表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アナグラム  作者: 七海美桜
罪びとは微笑む

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/188

犯人・中

「あいつは危険や。ホンマに、篠原と笹部だけの護衛で、大丈夫なんか?」


 帰りの高速で、香田は静かに櫻子に尋ねた。先ほどまで香田に抱かれていた体は、ほかほかと何処か温かい。櫻子は周りの男を意識するようになってから、若くて優しい流星と年上で何処か気持ちの読めない香田、二人にいつの間にか心惹かれていた。



「信用できない人間は、傍に置かないようにしているの。それに、私は守って貰う女じゃないわ。篠原君も笹部君も、十年前ほどからの行動を、ちゃんと調べているの。二人は、桐生の手先なんかじゃない」


 櫻子はそう言うと、左の(てのひら)を撫でた。その仕草が何故か気になり、香田はそれを見ていた。

「……そうね。何かあれば、『共通の敵』である貴方に連絡するわ」

「そうしてくれ――アイツがあの牢獄から出てる時は特に、な」

 警察の繋がり以上に、組で酌み交わした『盃』の関係は強い。桜海會は参加の組も総出で、桐生を殺す気だろう。桐生が自分で自由にあの牢獄を出ている事を既に調べているのも分かっているのが、その証拠だ。最近は、ネット関係にも強い組が多い。彼らも必死に桜海會の嫡男を殺した男を、探している。


 ――それも悪くない、と櫻子は不意に思ってしまった。桐生と出会ってから、自分は弱くなってしまっている気がする。本当は自分以外は、信用してはいけない。そう教えられた。もし頼りに思う人物に出会えても――その人物が、もしかすると桐生の息がかかった人かもしれない。どこに『桐生の陰』が存在するのか、分からないからだ。


 だから、そんな状況が長くなればなるほど――誰かに、桐生の存在を消して欲しい、と願う時が多くなった。桜海會を利用できるなら……それも、悪くない。そう、考えたのだ。



 曽根崎署近くに戻ると、桜海會の顧問弁護士の真田が立っていた。暑い日差しを避ける様に、ビルの陰に立っている。今日は涼やかな、落ち着いた色合いの青いスーツ姿だ。手には、赤い紙袋があった。今は『海藤冤罪事件』の再審請求で忙しいと思うが、疲れた様子はない。

「お疲れ様です。池田君、交代です」

 その言葉に、素直に池田はシフトをパーキングにしたままサイドブレーキをかけて、運転席から降りた。そして代わりに、真田が運転席に乗り込んだ。そして運転席の窓から、池田に赤い紙袋を渡す。


「一条さん、うちの店のホストへのストーカー行為を行っていた女性が殺害されてきた件で、捜査課の方と話してきました。また、何か分かりましたら教えてください。私たちは、これから被害に遭っていた彼に会ってきます。池田君は、今日は護衛代わりに置いて行きますね」

「え? ちょっと、それは……」

 こんなに目立つ姿の池田は、護衛にならない。焦って断ろうとする櫻子側のドアを開けて、池田が「さあ、姐さん」と促してきた。

 戸惑いながらも降りようとした櫻子の肩を、不意に香田がぐいと掴んで引き寄せた。そうして、また唇を噛んでいた櫻子の薄く血が滲んだ唇を舐めた。


「折角綺麗な唇やねんから、あんまり噛むな」

 そう言って手を離すと、その背を軽く押した。ドアから押された櫻子の体を、池田が受け止める。その合間にドアが閉まると、軽く頭を下げた真田は車を発進させた。

「姐さん、まだ痛いですか? なんなら、俺も舐めますけど?」

「――大丈夫よ、揶揄(からか)わないで」

 楽しそうに笑う池田を横目に、櫻子は腕時計で時間を確認した。もう、15時を少し過ぎている。


「さくらこちゃーん!」

 取り敢えず曽根崎警察署に向かおうとした櫻子の耳に、幼い少女の声が聞こえた。

「え? ――唯菜(ゆいな)ちゃん?」

 そこには、半袖に水兵をイメージしたような可愛らしいデザインのワンピース姿の唯菜が、麦わら帽子を被って笑顔で走り寄ってくる姿が見えた。その唯菜が転びそうになるのを、池田が受け止めて抱き上げた。

「こら、唯菜! ……え? 一条警視と池田さん?」

 そこに、彼の叔父でもある篠原が慌てて追いかけてきた。そうして、奇妙な櫻子と池田の姿を不思議そうに見つめた。

「あなた、だれ?」

 自分を抱き上げる池田を、唯菜は不思議そうに見下ろした。

「俺は、池田哲平。さくらこちゃんと大雅(たいが)お兄ちゃんの友達やで」

 池田は子供が好きなのか、優し気な笑みを浮かべてそう唯菜に話しかけた。唯菜はそれで納得したのか、池田の髪のピンを「かわいいね」と指さして笑う。


「池田さんと――『彼』に会いに行ったんですか?」

 篠原は、状況が分からない。唯菜を抱かせたままなのも申し訳なく池田に謝り、それから櫻子に視線を向けた。

「池田君は、運転してくれてたの。それより――カルテ、手に入った?」

 兵庫県赤穂を出る前に、櫻子は篠原に電話をして竜崎と例の廃病院に行って、桐生が話した『カルテ』を探してくるように言っていた。

「はい、それは持って帰ってきました」

「そう、じゃあ――とりあえず……」


「小腹補給に、おやつもありますよ」

「わぁ、豚まん!」

 櫻子と篠原の会話を遮ったのは、池田だ。真田に渡されたのは、大阪が誇る『551蓬莱(ほうらい)』の紙袋だ。それに、唯菜が嬉しそうに声を上げた。


「……お茶しながら、話しましょうか」

「はい……」

 櫻子が小さく息を零すと、篠原はおとなしく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ