その少女の追憶2
日差しの中にいた。
陽だまりの中で私は、小さな椅子に収まっていた。小ぢんまりとした一室、要る物しか無い部屋。少し埃を着たガラス瓶に、一輪の花が咲いている。プランターの無い小瓶の中で、嵩の低い水をじわじわと吸い上げては、瞳に映らない呼吸を永らえる。
朱い花だ。目を奪うほどの真紅。手を伸ばすようにしがみ付く花弁。腹を内側から突き破り、臓物を引き抜いて、取り残されたあばらの花。
直感的に悟る。これが私をこの部屋に留め置く楔。いばらのように足を刺し、蒸留酒のように脳を昏倒させる、甘く蕩ける、痛み。
私は小さな椅子に収まって、白んだ瞳で待っていた。ずっと、ただ、ずっと。
こつこつ、とんとん。
私は目を覚ました魚みたいに、びくりと全身を震わせた。
こつこつ、とんとん?
そんな可愛らしい音ではなかったはずだ。首をかしげて思案する。靄の掛かった脳細胞に、くぐもった遠いノックを聞いたらしい。きっと、私の瞳に光が差したことだろう。雨も降らない冷たく重い夜の空に、梯子の月光が織り込まれるように。
ばたばた、ばたばた。がちゃがちゃ、どんどんどん。
瞳の先で、締め切られた扉が悲鳴を上げている。うん、正確なオノマトペだったと思う。貴女はとっても可愛いけれど、貴女は全く可愛らしくない。小さな歩幅で足音を潜めたりしないし、手の甲でキツツキみたいなノックもしない。酔っ払いみたいなごちゃごちゃした足取りで廊下を走るし、そもそも貴女はノックしない。まずノブを回してみるのが貴女。うん、やっぱり正しいオノマトペだ。
鍵を開けた途端に――その頃の私は、もう警戒心と呼べるものをすっかり失っていた――ゴムをはねつけたように扉が外開きに引っ張られて、視界を覆うような眩しい花が、朱い花弁を躍らせた。先程まで私を繋ぎ留めていた滴り落ちる血の花とは対照的な、身を焦がすほどの太陽を抱える鮮烈な花唇。
嗚呼。直感的に悟る。貴女が私を、この檻から連れ出す光。
「なんにもない!! ね!!」
「……えっと」
「この部屋に一日中いるのは健康に悪いと思う! 師匠みたいになると思う! 出よう」
「えっと!?」
それが、レナちゃんとの初めての出会い。磔にされた丘の上の十字架から、四肢をもぎ取ったって構わず私を引きずり出してくれる。そんな怪物みたいな女の子。それでも私にとっては紛れもない英雄。
見紛いようのない、私の太陽。




