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【ヘリカルスパイラル】  作者: Dizzy
第1部 第14章
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【第141話:ジュノの事情】

アストラル・プロジェクションを解除したアイカは、握ったままのジュノの手が温もりを取り戻したことに気付く。

(よかった‥‥ジュノ‥‥あたたかくなってきた)

ふわりと微笑みが浮かぶアイカ。

それはジュノの為であり、ヴェスタの為でも有り、なによりもアイカのこころの為に浮かべた微笑みだった。

頬にジュノの手を押し当てる。

(あとはゆっくりと休んでねジュノ‥‥目が覚めると信じている‥‥)

それは確信をもってアイカにはわかること。

直接こころを触れ合わせたからこそわかる答えだった。

ジュノはあの井戸の底にもういないのだと。

あたたかなこの腕の中に戻ってくるのだと。

目を閉じたままのジュノの頬にも色が戻る。

まだ頬はこけて痛ましいが、うっすらと血の気がもどり、どこか微笑んだように表情も緩んだ。

(ヴェスタにも教えてあげなくては‥‥本当に良かった‥‥)

アイカは気を失うようにジュノの横に頭を落とし寝てしまう。

ジュノの手のひらを大事そうに胸に抱いて。

ずっと寝ていなかったアイカのこころも、今やっと救われたのだ。




ジュノの両親は人間の義体工場での出産に反対する活動団体の幹部だった。

それは人間のエゴによる生産であって、出産ではない。

神の教えに反するものだとして、連邦内でも有力な宗教団体の後援を受けていた。

翻って見れば宗教団体を票田にしている政治派閥の活動ともとれた。

その宗教団体の教えでは、一夫一妻は当たり前で、無垢と純潔で望み愛された子が世界を潤し世を正すと説いた。

両親も活動化の前に熱心な信者でもあり、互いを愛し子を愛でていた。

ジュノには8つ上に兄がいて、仲もよく尊敬できると思っていた。

そうして4人家族でジュノは育っていった。

容姿も似通っていて、美しい琥珀の肌にコバルトの澄んだ瞳。

美しくまばゆい金髪の、全ておそろいのような家族だった。

幸せを絵に書いたような日々は、子供だったジュノには、ただ愛される日々と感じられていた。

そうしてジュノは幸せの定義をも育てていったのだった。

愛されて育まれるジュノはすくすくと健やかに育った。

そして悲劇が起こる。

ジュノはすべての幸せを否定され、自己否定の中悲しみを癒やす術を失い、救い出された。

この事件は両親の活動にとって、非情に都合が良かった。

背景組織からも前面に押し出すように指示があり、世に問い波紋を生み、そして活動団体はその評価を上げ、両親もまた団体内での存在感を増した。

ジュノは愛されるしあわせな娘から、愛を奪われた悲しい娘として世に知られる事となる。

もちろん名前も顔も出さないし、具体的な内容は公開されない。

ただその時期に両親の名前が世に知れ渡り、その娘は学業を断念し家に引きこもっていると。

どうやら、なにか事件があり娘は被害にあったらしいと。

いったい何処から情報が漏れるのか、家族でしか知り得ない情報までが出回る。

もちろんそこでも名前も顔も出さないし、具体的な内容は公開されないのだが。

まことしやかに都合のいい情報だけが世に溢れ、両親は思いがけず団体内での発言力を増したのだった。

「ジュノ‥‥悲しいことが二度とあってはいけないの。貴女は愛されるべく生まれ育まれたのだから」

母はそういって、同じ被害を出さぬようにと共に活動するよう誘う。

それはジュノを否定した事件と向き合えということで、それを世に訴えろと言う話だった。

ジュノの兄はちょうど両親の後押しと、背景団体の推挙から政治活動に進路を取っていた。

「ジュノ‥‥兄さんの努力を応援してあげないか?お前の辛かった時間がそのまま兄を後押ししてくれるのだよ」

父はそういって兄の肩を抱いて、二人でジュノに微笑んだ。

兄は今からが大事な時期なのだとも。

そしてまた、ジュノから様々なものを奪い、悲しみだけを押し付けた事件を捧げろとそう詰め寄った。

ジュノは幸せの定義を失い、自分を許し癒やすことすら許されなかった。

それはたぶん皆にとって都合が悪いのだなと、ジュノには感じられた。


ある日ジュノの前にスカウトが現れる。

ジュノは成績は並より上程度だったが、運動面で素晴らしい成果を残していたのだ。

幼少より続けていたフィギアスケートでもスカウトが来たことがあるくらいの、恵まれた運動資質を持っていた。

あたらしい国家プロジェクトのために人材を探していると。

その団体もまた両親と同じ政治団体につながっていた。

両親はしぶしぶながら了承し、娘を説得した。

「これはジュノを幸せに導く光なのだよ」

両親はそういって涙を流し、別れを惜しんでくれる。

兄からもメールで寿ぎと、エールを送られた。

そうしてジュノはプロジェクトの前段階として、軍の訓練校に入学し規定の基準をクリアするよう求められた。

家族とはなんだったのだろうと考えながら。

その美しかった金髪は色を失い、白金へと色を変えていた。

もう自分は家族ではないのだと定義するように。




(イヤなこと思い出しちゃったな‥‥)

目覚める前のぼんやりした時間にジュノは昔の事を思い出した。

意識して思い出さないように避けていた時間。

訓練学校に入ってからも失敗や嫌なことはあったが、それらはジュノを構成する欠片であって無くして良いものではない。

もっと昔の幸せだけを感じていた時間も、ジュノを構成する大切なひとひらだ。

(‥‥あぁわたし、自分が嫌になって消えてしまおうとしていたのだわ)

悲しみの痛みが胸に戻る。

思い出したのだ自分の罪を。

(ヴェスタ‥会いたいよ‥‥アイカ、戻りたいの‥‥幸せだったあの3人の世界に)

瞳に力が入らない。

目覚めて世界に挑む力が無いのだ。

ぽおと胸が熱くなる。

苦しみや痛みではない、やさしいあたたかさ。

(知っている‥‥このぬくもりを)

気配が有る。

温度と柔らかさと匂い。

視覚によらないその気配は、幸せだとジュノが定義したもの。

(とどいたよ‥‥あぁ‥‥ありがとう‥‥わたしを呼んでいる‥‥)


「ジュノ!!」

「じゅのぉ!!」

痛いくらいに抱きしめられている。

柔らかな温度と匂い。

「‥‥ごめんねヴェスタ‥‥ただいまアイカ‥‥」

二人の泣く声と温度に、ジュノも胸が熱い。

苦しみではないその温度にジュノは癒やされる。

今自らにもあふれでる涙は、少しづつジュノを許すのだった。






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