真実・上
最初に見えたのは、白い天井だった。
頭がぼんやりしていて、中々意識がはっきりしない。櫻子は、ゆっくり自分の身に何が起きたのかを思い出そうと再び瞳を閉じた。
「……ボス、意識が戻りました?」
耳元で聞こえたのは、聞き慣れた笹部の声だった。瞬時、ようやく海藤の部屋で爆発が起こった事を思い出した櫻子は、飛び起きる様に上体を起こした。
「笹部君、貴方は大丈夫なの? 篠原君と宮城さんは!?」
自分は、どうやら病院のベッドに寝かされていたらしい。傍らに座っていた笹部の左頬は、白いガーゼで覆われていた。
「僕は、頬と腕に爆風で割れたらしいガラスで少し怪我をしました。篠原君は落ちそうになった宮城課長を腕で掴んだので、肩の脱臼とガラスや建物の破片で僕よりも負傷しています。何針か縫っているみたいですね。それから、麻酔から目が覚めたら他の検査もするそうです。宮城さんは、駆けつけた三浦板金の人達にも助けられて無事ですが、肋骨の何カ所かにヒビと腕の脱臼を負ったようです。僕は手当てを受けてからボスの傍にいたので、二人の姿を見てません」
時刻を見てみると、21時を少し過ぎたくらいだ。
「私が怪我しなかったのは、貴方が庇ってくれたからね……有難う、笹部君」
よく見れば、怪我をしている笹部は血で染まり裂けたジャケットを着たままだ。ジャケットの腕の裂け目から包帯が見えたので、手当は受けているようだ。櫻子は少し安堵したが、姿を見ていない篠原と宮城が心配になる。
「海藤さんは、残念ながら爆発の一番近くだったので即死らしいです。遺体は直ぐに検死に回されました。現場は、鑑識が今調べています」
――また、助けられなかった。涙が出そうになるのを耐え、櫻子は唇を強く噛む。
「ボス、血が出ています」
笹部は、ジャケットのポケットから薬用リップを取り出して櫻子に渡した。そんなやり取りを、誰かとしたような覚えがあった。ぼんやりそう思いながら、口に広がる鉄の味で強く噛み過ぎた事を自覚する事が出来た。櫻子は、まだ意識がはっきりしない自分を、心の中で叱咤する。
「刑事局長と室生署長から、何度か連絡がありました――ボスのスマホに表示されてるのを見ただけですけど。室生署長には、さっき――僕の手当てが終わってからだから19時くらいですね、僕が連絡しました。鑑識が海藤さんの部屋から見つけた『DVD』を確認して、池波容疑者の関係者を集めるそうです」
「『DVD』?」
「あの動画サイトにアップされていた動画と、同じ内容みたいです。それから、曽根崎警察署内で記者会見をする予定みたいです。爆発の事は、ニュースでも流れたんで、結構なニュースになっています」
自分が動く前に、捜査課に情報が流れてしまった。あの動画を見れば、池波の罪は『冤罪では無い』と警察側は安堵しただろう。池波の冤罪を訴える弁護団を早く押さえつけたい為、記者会見も早く行う筈だ。自分が気を失っている間に、室生は迅速な行動に出たようだ。自分に邪魔されない様に、とは分かっていた。
「掛川容疑者は?」
池波の、『暴行』仲間だ。櫻子は海藤の家に向かう前の、あの理由の分からない不安さを再び思い出す。理由の分からない『想い』や『行動』は、櫻子が苦手なものだった。説明できない感情や出来事に納得できなくて、それを解明する為に自分は常に行動している。
「捜査課の人に話して……富田さんでしたか? あの人に捜索に向かって貰いました。それから報告は来ていません」
「そう……」
一通り報告を終えた笹部は、看護師の呼び出しボタンを押した。櫻子も気を失っている間に簡単な検査をして貰っていたが、目が覚めた事を知らせなければならない。
「一条さん、目が覚めたんですね? 先生を呼んできますから、少し待っててください」
救急外来の部屋だったらしく、すぐに顔を見せた看護師は急いでまた部屋を出て行った。
「……笹部君」
「はい」
「篠原君、――無事よね?」
爆風の中で宮城を必死に助けようとした篠原の姿が、制服姿の亡き父の背中と重なる。
「彼は、頑丈さが一番の取り柄です。次は、誠実さ。僕より、ボスの方が分かっているはずじゃないですか」
笹部がそう答えると、医者と看護師が慌てて部屋に入って来た。




