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王のインケラーシャ  作者: Lopeye
勿忘草の胎動

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羽化の樹2

 ホロウメラデュラ。

 はじめは単なる偽花だと思っていた。本来は真っ赤であるはずの花弁の色を変えて、ホワイトフェザー……ウカノキに擬態してみせた。それはこの大薬園マクトベラシュカで、最も大切に栽培されてきた植物。生存戦略として、申し分ないと。

 だが、その考えは薬園都市コルクで打ち砕かれた。

 確かに僕たちは、実際にウカノキが栽培されている現場を見つけることはできなかった。だがあの場で、僕はゲリーに問うた。この薬園で、ホワイトフェザーを栽培しているのか、と。彼は首を横に振ったし、どの労働者に聞いても、そんなものは育てていないと言い張った。誰一人として、魔力の乱れはなかった。本心から出た言葉だ。一つたりとも、嘘ではなかったはずだ。

 しかし。それでも、だというのに。

 眼前に広がる光景が全てを物語っている。純白に埋め尽くされた視界。

 彼らは栽培し続けていたのだ。他でもないウカノキ、ホワイトフェザーを。なぜ魔力の揺らぎが無かった? 簡単だ、彼らには「自覚」が無かった。ホワイトフェザーを、あるいはウカノキを栽培しているという自覚が。だが、もしそうだとしたら。労働者たちは、一体何を栽培していると思い込んでいたのだろう。目の前で花を咲かせた、彼らが命がけで栽培したその成果を、何だと錯覚していたのだろう。

 紛れもない。

 それこそがホロウメラデュラ。


 抽出した地下水が霧散し、マリアの姿が煙霧の中に揺らぐ。

 彼女の意思に従うように突風が舞い上がる。


 インケラーシャは内密の存在だという思い込み。

 僕らは労働者が知っているとしたら、麻薬の原料である「ホワイトフェザー」だろうと思っていた。しかし、彼らはド直球、「ホロウメラデュラ」を栽培せよと命じられていた。それどころか「ホワイトフェザー」という名称すら、彼らには知らされていなかった。

 誰がそんな指示を出す? ゲリーではない。たとえ労働者に自覚がなくとも、少なくとも指示を出した張本人だけは、ホロウメラデュラがホワイトフェザーだと知っていなければならない。ゲリーには直接ウカノキの栽培について問いただしているし、彼に魔力の揺らぎはなかった。そう、彼は計画の中枢だとしても、全てを掌握しているわけではない。

 こんなもの、仕組んだ者は一人しかいない。

 植聖のゼル。

 彼とレナ、ハナ。おそらくこの三人だけが、この広大な薬園の管理者、労働者の中で唯一、ホワイトフェザーをホロウメラデュラと呼んで栽培していることを知っていた。労働者には流通名を隠し、代わりにインケラーシャとしての銘を教え、その栽培を促した。

「『広い世界』か。最初からグルだったわけだ、まったく」

 薬園の魔力を通じて、耳元で誰かが囁いた気がした。

 出会ったことも無い、かつてどこかに散った少女の姿が、瞼の裏に一瞬だけ揺れて見える。色素の薄い髪をふわりと揺らして、少し褐色がかった肌は、どことなくハナに似ていた。


 閉じているはずの魔眼に、膨大な情報が流れ始める。脳が飽和しそうだ。草花の繊維の一本、シヴが焼いた花弁のひと散り、マリアの真紅の髪の一本まで。その一つひとつが、コンマ一秒を切り取って認識できる。その速度はとどまることなく、さらに半分、もっと細かく……いや、違う。

「先が、見える……?」

 何が起きているのか、理解が追い付かない。

 洞察などという問題ではない。視えた景色に、現実が追い付いてくる。(すこぶ)る気色悪いことこの上ない。役者がセリフを吐くより先に、字幕が表示されているみたいに。

 混濁した脳内に、記憶が蘇る。

 僕の眼を、魔王は何と呼んだ?

 魔力が視えるのが、僕の魔眼。それがすべて、ではない。

 ソフィは確かにこう呼んだ。

『十中八九、「先触れの魔眼」』と。

 視界に、未来が映り込む。


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