【09 看板会議】
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・【09 看板会議】
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来栖先輩がサムアップしながら、
「おう! 早いな! 鍵ありがとなっ!」
大場先輩も気合いを入れるように、
「さて、これから、会議だな」
昨日のように、僕が教壇前の机に座り、右隣に理人くん、左隣に大場先輩、そして黒板のところに来栖先輩が立った。
どうやらこれが基本形らしい。
来栖先輩は八百屋さんのように手を叩きながら、
「さて会議だ! 会議するぞ! 会議!」
理人くんに敬語を使わないことと同様に、僕はもう来栖先輩にはツッコんでいこうと思い、
「どんな会議のスタートですか……そんな声を張るスタート聞いたことないですよっ」
来栖先輩は少しムッとしてから、
「でも勢いあったほうがいいだろ! すごい案も陥没するくらい出てきそうだろ!」
僕はすかさず、
「陥没はちょっと出てないようなイメージの言葉ですよっ、逆の隆起とかじゃないですか」
すると理人くんがニヤニヤしながら、
「隆起だなんてぇん、イチローはえっちな言葉使うねぇん」
ここもツッコミどころだと思い、
「全然そういう言葉じゃないですよ! ……あっ」
つい来栖先輩へツッコむ感覚で理人くんへ敬語でツッコんでしまうと、理人くんはすぐに瞳を潤ませて泣きそうな表情をこちらへ向けたので、
「とにかく隆起はそういう言葉じゃない!」
とツッコミ直すと、理人くんは微笑み、元に戻った。
ただ瞳の潤いは少し残ったままなので、妙に艶っぽい微笑みになり、ちょっとドキッとした。
本当に理人くんは中性的だから、あんな表情をされると心臓が高鳴ってしまう。
そんなやり取りの横で来栖先輩が大場先輩へコソッと話していた。
「リュウキか……リュウキってどういう意味の言葉だ?」
すると大場先輩は疑似慈しみの笑顔で、
「来栖、気にするな。会議を、進めるぞ」
来栖先輩は嬉しそうに、
「気にしなくていいのか! ラッキー!」
ラッキーて。まあ本人がそう思うなら、もうそれでいいだろうけども。
来栖先輩は挙手しながら、
「三枚の顔ハメ看板の画をどうするかだなっ! 案あるか! 案! 何度も撮りたくなるような看板がいい!」
何度も撮りたくなるような看板、とサラッと言ったが、それって大変だなぁ。
普通一回撮ったらそれで満足だもんなぁ。
大場先輩は腕を組みながら、
「まずは、方向性を、決めるべき、だな」
来栖先輩は飛び跳ねながら、
「元気とか! ジャンプとか! ジャンプアップとか! そういうことか!」
来栖先輩は呆れながら、
「もっと、具体的、だ」
僕も言葉を挟む。
「ジャンプアップってもうクイズ番組でしか聞かない言葉ですよ」
理人くんは斜め上のほうを見て考えながら、
「やっぱりぃ、みんな好きなモノぅ、人気なモノがいいねぇん」
来栖先輩は「あっ!」と言ってから、
「人気ならばあれがいいんじゃないか!」
理人くんは『おっ』といった感じに、
「何ですかぁん、来栖先輩ぃ」
来栖先輩は子犬のようにハシャいだ声で、
「和菓子屋さんの店主! 高橋さんの顔ハメ看板!」
「絶対嫌です」
妙にハッキリと全否定した理人くん。
でもそうか、高橋さんの顔ハメ看板にしたら、絶対佐藤さんが持っていってしまうからね。
僕はう~んと唸ってから、
「人気ということは、動物系ですかね」
「そうそうぅん! イチローみたいにぃ、可愛ぃ猫がぃぃねぇん!」
今度はすごく嬉しそうにそう言った理人くん。
というか、
「いやいや僕は別に可愛くないよっ」
「謙遜しなくてぃぃんだよぉん」
と言いながら理人くんは机とイスを僕にくっつけて、じゃれてきた。
僕は即座に、
「そのじゃれかたが猫みたいだよ、理人くんが猫みたい」
理人くんはウィンクしながら、
「そうかもぉん、私はイチローの前では猫かもぉん、ニャァ」
と言って、本当に可愛くて、つい反射的に頭を撫でてしまった。
すると一瞬驚いた表情をした理人くんだったが、すぐに口元が緩み、よりニャァニャァと言うようになった。
大場先輩が冷静に、
「じゃれ合いも、いいが、まず、会議だ」
確かにその通りだ。
僕と理人くんはやや恥ずかしがりながら一旦離れて、前を向いた。
来栖先輩はふ~むといった感じに、
「というわけでまずは猫型のイチローで一枚か……」
僕は矢継ぎ早に、
「いや決定じゃないですよっ! 誰得なんですかっ!」
来栖先輩が「でも」と言ってから、少し自信無さげに、
「もう理人が喜んでいたから、そういうことかなって」
大場先輩は溜息をついてから、
「イチローと、理人は、仲が良い、だけだ。それを、発信しても、仕方ない」
理人くんはちょっと不安そうに、
「確かにぃ、発信されるとぉ、イチローの可愛さがぁ、みんなに知れ渡ってぇ、ライバルが増えるかもぉん……」
僕は強めのツッコミで、
「全然何も増えないよ! 僕をモチーフにしたって無だよ!」
大場先輩がハッキリと、
「万人が、喜ぶ、モノが、良い」
僕はそれこそといった感じに、
「だから普通に動物とかどうですかっ? 犬や猫と触れ合っている人間の顔ハメ看板みたいなっ」
大場先輩はちょっと悩みつつも、
「犬や、猫では、わざわざ、顔ハメ看板、にする、意味が、無いな、そういう、カフェも、あるし」
これならば、と、
「じゃあライオンとか、鯨とか、そういったモノはどうですか?」
理人くんは嬉しそうに、
「それなら確かにぃ、普通は触れ合えなぃからぃぃ感じぃ、さすがイチローぅん!」
来栖先輩は長い息をついてから、
「ただなぁ、それだとパンイクトが無いんだよなぁ!」
「……パンイクト?」
と、ついオウム返ししてしまった僕。
来栖先輩は真面目な表情で、
「いやパンイクトだよ、パンイクト」
僕はちょっと考えてから、
「……インパクト、じゃなくて、ですか?」
来栖先輩はぶつぶつと、
「パンイクト、インパクト、パンイクト、インパクト、パンイクト、インパクト……おい、正しくはどっちだ?」
大場先輩が語気を強めて、
「インパクト、だな」
理人くんは無表情に、
「インパクト、だねぇん」
来栖先輩は真面目な面持ちで、
「じゃあそれだ」
ちょっとした沈黙はツッコミで切り裂くしかない。
「……いや! パンイクトって何ですか! ”パン屋に行くと”みたいな言葉なんなんですか! パン屋に行くと何が起きるんですか!」
すると来栖先輩が僕を指差しながら、
「それだ! パンだ! パン屋は人気だからパン屋の顔ハメ看板を作ろう!」
大場先輩は苦笑しながら、
「いや、それは、全然、意味が、分からない」
理人くんも呆れるように、
「パン屋だと思っちゃうじゃなぃですかぁん」
来栖先輩は少し恥ずかしそうに、
「じゃあこれはとりあえず却下でいこうか」
僕はすかさず、
「完全に正解が出る流れで何言っているんですかっ」
来栖先輩は反省しているように、
「先輩のカッコイイところを見せたくて走り出してしまった」
僕は少し諫めるように、
「そんな猛ダッシュしないでくださいっ。来栖先輩のいいところは一人で走るところじゃなくて、みんなで走れるところだと思いますよっ」
と何気なくそう言ったつもりだったが、それに対して来栖先輩はすごく感動をしてくれた。
「そうか! そうなのか! 俺は……ありがとう! 何か今後の人生うまくいけそうだ!」
僕は何だか焦ってしまい、
「いや、ただ思っていること言っただけなので、あのっ」
すると理人くんが同調するように、
「でも確かにぃん、来栖先輩の良さはぁ、みんなに寄り添える優しさよねぇん」
大場先輩も強く頷きながら、
「まあ、そういう、一面は、あるな」
「じゃあみんなの案を聞こう!」
そう言ってから、両目を瞑り、耳に手を当てた来栖先輩。
いやでもそういうアクションは少し違う。
それに、それにだ。
来栖先輩は不安そうな眉毛で、
「……あれ……みんなの案が聞こえてこないぞ……」
そう、みんな、案は尽きてしまっていた。
「みんな……?」
俯く大場先輩、僕も、理人くんも。
来栖先輩の声からは焦りが分かる。
「……おい! みんな! どこへ行った!」
いやまあ目の前にはいるんですけども。
「みんな! みんなの声が聞こえないぞ! おい! どうした! 応答しろ!」
大場先輩が淡々と、
「まず、目を、開けろ」
来栖先輩は半べそな瞳で嬉しそうに、
「あっ! いた! どうしたんだよ! 急に声が聞こえなくなって! 心配したぞ!」
大場先輩が冷静に、
「案が、尽きたんだ。実際、どうする」
来栖先輩は小首を傾げながら、
「ということは、あれか? 猫型のイチローと高橋さんが一緒に立っている顔ハメ看板か?」
理人くんはスッと美しく挙手しながら、
「猫型のイチローの隣は私がやります」
僕は即、
「いやそういうことじゃないよ! 理人くん! その顔ハメ看板自体ダメだよ!」
大場先輩がアゴに手を当てながら、
「鯨の潮に、乗っかる、ライオン……」
僕は驚きながら、
「あぁっ! 案が浮かばなすぎて、大場先輩まで変な方向にいってしまっている!」
来栖先輩が何だか虚ろに、
「猫型のイチローと高橋さんが結婚してパン屋を経営?」
理人くんはキリッと挙手しながら、
「猫型のイチローのフランスパンは私が頬張ります」
僕は心の底から大きな声で、
「いやもう錯乱状態っ! 部室内が錯乱状態になっているっ!」
完全に煮詰まってしまっている。
いや本来の煮詰まるは完成間近という意味だけども、これはもう完全に陥没間近だ。
僕はあえて変わったことを言ってみようと思って、
「ちょっと空気を変えましょうかっ、美術部さんと作品を連携させるってどうですか?」
「……!」
何かを思いついたような表情の来栖先輩。
いざという時は頼りになる。
すると来栖先輩がゆっくりと口を開いた。
「ど、どういう意味だ?」
あっ、全然意味分かっていなかった。
僕は自分の言葉を迷いながらも、
「えっと、美術部さんの作品とコラボレーションするんですっ、ラッシーさんは文芸部の作品を置くと仰っていましたし、多分ハッキリは言っていなかったですが、美術部の作品も飾ると思うんです。だからその美術部さんとモチーフを合わせるというか、その、そんな感じです」
大場先輩は感嘆の息を漏らしてから、
「確かに、いいかも、しれないな」
理人くんはサムアップしながら、
「お店の雰囲気も合うし、ぃぃかもしれなぃ! さすがイチローぅん!」
来栖先輩は教壇に手をバンとして、
「よしっ! じゃあ画班の俺とイチローで美術部に行ってくるぞ!」
理人くんは矢継ぎ早に、
「えぇん! 私もイチローと一緒がぃぃっ! 漫画の模写だってしてたしぃ!」
大場先輩が即座に、
「いや、理人は、元々、板加工を、希望していた、だろ。板加工を、知るなら、デザインの基本も、勉強しないと、という理由で、模写、していた、だけだろ。オレと、加工の、練習を、するぞ」
理人くんはフゥンと息をついてから、
「えぇーっ、でもしょうがなぃかぁ、じゃっ! ぃっぱぃ大場先輩に甘えちゃおうっとぉん!」
大場先輩は真面目そうに、
「甘えるん、じゃなくて、ちゃんと、自分で、できるように、なるんだぞ」
「それはぁ、分かってますってぇん!」
来栖先輩が大きく立ち上がれの身振りをしながら、
「よしっ、イチロー、美術部へ行くぞ!」
「はい! 分かりました!」
というわけで僕たちは二手に分かれて、作業をすることにした。
部室を出て、廊下をまっすぐ行くと美術部の教室、だと思う。
昨日、美術部の教室だと思う前を通った時に、戸が開いていて、通り際に覗いた時にデッサンをしていたので間違いない、多分。
しかし来栖先輩は部室の前の階段を下り出したので、僕は驚いて「あっ!」と声を出してしまった。
すると来栖先輩はガッツポーズしながら、
「ん? 美術部ってこっちだぞっ」
何のガッツポーズだろうと思いながらも来栖先輩についていくと、ついていくと、ついていくと……合唱部の教室だった。
いや! そう思いましたけどもっ! だんだん合唱部っぽい歌声が大きくなってくるなぁと思いましたけどもっ!
来栖先輩は少し不満そうに、
「部室を交換したのならば教えてくれればいいのに。菅沼め」
と呟いたわけだけども、絶対来栖先輩の思い違いだと思うんだけどなぁ。
来栖先輩は僕のほうを見ながら、
「じゃあ美術部はどこだ? 菅沼……じゃなくてイチロー」
「今、僕のこと美術部の菅沼先輩と勘違いしていたんですかっ!」
「雰囲気とか、良いツッコミを飛ばすところが似ているんだ」
「良いツッコミて! そう言ってくださるのは嬉しいですけども!」
まあまあみたいな顔をしながら来栖先輩が、
「で、美術部はどこだ?」
「美術部は……多分……」
と言いながら僕は、あの昨日、デッサンをしていた部屋に案内した。
教室の中に入ると、扉の一番近くに座っていたメガネを掛けたクールな人が来栖先輩に話し掛けた。
「来栖じゃん。どうした?」
それに対して来栖先輩が安堵の表情で、
「おぉ、菅沼! ここ美術部か!」
「デッサンしてんだろ。どう見ても美術部だわ」
いやこの人が菅沼先輩か! いや全然雰囲気は似ていない!
僕メガネ掛けていないし、こんなオトナっぽくてクールな感じじゃない!
来栖先輩はすかさず、
「カフェの話、どうした?」
菅沼先輩は軽く舌打ちをしてから、
「相変わらず言葉数が少ねぇな。悪い意味で」
「そりゃ言葉が少ないのは良い意味じゃないだろ! ハハハハッ!」
大笑いの来栖先輩。
何がそんなにおかしいのだろうか。
菅沼先輩はやれやれといった感じに、
「いや言葉数が少なくても良い意味はいる。陣がそうだろ。ボクはオマエが馬鹿だと言ってんだよ」
来栖先輩は目を丸くしながら、
「馬鹿て! もっとコミカルに言えよ! コミカルに!」
菅沼先輩は溜息をついてから、
「何でコミカルならいいんだよ。早く用件言え。それとも隣の新入生が説明してくれんのかよ?」
そう、少々冷たそうな目でこちらを見てきて、ちょっと怖い。
でも今は来栖先輩という味方だっている。
そんなに挙動不審にならず、ちゃんと言うんだ。
「ラッシーさんに顔ハメ看板部を紹介して頂きましたよね、その話で来ました」
そう言うと、今度は菅沼先輩が大笑いをした。
何か変なことを言ってしまったのかと思い、恐々していると、菅沼先輩が、
「いやホントに新入生が説明するんかい。馬鹿な先輩で大変だな。ボウズ」
「いえ、いつも空気を明るくしてくださって優しい先輩です」
そう僕が真面目に答えると、少し考えるような間があってから菅沼先輩が話し出した。
「んっ、そうだな。悪い。尊敬する先輩のことを悪く言ってしまって悪かった」
と言って反省しているような表情を浮かべたので、僕は、
「いえいえっ、あのっ全然、僕は大丈夫ですっ」
と少し悪くなってしまった空気をどうにかしないと、でもどうやって、と、思いながらあわあわしていると、来栖先輩がピースしながら、
「何! イチローは俺のことをやっぱり尊敬しているのか! やったぜ! いぇい!」
とジャンプしたので、ついつい僕も、菅沼先輩も笑ってしまった。
菅沼先輩は笑い終えてから、
「そうだな。コイツはそうだもんな。いやいや。まあ分かった分かった。話進めるからな。ボウズ……じゃなくて、オマエの名前は何だ?」
「平井一郎です。みんなにはイチローと呼ばれています」
菅沼先輩は頷いてから、
「そのままだな。まあそれが一番分かりやすいか。じゃあイチロー。基本的にオマエに話していくな」
「いや、あの、来栖先輩にもっ」
「そこはもう先輩を立てなくていい。無駄話の多さはもう分かっているはずだ。まあいいや。普通に話していくわ」
「はい、よろしくお願いします」
菅沼先輩は冷静な面持ちで、
「確かにラッシーに顔ハメ看板部を紹介したのはボクだ。顔ハメ看板は芸術だからな」
すると来栖先輩がカットインして、
「だろうな! 素晴らしいだろ!」
菅沼先輩は一瞥するように「オマエの相槌はうるせぇ」と言ってから、
「で。それがどうした。イチロー」
「まず紹介して頂きどうも有難うございます」
「いや礼儀正しいな。まあまあ。うん」
「で、ラッシーさんにイメージを教えてほしいと言ったら自由に作ってほしいと言われました。しかしなかなか案が浮かばず、悩んでいました。そんな時に美術部さんの作品とコラボレーションしたらどうだろうという案が出まして。なので伺ってみました」
菅沼先輩は僕の言葉を咀嚼しているように頷いているところで、来栖先輩が割って入ってきて、
「分かりやすく、かつ短く言うと、あ~~~~~~~~~~~~~ってなって、うわぁっ! うわぁっ! うわっ! うわぁぁあああああ! で、でもさ! そういうことだろ! 美術部と! 美術部へ! よしっ! コラボ! 案! だっ! いぇい! うぉぉおおおおおおお! という感じなんだ!」
僕はつい、
「いや全然短くなってなかったですよ! むしろ僕より長かったですよ!」
とツッコんだけども、何故か当の来栖先輩はキョトンとしながら、
「でも分かりやすくはなっていただろう」
僕はちょっと語気を強めて、
「もう抽象的につぐ抽象的で難解以外の何物でも無かったですよ!」
来栖先輩は鼻の下を人差し指で擦りながら、
「芸術肌ということか……まあそうだもんなぁ……」
「そんな良い感じに言ったわけではないですからっ!」
と僕が激しめにツッコんだところで菅沼先輩がクスクス笑いながら、
「何だよ。オマエら。良いペアかよ。やっぱり顔ハメ看板部は面白いな」
「だろぉっ?」
とすごく自慢気の来栖先輩。
僕は即座に、
「いや多分褒められていないです!」
と言うと、菅沼先輩が冷静に、
「イチローのことは褒めている。来栖のことは馬鹿にしている」
来栖先輩はガーンと口を開けてから、
「何故同じように褒めないんだ! 俺は褒められると伸びるほうだぞ! そう日頃言っているだろ!」
僕はちょっとと思いつつ、
「そんなことを日頃から言わなくても大丈夫ですよっ」
菅沼先輩が面倒クサそうに、
「あぁはいはい。来栖は画が巧い巧い。これでいいだろ」
「はい! 良い!」
と答えた来栖先輩。そこで”良い”と答える感性すごいなぁ、と、素直に思った。
菅沼先輩が改めて、といった感じに、
「まあ話は分かった。だが。答えはノーだ」
僕はドキリとしつつも、
「……! やっぱり自分たちの課題は自分たちで考えろ、ということですか?」
菅沼先輩は優しく首を横に振って、
「そんなメンドい教師みたいなことを言うつもりはない。全くもって方向性が違うんだ」
来栖先輩が驚きながら、
「どういうことだ? 教師って面倒なのか?」
菅沼先輩はズバッと、
「オマエが面倒だわ。あのな。ボクたちの絵画は売るんだ。オマエたちの顔ハメ看板は客寄せだろ?」
僕はなるほどと思いながら、
「そういうことですか……」
来栖先輩は焦りながら、
「どういうことだ! 誰か! 誰か俺に説明をするんだ! できるだけ分かりやすく説明をっ!」
僕はこれにもツッコむことにして、
「説明を求める時の声の大きさすごいですねっ、天にも届く勢いですね」
来栖先輩は当たり前のように、
「神様に教えてもらったほうが早いかなと思って」
菅沼先輩は僕を見ながら、
「いや。イチローから教えてもらえ。ボクより早い」
というわけで僕が説明することにした。
「あのですね、美術部さんの絵画は無くなるモノで、顔ハメ看板はずっと残るモノなんです」
来栖先輩がジャンピングガッツポーズをしながら、
「えっ! 顔ハメ看板を壊さず、ずっと置いてくれるのっ? やったぁっ!」
僕はすかさず、
「いやそこの喜びはいいとしてっ、絵画は無くなるので、そことコラボしても意味無いんです」
来栖先輩はうんうん頷いてから、
「……なるほど! 大体分かった! 八十パーセントは分かった! あと二十パーセントちょうだい!」
僕はまあなんというかという気持ちで、
「その二十パーセントがどの部分かはよく分かりませんが、無くなるモノとコラボしても元ネタが売られて無くなってしまうので、何とコラボしていたか分からなくなるんです」
菅沼先輩は相槌を打つように、
「まあ。運良く売れればの話だがな」
来栖先輩は嬉しそうに、
「ちょうどその二十パーセントでした!」
菅沼先輩は矢継ぎ早に、
「今の説明は五十パーセント分あったわ」
僕はう~んと唸ってから、
「というわけで、もしかしたら他に声が掛かった文芸部もそうかもしれませんね。基本的には売ってなくなる、と」
菅沼先輩は斜め上のほうを見ながら、
「まあ。文芸部なら何度も同じモノを刷るから、多少はコラボできるかもしれないが。一過性は一過性だろうな」
来栖先輩は大きく頷きながら、
「なるほどなぁ! 最後の言葉は一切分からなかったが、多分そういうことで合っているんだろう!」
菅沼先輩はハハッと笑ってから、
「オマエ、一過性という言葉も分からないのかっ?」
来栖先輩は分かったみたいな顔をしてから、
「あぁっ! なんかあれか? サーカス一家みたいな意味か?」
菅沼先輩は呆れながら、
「サーカス一家よりも普遍的な言葉だわ。一時的なヤツって意味だ」
来栖先輩はムッとしながら、
「ならそう言えよ! 菅沼健太郎!」
菅沼先輩は嫌そうに、
「それはそう言わなくていい。フルネームで言わなくていい」
僕はふと、つい思ったことを口に出した。
「だからケンチンなんですね」
「えっ。。。」
と言葉を漏らした菅沼先輩。
それに対して僕は『しまった』と思った。
ついラッシーさんがしきりに言っていた菅沼先輩の呼び方、ケンチンをつい言ってしまうなんて。
他の美術部のみなさんが、僕の”ケンチン”でクスクス笑っていた。
菅沼先輩は長い溜息をつくと、メガネをクイと上げながら、こう言った。
「おい。来栖。オマエの後輩。ドSだぞ」
来栖先輩は小首を傾げながら、
「エスってたまに言うけどもなんだ、スーパーの略か?」
菅沼先輩はまた息をついて、
「そういう言葉も知らないのかよ。まあスーパーだな。もはやスーパーだわ。合ってる合ってる」
来栖先輩は震えながら、
「また合ってしまった……今日は頭良いかもしれないな」
僕はすかさず、
「いやサーカス一家の時、完全に間違えていましたよ!」
来る先輩は「あ」と言ってから、
「それを忘れていた。それが俺の敗因だ」
そのやり取りを見た菅沼先輩は笑いながらこう言った。
「いやまあ。良い組み合わせだな。本当に」
そして僕のほうを見ながら、
「来栖にはドSくらいがちょうどいい。ただ。ボクにはもう刃を向けないように」
そう言って恥ずかしそうに笑った菅沼先輩。
怒られると思っていたが、笑って許してくれたようだ。良い先輩で助かった。
ただ、ただだ、最初の目的で言えば、何も達成することはできなかった。
何故か来栖先輩は妙にゴキゲンだったが、僕は成果無しでスゴスゴ部室に帰ってきた。
それにしても来栖先輩は、どこにそんなゴキゲンになる要素があったのだろうか。
「帰ったぞ!」
顔ハメ看板部に教室に入ると、木の香りがぶわっとしてきた。
どうやら板をノコギリで切る練習をしていたらしい。
理人くんは僕に近付いてきて、
「もぅ! 腕が疲れたんだからぁん! 体力を補充しなきゃぁん!」
と言って僕を強く抱き締めてきた。
いやそんなに強く抱きしめたら腕が疲れるでしょっ。
大場先輩が来栖先輩へ、
「で、どうだった」
と聞けば、来栖先輩は感慨深そうに、
「俺の敗因は忘れるところだった」
すぐに大場先輩は僕のほうを見ながら、
「意味が、分からない。イチロー、頼む」
僕はいつの間にか完全に説明担当になっていた。
一旦理人くんから離れて、説明をした。
絵画は無くなるので、コラボしても、元ネタが無くなるから意味が無い、と。
大場先輩は頷きながら、
「そうか、確かに、そうだな。また一から、考え直しか」
すると来栖先輩が、
「いやでも悩んでいても仕方ないから、とりあえず今度は図書館行こうぜ! イチロー! そこで何度も撮りたくなるような看板のモチーフを探してくるぞ!」
理人くんはあからさまに嫌がっている顔で、
「えぇん! またすぐどこかぃっちゃうのぉん!」
そう言って僕の手を握ってブンブン振り回してきた。
いや腕の力まだまだいっぱいあるじゃないか。
僕が、
「じゃあ理人くんもくる?」
と聞くと、即座に「ぃくぃくぅん!」と答えてくれたわけだけども、大場先輩が、
「ダメだ。理人は、ここで、練習、してろ」
「えぇーもぅー! じゃあおんぶしてぇ!」
そう言って中腰になっていた大場先輩の背中に抱きついた理人くん。
「じゃあ、ちょっと、おんぶ、してやるから、そうしたら、また、練習、するんだぞ」
「あっ! じゃあ抱っこにしてぇん! ゆりかごダンスのように抱っこにしてぇん!」
「はいはい、分かった、分かった、抱っこに、して、揺らしてやる」
そう言うと、大場先輩は理人くんをお姫様抱っこをして、優しく揺らし始めた。
大場先輩も面倒見の良い先輩だけども、理人くんはちょっと甘えすぎじゃないかな、と、ちょっとモヤッとした。
いやモヤッとすることは無いんだけども。ちょっと僕が真面目すぎるのかな。
でも大場先輩も嫌がっていないし、それでいいのかぁ。




