真実・中
櫻子の鼓膜が被れていないか、何処か痛まないかなど、意外と簡単な問診と触診で終わった。気を失っていた時に、骨などの異常はないかレントゲン検査をしていたらしい。笹部が庇ってくれていたのが大きく、怪我をしていないのは彼女だけの様だった。あの現場を見る限り、奇跡の様だ。
曽根崎警察署の管轄の制服警官が、念のため病室の入り口で警戒していたらしい。櫻子が笹部を連れて篠原と宮城の様子を見に部屋まで行くと、二人の部屋の前にもいた制服警官二人が慌てて櫻子に敬礼した。
篠原は麻酔がまだ効いているのか、眠りについている。その隣のベッドには、同じようにまだ眠りから覚めない宮城も寝かされていた。二人には点滴の針が何本も刺されていて、櫻子はそれが問題ないモノか調べないと不安だった。笹部に薬品名を調べて貰い、それでも異常なものが混じってないか、気掛かりだった。何度も看護師に聞くので「ボス、大丈夫ですよ。連続で動くほどの相手ではないでしょう」と、笹部がやんわりと宥めた。
篠原は裂傷を多く受けていて、先ほど笹部に聞いたように腕の関節が抜けていた。そして胸部を廊下のコンクリートに打ち付けた際の、胸部強打と肋骨の軽度のヒビ。宮城はドアが壁になったようで、肋骨のヒビと篠原と同じく腕の脱臼ぐらいで済んだようだ。あの状態で二階から落ちなくてよかったと、櫻子は大きく溜息を零した。
「ボス、そろそろ曽根崎警察署が動きます」
ノートパソコンで何かを調べてから笹部はそう言うと、すぐにそれをカバンに入れた。櫻子は心配そうな顔のまま、頷く。
「私たちは行かなきゃいけないから、あとはお願い。絶対に不審者を入れないで――二人を、守ってね」
櫻子は篠原たちの部屋の前に立つ制服警官二人の手を強く握って、そう心からの願いを口にした。それから笹部を連れて、急いで曽根崎警察署へ向かった。室生が呼んだ三浦板金関係者と池波隼人の家族、弁護士が来ているはずだ。
「ごめんね、笹部君。貴方は怪我をしているのに、こんな時に私の連れをさせて」
拾ったタクシーの中、櫻子は笹部に頭を下げた。血の滲むジャケットが痛々しい笹部は、軽く首を傾げた。
「篠原君がいないなら、僕がボスを護らないといけないから気にする必要性はないと思いますよ?」
そうして、暗い車窓を流れる灯りに視線を移した。
「……爆発の威力が、大きすぎましたね。火薬が多すぎたんでしょうか」
海藤の事も気がかりだったが、池波の事件を解決しようとしている曽根崎署に、立ち会わなければならない。櫻子は、笹部のその言葉を聞いて意識を変えようとした――だが、何かが気になっていた。見えているはずなのに、何かを忘れているような気がする。
落ち着かない思いを抱えたままの櫻子を乗せたタクシーは、すぐに曽根崎警察署に到着した。
「刑事さん! 無事でしたか!!」
会議室で集まっていると確認した櫻子達がそこへ向かうと、三浦社長と妻の妙が驚いた顔で迎えてくれた。室生署長は櫻子が来たことをあまり良くは思わない顔をしたが、二人の椅子を用意させた。
「板金所の方が、宮城と篠原を助けて下さったと聞きました。本当に、有難うございます」
「あの方たちは、ご無事なんですか?」
三浦夫婦に頭を下げると、妙は心配そうに声をかけてきた。
「命に別状はないそうですが、今はまだ病院のお世話になると思います。本当に有難うございます」
「神崎さんの事も気になりますが、まずは池波君の事で話があると聞きましたが? 私は、弁護士の窓村です」
時間も遅いので、用件を先に聞きたいという感じで、初老の男が口を挟んだ。室生が手短に、池波の両親、検察の大村、検察事務官の岩井を紹介した。曽根崎警察からは、室生署長と市井副署長、刑事課の富田が揃っていた。
「そうですな、時間も遅い中よう集まってくださいました。内容が少々ショッキングなものですから、気分が悪くなったら外に出て下さい。これを見て、まだ池波君が冤罪として裁判するか、決めて下さい」
室生はそう言うと、証拠品袋からDVDを取り出した。櫻子達は、モニターの前に置かれた椅子に、大人しく座った。
室生が頷くと、富田が再生ボタンを押した――そうして、笹部が見つけた動画サイトと同じものを再び見ることにした。




