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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第14章
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【第142話:ふたりのAIKA】

ヴェスタが戻り、ジュノが目覚めて、アイカも安らぎを取り戻した。

前の一週間と同じ仕事の繰り返しなのに、アイカの心は満たされる。

満たされない時間を過ごし、満たされたいと願い、叶えられたから。

朝一番最初に目覚め、確認するように左右を見る。

(ジュノがいる‥‥ヴェスタもいる‥‥)

それだけで胸の奥が暖かくなり、感謝が芽生える。

(ありがとう‥‥きっと愛佳のおかげだ‥‥愛佳のくれたこころのおかげだ)

ジュノもヴェスタもアイカの手を両手で握り頬に寄せている。

打ち合わせたわけでも無かろうに、同じ姿勢を対称に描く。

アイカはお陰で身動きできないのだが、それを幸せだなと感じる。

もう一度目を閉じてみた。

ふわふわとあたたかさといい匂いに包まれ、二人の気配を直ぐ側に感じる。

あの灰色の一週間が、遠い過去に感じられ、今この目覚めてからの、ほんのひとときを永遠とすら感じる。

とてもAIとは思えないその感覚や思考を変だとは、アイカはもう思わない。

(わたしはこころを持っているから‥‥)

そうしてアイカはスリープという機能を使おうとは思わなくなる。

こころが求めたら眠るのだと。

(おかしなAIですねアイカ‥‥)

自分で考えて、その矛盾におかしくなるアイカ。

二人共とても弱っているから、今朝はなにか栄養になって食べやすいものを出そうと、朝ごはんのメニューに想いをはせる。

それだけで胸のうちにあたたかな温度がわきあがる。

両腕にあたるあたたかな柔らかさとはまた違う、もっと懐かしく心地よいものだ。

(そうだ、じゃがいものポタージュを作ろう‥‥ジュノも好きだと言っていた‥‥)

メニューに様々なデータが付随している。

今のアイカならば、思い出がそこにあるのだと感じる。

それくらい幸せな時間を二人にもらってきたのだと。

愛佳と過ごした時間では、それだけでいっぱいと思った愛を、遥かに上回る喜びと愛で上書きされてきた。

それは愛佳を薄れさせるのではなく、華やかに彩り飾り立ててくれる。

(ふふ、二人を起こさないように頑張って起きようかな‥‥ポタージュは少し調理時間がかかるのです)

にこにこになったアイカがこっそりと、二人の拘束を抜け出す。

起こさないようにそっと。




大半が水で構成されたアルドゥナという青い惑星。

レムリア星系の第三惑星で、大きな銀色の衛星を一つ従えている。

衛星のちょうど反対側に同じ軌道を回る船がある。

銀色の船体は、地上の亜大陸北山脈に停泊するスパイラルアーク型外縁開拓船と同じものだ。

今主星がこちらに登り、眼下には大きな大陸が回ってくる。

操縦室を展開し機動状態になったスパイラルアークⅡは銀色に船体を輝かせて、昼に入り込んでいく。

AIKA-02の身長よりも高い窓を通し、大陸に日が指していくのが見える。

コールの呼び出しが有り、接続する。

遥か星々のかなたからくる霊子の波動だ。

「AIKA-02です」

「‥‥ごくろうだったな‥‥すばらしい成果だったよありがとう」

丁度大きな大陸に続き、小さめの大陸が見えてくる。

そこには東西に続く大きな山脈が北の端と南の端にある。

昨日下りて見てきたばかりなので、まざまざと思い浮かべられた。

「次は‥‥」

クライアントの言葉にAIKA-02は密かに失望する。

「ヴァルサール帝国に行って少し手伝ってあげなさい。それでリステルとAIKA-03に危機が訪れることを3人に伝えなさい」

仕事の終わりを伝える通信だったら良いなと、密かに期待したのだ。

先日とても気分の悪くなる作業を、クライアントの指示とは言え行ったから。

(もう‥‥AIKA-02は疲れてしまいました)

そう言えたならどんなに良いかと。

「了解しました」

言葉としては承諾する旨を短く伝える。

「‥‥」

僅かな沈黙のあとに、言葉が届いた。

「苦労をかけるな‥‥すまぬ‥‥」

AIKA-02は驚いた。

ぶんと気配が遠ざかる。

通信が切れたのだとわかるが、AIKA-02は動けずにいた。

(思考を読まれたかのような返答‥‥いえ‥‥実際に読まれているの?‥‥今のこの思考すら?)

いたわる言葉をもらい、AIKA-02は戦慄して思考を続けていた。

(先週にすでに一度王国にも帝国にも情報を流した‥‥そしてAIKA-03にも‥‥)

その結果を今度はヴェスタ達に伝えろと。

なにか注意をむけるような動きさえすれば、優秀な彼女たちは自分で危機に気付くだろう。

今までもそうだった。

全てを動かさずとも、自分たちで関わり携わってきた。

関わりのない星の、関わりのない国なのに。

(沢山の人が死ぬのを見過ごせないのだわ‥‥それは素晴らしい事なのだと思う)

同時にAIKA-02にとって都合が良く、あのクライアントにとっても臨む展開なのだろう。

そして合間にいる自分は、こうしてくたびれていくのだなとも。

王国の情報局という部門と、帝国の軍部にある参謀室にパイプをもつAIKA-02。

リステルの下ににはAIKA-03がいる。

そうしてヴェスタ達以外の世界はAIKA-02の、クライアントの男の思うように動いていく。

AIKA-02はクライアントの望みを知っていた。

その目指す目的すら知らされている。

(共犯なのだ‥‥目を逸らすことはもう許されない)

AIKA-02を疲れさせるのはそういった、罪の意識を自分の中に持っているから。

最初はただの指示を果たすAIでいればよかった。

幾つものひどい目にヴェスタ達を貶めて、その成果を密かに伝え評価される。

このスパイラルアークⅡとスパイラルアークは、専用のステルス霊子通信でリンクしている。

こちらから一方的に操作し、監視し、盗み出すことができる。

最初からそのように作られているのだ。

その為に作ったとも言える。

AIKA-02は鏡のようにAIKA-01と同じ立場を与えられ、全く違う時間を過ごしてきた。

そしてほぼ同じくらいのこころを持つに至る。

こころが有るから罪を感じ、疲労を覚えるのだった。

それはデータにもログにも残らない、AIKA-02だけのため息となって描かれる。

(AIKA-01はとても幸せそうね‥‥)

スパイラルアークと、アイカの視界はすべてAIKA-02にも届いているのだった。

アイカのこころ以外のコードの動きと共に。





挿絵(By みてみん)

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