノは上級魔法の脅威を軍で習っているので想像できた。
「そうなんだ!やったね!アイカ」
ヴェスタはやっぱり解らないが、アイカが喜ぶならいいやと思っている。
「そして‥‥やろうと思えば帝国まででも式を飛ばせます!」
これはさすがにヴェスタでも想像出来た。
帝国は7000kmの彼方だ。
『おぉぉ』
ジュノと二人でまたぱちぱちする。
アイカも頬を染め、もじもじっと嬉しそうにする。
アイカは二人の役に立てるのなら、それで嬉しいと思うのだった。
「いつ出来上がるの?義体」
ジュノの質問。
「そうですね、明日の夜半くらいに仕上がるので、明後日の朝ですね交換は」
ジュノとヴェスタが見交わしてにんまり。
「いいわね2日も堪能できるわ」
「たっぷり堪能しよう」
「えぇ?‥‥あすの夜にすればいいのでわ?」
『ダメよ!』
そうして2泊たっぷりと二人に堪能されるアイカだった。
「外見はかわらないですよ?!」
『いいの!』
なぜか二人の息はぴったりであった。




