真実・下
画面は、JR大阪駅の風景のように見える。人が少ない改札の少し離れた場所で、何処かで集めてきたような弁当やパンの残りを、ホームレスの男二人が食べていた。そこへ突然、少年二人がバッドで殴りかかった。
殴られるホームレスは悲鳴を上げて逃げようとするが、少年たちは執拗にバッドで背中を殴っている。「ぎゃ!」「ひぃ!」と声を上げ逃げようとするホームレスたちの足を、何度も蹴っていた。生々しい人の殴られる音、悲鳴、笑い声。「ひっ」と、池波の母親が声を上げた。カメラは、少し離れた場所からズームで撮影していると思われる。
「いだい、……た、助け……!」
ホームレスの一人が、一際大きな声を上げた。すると、駆け寄ってくる誰かの足音が聞こえる。カメラの傍で、口笛が聞こえた。大きさから考えると、カメラを撮影している人物が口笛を吹いたようだ。それに気が付いた襲撃者たちは、慌ててその場から立ち去った。
「こら、待て!」と駅員が叫ぶが、キャップ帽とネックウオーマー姿の二人は振り返らずに走って行った。そこで、カメラが切り替わる。
「やべぇ、快感!」
服装はさっきの二人だった。暗い中明るく辺りを照らす自動販売機の前で、顔を覆っていたネックウオーマーを、バットを持つ手で外した。そこから顔を覗かせたのは、池波隼人と掛川克己だった。弁護団から、ザワっとした声が上がる。
「すげぇ楽しいな! これ、最高じゃん!やっぱり、神崎さんってすげぇ!」
「だなぁ、あの顔見たか? 傑作! 腹痛てぇや」
池波と掛川は、興奮したまま楽し気に話し合っている。「そんな……」と、三浦社長が声を零した。池波夫妻も、顔が真っ青だった。そして画面は不自然なカットが入り、池波のものらしいバイクに掛川が後ろに乗って、バットを手に走り去っていった。
そして次は、深夜の商店街の様だ。人も少ない路地の隅で、二人のホームレスが少し離れて寝ているようにみえる。池波の母親は、また暴行が始まるのかと怯え、がくがくと震えて夫の腕にしがみついている。カメラは、最初の時の様に少し離れた場所から、ズームでそのホームレスを撮影していた。
そこに、また同じような姿の二人が、走ってホームレスに向かっていく。既に、バットを振り上げながらだ。しばらくして、そのバットが寝ているホームレスに叩きつけられる。バキッと聞こえた大きな音は、肋骨を砕いた音なのかもしれない。「ぎゃあ!」「何……? いたっ、痛い! 痛い!」ゲラゲラと笑いながら、少年たちは叫ぶホームレスたちに容赦ない攻撃を振るう。何度も体を蹴り、バットを叩きつける。
それは、作り物ではない本当の恐怖が映し出されていた。弁護団と、検察達も声が出ないようだ。暫く暴行の様子が映っていたが、一人の動きが止まった。「あれ? こいつ、動かへんで?」「え? やべ、死んだ?」短いやり取りの後、少年二人は慌ててそこから走りだした。カメラは、少年たちが走り出す方に向けられ、また画面が切り替わる。続いて映ったのは、また同じ自動販売機の前だった。その横には、池波のバイクが置かれている。
「ヤバいで……さすがに」
掛川は、青い顔になっていた。しかし、池波は興奮したままの顔だった。
「かっちゃんだけ、ずるいわ! 俺も殺してみたかった。次は俺がやるから、また行こうや」
掛川が何度も首を横に振るが、池波は興奮が収まらないようだった。力なく項垂れる掛川を後ろに乗せて、池波はバイクでそこを立ち去った。
窓村弁護士は、額に浮かぶ汗をハンカチで拭っている。こんな証拠があるなら、まず勝ち目はない。普通の弁護士なら、手を引くだろう。もしくは、減刑交渉くらいだろう――それでも、やりたくない案件だ。
そして次に、高架下らしい深夜の道が映った。事件列で行けば……最後の事件だろう。カメラは、電柱に凭れ掛かり拾い煙草を吸っているホームレスを映していた。しかしこの撮影は、二件とは違い近い場所から撮影しているようだった。
カメラの前に、池波が姿を見せた。キャップ帽とネックウオーマー姿ではなかった。興奮しているのか、上気した陶酔したような顔をしているが、その手には文化包丁が握られている。映像を見ている全員が、思わず息を飲んだ。
池波はそのまま、ぶつかる様にホームレスの正面から包丁を胸に刺した。
「……?」
ぶつかられたホームレスは、一瞬何が起こったのか分からないようだった。しかし自分の胸に刺さっている包丁を見て、目を見開いた。池波は、包丁を抜く。すると血が溢れて、自分の顔や服にも付着する。それに興奮したのか、池波は何度も包丁を抜いては差しを繰り返した。ホームレスは声もなく、刺される度にグラグラと体を震わせていた。
そうして、池波はぐっともっと深く、包丁をホームレスの体に押し込んだ。身体を離すと、ホームレスは声もなく地面に倒れた。そして、また不自然なカット編集が入る。顔に血を付けた、興奮した池波の顔がアップで映し出されている。目の焦点の合わない、興奮に笑いが堪えられないようにニタニタと笑っていた。
「神崎さん、ずるいよぉ……こんなに楽しい事、あるなんて知らなかった……へへ…すげぇ……、刺した時に勃起しちまって、オッサンが倒れた時射精しちまった……」
「……ぐうっ……!」
池波の母親が、口元を押さえて会議室を飛び出した。顔色の悪い父親も、その姿を追うように部屋を出た。
会議室は池波の狂ったような笑い声がしばらく続いて、そして映像は終わり静かになった。事前に見ていた櫻子や室生署長と市井副署長も、何度見ても不快になる映像だった。笹部も見ていた筈だが、いつもの様にぼんやりとノイズの画面を見ていた。




