弱者の矜持1
「ストースさん。援護頼みます……!」
「任されました」
言うが早いか、放たれた一射は冷気を切り裂いて、ハナの魔力壁に激突する。金属が砕け散るような金切り音を上げて、魔力障壁とストースの鏃が弾けた。
ハナの注意が一瞬削がれたその隙に、吹き上がった花弁の嵐に一時の凪が降りる。
「シヴ、行こう!」
「ゆぬ!」
威勢のいい返事とは裏腹に、僕の後頭部にのしかかった彼女を抱えて走り出す。そろそろコケなくなってきたぞ。なんたって王の眼、お前の考えることぐらいお見通しだ。何度も言うようだが、お前は自分で走った方が百倍速い。楽と弱い者いじめを同時にするんじゃない。
「撃ち屠る」
次の瞬間、ひと際凄まじい暴風が背後から駆け抜ける。
視界の外側で起きた出来事だったにも関わらず、僕の第六感のようなものが「死ぬぞ」と僕自身の身体に警告を送るほどだった。
「んぬ゛ぅーー!! すとーす!」
シヴが珍しく身を縮めて、ストースに歯を剥いた。
彼女がその脅威に背筋を凍らせるほどの一射が、横腹のすれすれを突き抜けて行く。僕が平然としていられるわけもなく、というか立っていることすらままならず、僕は地面にしがみ付くように這いつくばった。
剛射は大地をめくり上げていく。収縮された嵐は易々とハナの魔力障壁を貫通し、その翼を引きちぎった。直後、地鳴りのような轟音が腹の底に響き渡り、ほとんど同時に聞き覚えの無い、軋むような怪音が鳴り響いた。
僕とシヴはあまりの光景に顔を見合わせた。アノマリスの根元に風穴が空いたのだ。大樹の外皮は深々と抉られ、幹の繊維が自重に折り潰されていく音が聞こえる。
「あぶなぶな……あたったら、しんでた。トキだけ」
「わざわざ言わなくていいけどね! たしかにシヴはピンピンしてそうだよ!」
吹き荒れた風が収まるころ、土煙が払われた、その先。
僕は、今しがた見た光景が霞むような現象を目の当たりにしていた。自分の眼を、あるいは脳を疑うほどの違和感、いや、最早あり得ざる景色に理解が追い付かない。
膝を叱咤して起き上がった僕の眼前で、ハナの両翼がさらに大きく羽ばたき、『アノマリスの大穴が復元』されていく。
それが瞳に映り込む。
宝樹に浮かび上がった、葉脈のような、文字列にも似た、奇怪極まる見慣れた魔力線。




