【07 依頼人の店へ】
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・【07 依頼人の店へ】
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来栖先輩は拳に天をかざしながら、
「着いたぞーっ!」
と叫んだ。船の航海士兼船長のような勇ましさだ。
船長ではあるけども、明らかに自分の手柄感がありすぎて、何だかちょっと笑ってしまった。
大場先輩は感嘆の息をもらしながら、
「イチローは、すごいな。地図、読めるんだな」
でもこんな分かりやすい地図でこの感嘆具合と思ってしまい、少し心の中で笑ってしまった。
……って、そんな性格の悪いこと思っちゃいけない! 何か罰が起きるぞ!
理人くんは名残惜しそうに、
「えぇーぇ! もう着ぃちゃったぁん! もっと大場先輩にぃ、おんぶしてもらぃたかったぁん!」
と大場先輩の背中から降りた。
降りてすぐ僕を見るなり、
「あとはイチローぃ、に抱きつぃちゃおぅっ!」
と言ってグッと引き寄せられた。
その拍子に少し腰を痛めてしまい、ほら、すぐ罰が起きた。
「ちょっと腰、痛めたかも……」
と僕がポツリと呟くと、理人くんが慌てたように、
「ゴメンねぇっ! ゴメンねぇっ! つぃすぐ抱き締めたくてぇん!」
と言いながら、僕の腰を優しくさすってくれた。
「いやいや大丈夫、でもさすってくれてありがとう」
「そ! そんなぁん! そんな笑顔でぇ、言ってくれたらぁ、得しちゃぅぅう!」
いやそんな『ありがとう』と言っただけで、そんなに喜んでくれるなら、僕だって得しちゃったよ。
そんな会話をしていると、大きな男性の声が聞こえてきた。
「おーい! 少年たちよ! ちょっと遅くて心配したぜ!」
大きく手を振っている、あの人がどうやら依頼主みたいだ。
無精髭でダンディだが、どこか少年っぽさのある人だった。
来栖先輩はその人を指差しながら、
「あっ! あの人だ! 合ってたぞ! イチロー!」
いや合っているでしょう、地図通り来たわけだから。
大場先輩が頭をさげてから、
「遅れて、申し訳、ございません」
依頼主は身振り手振りで、
「いやまあそんなんはどうでもいいんだぜ! 早く話をしようぜ!」
そう言ってくださって、僕たちはお店の中へ入っていった。
このお店は前面がガラス張りになっていて、外からも中の様子が分かったんだけども、中はガラガラで何も無く、何個かテーブルとイスがあるだけだった。
依頼主は僕と理人くんの顔を交互に見て、
「おっ! 新入部員もいるってわけか! まあまあここに座れ! 座れ!」
四人分のイスしか無くて、依頼主は立っている。
僕がすぐに、
「ところでここは何屋さんなんですか?」
と聞くと、依頼主さんはフッと笑ってから、
「いや! まず自己紹介をするぜ! 小生は五十嵐善治だぜ! 気軽にラッシーと呼んでくれ!」
来栖先輩が矢継ぎ早に、
「おっ! 自分であだ名を指定するほうの人だな!」
僕はすぐさま少し諫めるように、
「いや来栖先輩。ほぼ初対面の年上のかたに、そんな言いっぷりはダメなんじゃないでしょうか」
でも五十嵐さんは手で制止のポーズをとりながら、
「いや! いいぜ! いいぜ! 何でもいいぜ! 商売は常に対等でいきたいぜ!」
僕は頭上に疑問符を浮かべながら、
「商売ですか?」
と言うと、五十嵐さんはうんと深く頷いてから、
「そうだぜ! 顔ハメ看板はウチの客寄せパンダになってもらおうと思っているんだぜ! いいのを作ってくれたら、このお店の食いモンはいつ来てもタダにするぜ!」
来栖先輩は僕たちの顔を見ながら、
「いつ来てもタダ! すごい! 頑張らないといけないな!」
大場先輩はう~んと唸ってから、
「逆に、来づらい、ですね。タダだと」
五十嵐さんはサムズアップしながら、
「おいおい! いいのを作る自信はあるということだな! いいぜ! いいぜ! その意気! 来づらいなら安くするだけにするぜ!」
じゃあ、といった感じに僕は、
「食べ物ということは、ここは食べ物屋さんなんですか?」
理人くんはニコニコしながら、
「できればぁ、お洒落なカフェがいいわぁん!」
五十嵐さんはハハッと笑ってから、
「いやお洒落かどうかは人次第だぜ」
それに対してすぐさま来栖先輩がツッコむように、
「いやそれはラッシー次第だろ! 店主なんだろっ!」
もうラッシーと呼んでる。僕はまだ心の中では五十嵐さん呼びだけども。
来栖先輩も距離を詰めるのが早いなぁ。
五十嵐さんは腰に手を当てて、豪快に笑い、
「そうだぜ! 小生が店主だぜ! 泣く子も黙る店主だぜ!」
来栖先輩はまたしてもツッコむように、
「いや泣く子が黙ったらオモチャでしょ!」
大場先輩は少し恥ずかしそうに俯きながら、
「そういう、言葉が、あるんだよ、来栖」
五十嵐さんはまたしても海賊のように笑い、
「いいぜ! いいぜ! 波長が合いそうだぜ! 来栖くんとは! 大場くんも良い筋肉と冷静さで良いし! 他の少年たちの名前はなんて言うんだぜっ?」
すると来栖先輩が挙手しながら、
「おっと! まず俺からだ! 俺は来栖秀介! ハメ部の部長だ! 主に画を描くことを担当している! 何でも全力! 元気! 全力だ!」
僕はつい、
「来栖先輩とあと大場先輩は、一度会った時に自己紹介しているんじゃないんですか?」
と口を挟んでしまうと、来栖先輩は即座に、
「そうだったわ!」
あと、ここも言いたくて、
「全力を二回言うんですねっ」
とツッコむと、来栖先輩はガッツポーズしながら、
「あと元気!」
「元気も二回言うんですかっ」
「それと全力と元気!」
「同じことを何回言うんですかっ!」
「あとは、げ・・・」
と来栖先輩が言っているところで、それを遮るように少し大きな声で大場先輩が、
「前は、苗字、だけだったので……オレは、大場陣、好きに、呼んで、ほしい。主に、板の、加工を、行う。よろしく、お願い、致します」
それにすぐ続くように理人くんが喋り始めた。
「私はぁ、早乙女理人って言ぃますぅ! できればぁ理人って呼んでくれると嬉しぃなぁん」
この流れに続くように僕も、
「僕は平井一郎と言います。よろしくお願いします」
五十嵐さんは大きく拍手してから、
「じゃあ来栖くんに、陣くん、理人くんに、イチローくん、だな。分かったぜ」
来栖先輩は何だか楽しそうに、
「やっぱり一郎って聞くと、絶対後ろのほう伸ばしてしまうよなぁっ!」
五十嵐さんはガッツポーズしながら、
「それはもう日本人全員の感性だぜ!」
確かに僕は自分で”う”をちゃんと発音しても、必ず伸ばされるなぁ。
大場先輩が改めてといった感じに、
「という、わけで、何屋さん、なんですか」
五十嵐さんは語気を強めて、
「全力屋だぜ! あとは元気屋だぜ!」
すると来栖先輩がツッコミのような手を出しながら、
「ちょっと! 俺そのものじゃないか! 俺が店主だったんかい!」
五十嵐さんはワハハと笑ってから、
「来栖くんは二代目だぜ、むしろ初代だぜ! 小生が継いで今やってるんだぜ!」
来栖先輩は「タハーッ!」と言ってから、
「じゃあ俺が初代なら俺の写真飾ってくれ!」
五十嵐さんは来栖先輩のほうに少し前傾姿勢に、前のめりになりながら、
「いいぜ! いいぜ! 確かに来栖くんの全力写真をたくさん飾るのも面白そうだぜ!」
……何だか、長引きそうな予感。
変に共鳴し合っている。
先輩や年上のダンディなかたに思う言い方じゃないけども、明らかに変に共鳴し合っている。
来栖先輩は立ち上がりながら、
「じゃあもう脱いじゃいましょうか!」
と言い、上半身の学ランも下着も全部まるごと一回で脱ぎきった来栖先輩。
そんな簡単に脱げるものなのかな、服って。
明らかに慣れているという感じだ。脱ぎ癖あるんだ、来栖先輩って。というかすごいシックスパック。
五十嵐さんは称えるように、
「画担当とか言っといてすげぇムキムキだぜ! これはデッサンもいいぜ! 素晴らしいぜ!」
理人くんも何故か立ち上がって、
「確かにぃ素晴らしぃわぁん! お腹さわってぃぃですかぁん!」
とテンションがあがっているようだった。
来栖先輩はサムズアップしながら、
「おぉ! いいぞ! さわれば、さわるほど硬くなるからな! 筋肉はっ!」
そんなこと無いだろう、と思いつつ、理人くんが来栖先輩の筋肉をさわるところを見ていた。
理人くんが喋れば来栖先輩がすぐ返して、って感じで、
「もっと硬くなりますかぁん! もっと硬くなりますかぁん!」
「なるぞ! なるぞ! 無限大だ! 筋肉とは無限大なんだ!」
「もっと硬くぅん! もっと硬くぅぅうううん!」
興奮しながら来栖先輩の腹筋をさわる理人くん。
いや確かにテンションのあがる筋肉しているけども。
でも、何の時間だ、これ。
すると大場先輩が自分の言葉を強調するように、
「デッサンも、いい、ということは、もしかすると、ギャラリー、ですか」
いやでも確かにそうか、さっきから飾るとか言っていたし、ギャラリーなのかもしれない。
ということは、
「お洒落かどうか人次第ということは、そこに飾る画によって変わるということですね!」
と僕が言うと、大場先輩が同調するように、
「そうだ、そうだ、そうも言っていた。そうかも、しれない」
はしゃぎ合っていた来栖先輩と理人くんも一旦停止し、五十嵐さんのほうを見た。
五十嵐さんは僕と大場先輩をそれぞれ指差しながら、
「その通りだぜ! 陣くんとイチローくんは読みが鋭いんだぜ!」
大場先輩はうむと頷いてから、
「アート、ギャラリー兼、カフェ、ということ、ですね」
五十嵐さんはサムアップしながら、
「全くもってその通りだぜ! まっ、人次第と言ったが、小生は皆楽しめる空間にしたいから、多分お洒落よりも楽しい感じにする予定だぜ!」
理人くんは机に手をついて、
「それはぁ、それでぇ、楽しそうねぇん! 来栖先輩の肉体美も飾ったりしてぇ! 大場先輩もどうですかぁん!」
と嬉しそうに大場先輩に話を振ると、
「一回、座って、真面目に、話をしよう」
と冷静に返し、その若干の冷たさにあてられて、理人くんは落ち着き、静かに席に戻った。
来栖先輩は上半身裸のまま、席に着いた。
僕はつい、
「いや服着ないんですかっ」
来栖先輩は力こぶのポーズをしながら、
「アツアツだからな!」
でも、
「まだ四月ですよっ」
大場先輩が溜息をついてから、
「イチロー。来栖は、もういい」
何よりも冷たい視線で来栖先輩を見ながらそう言うと、来栖先輩は音を立てずに立ち上がり、静かに服を着て、何事も無かったように席へ着いた。
五十嵐さんは豪快に笑ってから、
「ハハハッ! 少年たちのコンビネーションは面白いぜ! じゃあここから真面目にいくぜ!」
五十嵐さん……いや、もうこんな変な人なら確かに自称したあだ名のラッシーさんでいいのだろう、僕もラッシーさんと心の中でも、現実でも呼ぶことにしよう。
ラッシーさんは机に手をバンと置き、こう言った。
「皆が喜びそうな、皆が撮りたくなるような、人がたくさん集まりそうな顔ハメ看板を三枚から四枚作ってほしいんだぜ! 期限は二ヶ月くらいで頼むぜ!」
その三枚から四枚という看板の数が多いのか少ないのか分からなかったが、来栖先輩と大場先輩のリアクションから察するに、その数が分かった。多いんだ。いややっぱり多いんだ。
基本的に人が立って顔をハメるサイズの看板を作るんだ。三枚から四枚はやっぱり多いらしい。
しかし最初は少しおののいた来栖先輩だが、すぐに覇気を取り戻し、
「作ります! 作らせて頂きます!」
と力強く言い放った。
その自信のある瞳がとてもカッコ良かった。
大場先輩もその情熱に続くように、
「来栖が、作ると、言ったんだ。オレも、作れます」
と語気を強めた。
ラッシーさんはサムアップしながら、
「よしっ! じゃあよろしくだぜ!」
いや、ここからだ。どんなイメージのモノを作ってほしいのか、依頼主に聞いていくのだ。そういう話だ。
来栖先輩は挙手しながら、
「ラッシー! じゃあどういうモノを作ってほしいんだ! 教えてくれ!」
と早速元気よく聞いてくださった。勢いが良い。
それに対してラッシーさんはうんうん頷いてから、
「それは勿論……皆が喜びそうな、皆が撮りたくなるような、人がたくさん集まりそうな顔ハメ看板を三枚から四枚作ってほしいんだぜ!」
……えっ? と僕は固まってしまったんだけども、大場先輩は冷静に、
「それは、聞きました。具体的に、どういったモノか、教えて下さい」
ラッシーさんはまたしても同じようにうんうん頷きながら、
「だから……皆が喜びそうな、皆が撮りたくなるような、人がたくさん集まりそうな顔ハメ看板を三枚から四枚作ってほしいんだぜ!」
……えぇっ? 理人くんが果敢に、
「ラッシーぃ、テーマを教えてほしぃなぁん!」
ラッシーさんは小声で「なるほど」と言ってから、
「そういうことか……皆が喜びそうな、皆が撮りたくなるような、人がたくさん集まりそうな顔ハメ看板を三枚から四枚作ってほしいんだぜ!」
……えぇぇぇっ?
自然と来栖先輩と大場先輩と理人くんが僕のほうを見る。
僕もトライしないといけないのか、いや、これ、どう聞いてもそう答えられそうなんだけども。
いやしかし、聞き方を変えれば求めていた返事が返ってくるかもしれない。
「あの……」
と僕が声を出したところで、ラッシーさんが食い気味で、
「皆が喜びそうな、皆が撮りたくなるような、人がたくさん集まりそうな顔ハメ看板を三枚から四枚作ってほしいんだぜ!」
「いや食い気味ですかっ! そうじゃなくてイメージを教えてください!」
するとラッシーさんがニカッと笑ってから、
「そこはアーティスが個性を出す部分だぜ! 全面的に任すぜ!」
その台詞に一番焦っているのが、大場先輩で、
「いや、あのですね。そうだ、そうだ、まず、顔ハメ看板の、予定サイズを、教えて、下さい。置けなくなると、困りますよね」
「いいぜ! いいぜ! 外でも中でも出来たモノをちゃんと置くぜ! 大丈夫だぜ! ちゃんと一番いいところに置くぜ!」
「でも、ですね、何か、お題が、あったほうが、作りやすい、ということも、ありまして」
「いいぜ! いいぜ! 自由にやってくれて構わないぜ! 若い感性を爆発してほしいぜ!」
『いいぜ、いいぜ』なら、こっちの気持ちを汲んでほしいんだけどなぁ。
でもどうやら話はいくら話しても平行線らしい。
というか本当にこちらへ丸投げらしい。
しかしそれは適当という雰囲気ではなく、こっちの可能性を信じているような雰囲気で。
その雰囲気を察した来栖先輩は堂々と言い放った。
「分かったぞ! ラッシー! 俺たちが完璧で最高な顔ハメ看板を三枚作る! 陣もそれでいいだろっ!」
来栖先輩の威風堂々さに、圧されたのか……いや、来栖先輩を信じているのだろうなぁ。
大場先輩は焦った様子が消え、深く頷いた。
この信頼関係は本当に素晴らしいと思った。
ラッシーさんはガッツポーズしながら、
「じゃあ任せたぜ! 少年たちよ! 板の搬入とかは全部手伝うぜ! なんせ小生は亀本高校のOBだぜ!」
来栖先輩はやられたって感じの顔で、
「OBだったのかよぉっ! 道理で波長が合うはずだ!」
いやそれは別に関係無いでしょうに。
ラッシーさんは嬉しそうに、
「ちなみに小生は美術部だったぜ!」
そうか、だから、なのかどうかはイマイチ分からないが、地図の画がすごく上手かったんだ。
いや待てよ、ということは、と僕は、
「……もしかすると美術部にも依頼をしたんですか?」
ラッシーさんは「あぁ!」と元気良く言ってから、
「勿論だぜ! その時にこの顔ハメ看板部のことを知ったんだぜ! そして調べてなぁっ! 面白いと思ったんだぜ!」
すると来栖先輩が斜め上を見ながら、
「美術部ということは菅沼か。美術部で表に立つのは菅沼だもんな大体。というと菅沼の紹介かな、アイツめ! あとで購買のパンおごってやろうとっ!」
ラッシーさんは『おっ』という顔をしてから、
「そうだぜ! ケンチン……いや菅沼くんが顔ハメ看板部という面白い部があると教えてくれたんだぜ! ちなみにケンチン……菅沼くんは小生のいとこだぜ!」
よく分からないけども、多分菅沼先輩の下の名前はケンが付くんだろうなぁ。
大場先輩は淡々と、
「菅沼とは、全然、違いますね。雰囲気も、見た目も」
ラッシーさんは楽しそうに、
「まあただのいとこだからだぜ! ちなみにあと文芸部にも声を掛けているぜ! 文芸部が作った本も売ろうと思ってるんだぜ!」
理人くんは羨望の眼差しで、
「すごぃですねぇん! 何だか壮大ぃですねぇん!」
ラッシーはすごい勢いで頭をさげて、
「もっと若いパワーを集結させたいんだぜ! ということでよろしくだぜ!」
――僕たちは現地解散をし、家路に着いた。
理人くんと僕の帰り道は全くの真逆で、一緒に帰れないことを大層悔しがっていた。
というかそんなに悔しがってくれるなんて嬉しいなぁ。




