【第144話:アイ型義体及び式神の運用形態】
式神による周囲偵察飛行は毎日実施される。
4機で交代して業務をこなすアイ達は、この周囲偵察が大好きだ。
なにしろ飛行ルートは設定されるが、なにを見て何をしてといった部分は任されるからだ。
アイ03は時速300km/hほどの、のんびりした速度で北上する。
まだ朝も早く、アイ02と交代したばかりだ。
(うふふ寝起きにお散歩たのしいなぁ♫)
アイ達の精神年齢(?)は少し上がってきて6才程度の自我がある。
アイカからコピーされているAIとしての機能はそれほど多くなく、1/200程度のものだ。
重要な判定をアイカに依存するので、それほど判断能力を求められないのでそう作られた。
この数ヶ月の運用の中で、アイ達は独自の進化をしていた。
それはコードやCPU、メモリといったハード・ソフトの性能に依存しない部分。
こころを育んできた。
(あ!あれなんだろう?)
一気に高度を落とすアイ03は砂漠のうねりを滑り落ちるヘビを見つける。
砂色のそれは肉眼であの高度から捉えられるものではなく、霊子波のパッシブに反応があったのだ。
霊子波は生きているものならば必ず発していて、植物ですら独自の波を出している。
それを映像的に捉えるのがパッシブ霊子波レーダーだ。
アイ達式神に組まれたそのセンサーは高性能な素子を複数平面配置したフェイズドアレイ方式で、位相制御で能動的に感度を変え機械的に稼働する部分がないので高速に複数の目標を捉えることができる。
簡単に言えばアイ達が興味を持ったものを素早く捉え追跡する。
(おぉぉ‥‥うねうねしてる?なんでそっちに動けるの?)
アイ03は非常に興味を持ち蛇行しながら進む姿に見入る。
ヘビにとってはたまったものではなく、急降下してきた鳥のようなモノが、真上にいて着いてくるのだ。
それはもう死ぬ気でダッシュして逃げるのだが、アイ03のレーダー性能を掻い潜れるわけもなく追跡を受ける。
(なるほどぉ‥‥効率がわるいね?手足を付けた方がよくなぁい?)
自分にも手足が今ないのに、ヘビに無理を言うアイ03はホロ表情を出していたらにこにこで追跡する。
しゅるりと岩の隙間に入っていくヘビ。
(あぁん‥‥奥にいっちゃった‥‥)
その隙間は式神の身体では入れそうにない幅だったので、あきらめるアイ03。
しゅんっと指定高度にもどし、偵察コースにもどった。
丁度日が登ってきて、美しい朝の砂漠が見えてくる。
ぐんと高度を上げるアイ03は、砂丘の果てに青い朝を見た。
(きれい‥‥透明な感じだな)
そうして美しい景色や面白いものを見つけ、アイ達の間で共有する。
お昼に一度帰るので、他の子にも教えてあげようと動画をアーカイブする。
(わぁ‥‥海もひかってる)
高度を取ったのでそろそろ海岸線が見えてきた。
まだ低い太陽が水面に帯を描き輝く。
ホロ表情はないのに、うっとりと眺めるアイ03。
こうして色々なものに興味を持ち、感じ受け止めることでアイ達は驚くほど人間に近い感情と思考を持つに至った。
もともとコピー元のアイカが特殊なのももちろん理由なのだが、その運用方法によってもアイ達は独自の進化ともよべる成長を見せていた。
アイ02は偵察任務を03に引き継いで、次は探査・調査飛行の時間だ。
この任務シフトでは鉱山を詳しく地質調査するのが主目的で、アイカにポイントを指示されて向かうのが多い。
最近はチタンの鉱脈を追いかけていたが、さすがにあのヴェスタが見つけた帯状の鉱脈は掘り尽くしたので、探査にウエイトが移った。
探査ではざっくりしたエリアしか指示されないので、偵察と同じく自由度が高い。
(あ!あれなんだろ?)
式神02で山脈づたいにのんびり移動していたアイ02が何かを見つけ降下する。
それは猛禽類の捕食行動に似た動きで、小動物からしたら死をイメージできる速度だった。
式神はパルスジェットも装備しているので、本気なら音速を越えて近づけるので、今のはのんびり下りたくらいに思っている。
地面すれすれにピタリと止まるアイ02。
(おぉぉ‥‥なんだこの生き物?)
小さな花を付けた草の葉に、カマキリがのぼり、小型のハチを捕食していた。
カマキリは体長15cmほどもある大型のものだが、式神の方が全長も体積も大きく、死を覚悟した。
緊張感のある姿勢は、ただではヤラせんといった気迫をみなぎらせるが、アイ02は興味まんまんで舐めるように観察した。
しゅ!
素早く牽制したカマキリのカマを高速度撮影するアイ02。
(ほほぉ‥‥0.05秒ほどに攻撃してきた!すごいな‥‥動力はなんだろう?核融合かな?)
アイ達はお休み時間などで興味を持ったことを勝手に勉強するので、個体差の有る知識を持っている。
アイ02は生物に詳しく、動物が専門だ。
カマキリのような昆虫はあまり詳しくなく、フォルムから機械だと認識していた。
(つまりおなかま?)
首があったら、こてんとかしげそうなアイ02だが、カマキリは張り詰めた緊張の中にいる。
ぴくぴくとカマを動かし、やるぞやるぞとアピールする。
(捕獲しようかな?‥‥前にアイカままにおこられたからなぁ)
昔ちいさなトカゲを持って帰ったらすててきなさい!と怒られた事を思い出すアイ02。
(‥‥やめとこ)
ちょっと興味もうすれ、ひゅんと高度を取り業務にもどる式神02だった。
残されたカマキリはしばらくファイティングポーズを下ろせずにいた。
アイ01は護衛任務中。
今日はアイカとヴェスタが砂漠の打ち上げ場に来ていて、ロケットを打ち上げるという。
式神01のアイは高度2000m程から周囲警戒しながら観察している。
周囲のセンシングは電磁波・霊子波・重力波のパッシブレーダーで見張っている。
ストローのように先端に伸ばされた先に光学カメラもあるので、そこから地上のアイカ達を観察。
(まま何してるのかなぁ)
ヴェスタと二人で30mほどもあるロケットを頭の上に乗せて走ってきた。
ヴェスタ達のスーツは本気をだすとVTOL機でも二人で持ち上げる力があるので、これくらいの荷物はたいした負荷ではない。
ぼひゅんとすぐ横にジュノがくる。
「お!護衛任務ごくろう!」
しゅぴっと敬礼するジュノはにこにこだ。
護衛中はアイカと共にジュノの指揮下に入るので、ジュノは上官にあたる。
「異常なしであります!」
アイ01には今手がないので、心のなかで敬礼する。
「うむ、ごくろう!あとで乾電池をあげよう」
「わぁい!」
乾電池はごはんに入らないので、おやつ扱いだ。
しゅんとジュノが飛行して反対側に移動していく。
二人でセクター分けして見張っているのだった。
どぉぉん!
(おお?!とんだよ)
ロケットが打ち上がりどんどん加速していく。
あっち側でジュノが張り合って上昇していたが、すぐに置いていかれて諦めた。
「くっそぉ!やっぱり速いな!」
(それはそう‥‥)
式神よりも出力があるジュノの外装だが、もちろんロケットに敵うはずがない。
それでもと手を伸ばして追いかけるジュノをほほえましく見守るアイ01だった。
(ふふ、ジュノはかわいいなぁ)
などとアイ01に思われているともしらず、悔しがっているジュノだった。
アイ04はお休み中。
4人シフトの一箇所は8時間の休憩だ。
寝ててもいいし、遊んでても良い完全な自由時間だ。
アイ04は先日アイカが入手してきた百科事典なる物を読んでいる。
自分の義体を遥かに越える重量と大きさだが、アイ達の義体はこれでティア5の航空機並の技術レベル。
フレームは超々ジュラルミンだし、主機は小型ながら超電導の油圧モーターだ。
バッテリー駆動だが、あばれなければ12時間以上は持つ電源を積んでいる。
成人男性に匹敵するアイ達の義体の膂力ならば百科事典はさして大きな負荷ではない。
「ほうほう‥‥なるほどぉ」
アイ04は植物や花が大好きで、今は花弁の構造を勉強中。
きれいな絵のついた図鑑はお気に入りだ。
「ふわぁ‥‥」
ちょっと眠くなってしまい、うたた寝を始めるアイ04。
開いていたお花の絵に抱きつくように寝てしまう。
表情ホロもちゃんと睡眠中に切り替えて、すやすやぁとしていた。
アイ達もいつのまにかスリープ機能を使わなくなっている。
それはアイカの影響なのか、アイカと同じ環境で運用されるからなのか、定かではない。
ただし、その寝顔には同じ種類の微笑みが添えられるのだ。
幸せだよと。




