無垢のインケラーシャ6
斜陽が落ちる。薄曇りのビードロに差し込む意気地のない木漏れ日がちらちらと煌めく。
「どうなさいましょう。現場の状況はとうに佳境と推し量ります。私の使い魔では、今さら何を伝えようにも後の祭りかと。彼らの帰還報告を待ちましょうか」
読み上げた紙片、というにはかなり長い報告書もどきを、私は懐に畳んだ。
「いや。言い訳まがいの事後報告なんかいらないよ。何のための特危管だ。何のための王の眼だ。事を為すための剣も、知恵も与えた。ぼくの代わりにぼくと遜色ない成果を出すのがトキの役目だよ」
「……つまり、お手を貸されるつもりはない?」
「ぼくがマクトベラシュカにいたら、失敗を嘆きながらここに戻ってくると思うかい?」
「いえ。一切鏖殺して帰還なさるでしょう」
「お前もしかしてぼくのイメージ悪いな! そんなことしないぞ!」
「しかし、王がたった今知りえたことを、果たして王の眼は知りえない。よもや自力で、アノマリスがホロウメラデュラであると推察せよと仰せになるおつもりでしょうか。それは王の言にあった成果に影響がないと」
魔王は気だるげに嘆息した。外の時計台から鐘の音が聞こえてくる。戌の刻だ。王の間の燭台に一斉に灯りが燈る。宵闇に薄ぼけた夕日が背後の曇りガラスをグロテスクな朱に染め上げる。
「グレイ」
「は」
「ぼくも、少しだけ出てくるよ」
「左様でございますか。転移であれば私でも、ご下命いただければ伝令に走りますが」
「いや、いいよ。白世の術式を使うんだ。ぼくが行く他にない」
言うと、魔王はむくりと立ち上がる。
鳴り止んだばかりの鐘の残響に耳を澄ませ、その余韻を探るように瞳を閉じる。
しばらくの時が経ち、完全に鐘の音が消え去った頃、彼女は再び瞳を開き、もう一度、玉座に腰を下ろした。
「その割に腰が重いようですが」
「……うん、暑いのも寒いのも嫌いなんだよね」
「早く行ってください」




