爆発・下
宮城を連れて来た篠原と合流して、篠原の運転で四人は三浦板金へ急いだ。珍しく、櫻子は余裕がない表情で宮城と並んで流れゆく車窓を見て座っていた。
「新井君、神崎さんは!?」
三浦板金の前に車を横付けすると、櫻子が飛び出して作業していた従業員に大きな声で尋ねた。丁度新井が手にしていたスプレー用の缶を置いて出てきた。
「おねーさん、どうしたんですか? 今日は、神崎さんはお休みなんで寮に居ると思いますよ?」
「彼の部屋は何号室?」
櫻子の様子に何かを察知したのか、質問せずに新井は工場の先から見える、アパートの二階の一番端の部屋を指差した。
「201号室、一番右です!」
その言葉に、四人は足早に向かう。宮城には、「海藤が危ない状況だ」としか説明していない。だが、彼は深く質問せずに櫻子の指示に従って迅速に行動していた。
雨が降りそうだから曇ってきたのか夕方近くだからなのか、不安になる様に空が薄暗く濃くなってきた。
櫻子のハイヒールが、錆びた鉄の外階段をカンカンと弾むように踏んでいく。階段が左側の204号室側なので、201号室は三部屋の前を通り抜けて行かなければならない。
何故かその時、篠原は最初の事件を思い出した。国府方紗季の部屋を訪れた、あの日を。
神崎の部屋の201号室には、ビニール傘が斜めにドアの前に転がっていた。見れば、台所の小窓の前にある柵にも、もう一本黒っぽい傘がかかっていた。そこに掛かっていたのが何かの拍子で、一本落ちたのかもしれない。
「神崎さん! 神崎さんいる!?」
櫻子はその傘を避けて立つと、ドアを何度もノックしながら神崎の名を呼んだ。
「……海藤、宮城だ」
その隣で宮城も櫻子の奥に並んで立ち、ドアに向かって声をかけた。
「開けてくれ、話したい」
ドアの向こうで、ゆっくりと動く人の気配がした。
「――宮城さん、すみませんでした……お怪我は?」
間違いなく神崎――海藤の声だ。宮城に怪我の事を聞くという事は、自白のようなものだった。力なく、どこかぼんやりとした声音だった。
「俺は怪我をしていない。代わりに、部下が二人怪我をした。だが安心しろ、軽症だ」
「すみませんでした……関係ない人を巻き込んで……私は、私はなんてことを……信じていたのに、まさか、池波君があんな…! 私はやっていないのに……!」
海藤は、ドア越しに涙声で謝罪を口にしていた。彼は、『真実』を知ったのだ。櫻子は刺激しない様に静かに声をかけた。
「分かってるわ、池波君を信じたから、あの爆弾を宮城さんに送ったんでしょ? でも、貴方は最後まで躊躇ったから、殺傷能力が低い爆弾を送った。本当に、怪我をした人は軽症なの。お願い、話を聞かせて欲しいから開けてくれない?」
「……すみませんでした、今開けます」
その言葉を聞き、安心したように櫻子と宮城の顔がほっとしたものになる。
「あ、待ってください。外開きみたいなんで、傘が邪魔ですね」
笹部がふと気づいて、櫻子の左腕を掴んでドアの前から離れさせると、屈んでビニール傘を拾った。ドアの構造を理解した宮城も、櫻子達がいる手前の方に動こうとした。
ドン!!
鼓膜が麻痺するほど大きな音がした。それに、空気を大きく揺らす衝撃。
衝撃音で耳が聞こえない――音のない視界の中、櫻子の目の前で海藤の部屋のドアが吹き飛ばされて、その前に居た宮城に激しく当たる――その勢いに押される様に、通路の錆びた柵に宮城とドアがぶつかる。その衝撃で柵が折れて、宮城とドアが落ちそうになるのが見えた。
「 」
櫻子は笹部に抱き寄せられ、彼の胸に抱き締められた。落ち行く宮城に多分彼の名を呼んだだろう、何かを喋ったらしい篠原の腕が伸びた。一瞬の出来事なのだろうが、櫻子にはそれらが全てスローモーションのように見えた。
伸ばされた篠原の腕が、宮城の腕を何とか掴む。それを見た櫻子の意識は、そこで途切れた。




