決戦の火蓋1
風塵を巻き上げ、一閃する光が緑の草地を瞬く間に駆け抜ける。引き絞られた大弓から放たれたその一射は、ホロウメラデュラの花弁を切り裂き、大地を抉り上げながら天使の心臓へと直行する。光は飛びのいた朱き少女の魔力壁をまるで卵の薄皮のごとく易々と引き剝がし、マリアの身体の中心を射貫いた。
「ああぁあぁぁ!!」
悲痛な叫びを上げて膝を付く彼女は真っ赤な血潮を吹き上げ、思わず突いた両腕で大地を掴んだ。肩で息をするマリアの懐にシヴが飛び込み、反転攻勢を仕掛ける。彼女の銀の腕輪と鎖がぶつかり合い、キンと澄んだ音色を謳った。回し蹴りが空を切り、凄まじい風圧にアノマリスの幹が慄き揺れる。目と鼻の先をシヴの踵が切り裂き、空中で反転した彼女から、追撃の拳が正面から迫る。咄嗟に掲げたマリアの両腕と、彼女の限界の魔力壁を豪打する、瞠目するほどの衝撃。足元が覚束ない。膝が笑い、転げるように追い詰められ、宝樹の根元へと後退する。
「っっ、ァァアアアアア!!!」
その瞬間だった。
マリアが噛みつくように地面に両手を突き刺し、獣のように四肢をついて咆哮を上げる。腰から数本の魔力流が輪郭を象り、激しい怒りに燃え盛る魔力が尾のように揺らぐ。その姿は最早天使ではなかった。あるいは、魔に類する何物か。
「止めなきゃだめだ!」
口をついて出た僕の言葉に、シヴが振り返る。彼女の脳が意味を理解した瞬間、理由も問わずに駆け出そうとする。だが、皮肉なことにその一瞬が大局を変えてしまった。
マリアの四肢を中心に、大地に亀裂が走る。マリアに魔力を根こそぎ吸い上げられ、枯渇した不毛の露地が現れる。最早死に体の薬園が悲鳴を上げて、最後の砦に縋る。金属を叩き割るような耳障りな音を立てて、宝樹アノマリスの表皮に裂け目が浮かび上がった。
アノマリスが、その限界を迎えようとしている。
僕はあらん限りの声量でストースとシヴに叫んだ。切れた口の端から血が滲み、鉄の味が口の中に染み出した。
「あいつを、マリアを止めるんだっ!」
アノマリスが食い尽くされれば、薬園の再建はその時点で水泡に帰す。帝国の医療市場は、根底から覆るだろう。失われる人命は計り知れない。
「今ここで、何としても止めるんだッ!!」
僕の声を覆い尽くすように、マリアは気勢を上げて自らの身体を再構成していく。ストースに打ち砕かれた心臓、シヴに破壊された四肢を新たに組み上げ、逆立った茨の棘が全身を包み隠していく。
「あいつも、永くは持たない! 今やるしかない!!」




