【05 ゴキゲンな来栖先輩(2)】
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・【05 ゴキゲンな来栖先輩(2)】
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歩いて、自分のペースで部室へ戻ると、部室内がやけに騒がしいことに気付いた。
否、来栖先輩だけが大きな声で喋っている。
すぐに入らず、ちょっと聞き耳を立ててみると、
「イチローがさぁ! すごく褒めてくるんだよぉっ! もう! やっぱり先輩って偉大なのかなぁっ! ハハハ!」
大場先輩が呆れるように、
「もう、何回、自分で、そう言うんだ」
理人くんは溜息をついてから、
「その自画自賛ん、もう飽きたわぁん」
当の本人である来栖先輩は相変わらず絶好調で、
「でもさ! でもさ! 実際そうなんだって! 尊敬されちゃってさー! もう! ちゃんと立派な先輩やっていけるか不安だわー!」
大丈夫、来栖先輩。
立派なおもしろ先輩やってますよ。
……僕は部室の中に入った。
来栖先輩はサムアップしながら、
「おぉ! イチロー! ちゃんと帰って来れたな!」
大場先輩が矢継ぎ早に、
「いや、どういう、意味だよ」
来栖先輩は伸びをしながら、
「だって初めて行ったところから部室に戻ってきたんだぞ、迷わなかったなぁ、という話さ! 俺だったら絶対迷う!」
僕は普通の感じで、
「いや迷いませんよ、大丈夫ですよ」
理人くんはクスクス笑いながら、
「迷うのはぁ、来栖先輩だけですよぉっ」
来栖先輩はムッとしながら、
「いや今の俺はもう迷わないぞ! なんせ尊敬できる先輩だからな!」
大場先輩は立ち上がってバッグを持って、
「そんな、話は、もういい。早く、商店街へ、行くぞ」
理人くんも立って、
「ぁっ、イチローぅ、バッグは持ってくのよぉん、現地解散だからねぇ」
僕はつい思ったことを言ってしまい、
「……何だか部活動というか、ただ寄り道して帰るだけみたいですね」
来栖先輩は元々立っていたので、自分の席に置いていたバッグを大股一歩で手にとって、
「そうだな! よーし! 今日はいろいろおごってやろうかなぁっ!」
僕は慌てて、
「いいですよ! そんなことしなくても!」
大場先輩も、
「そうだ、安い、先輩には、なるな」
でも理人くんだけは、
「ぃやぃやぃやぁん! もらえるモノは全部もらぃたぃっ!」
来栖先輩はうんうん頷きながら、
「そうだそうだ、可愛い後輩なんだからそこは甘えるといいんだぞ」
と言うと、理人くんは来栖先輩の肩に顔を置いて喜んだ。
距離が近いなぁ。
すると来栖先輩は鼻高々に、
「おうおう、そうかそうか、理人もやっぱり俺のこと尊敬できるかぁ」
理人”も”て、僕はやっぱりもう尊敬しているもんなんだなぁ。
いやまあ多少はしているけども。
理人くんは愛嬌たっぷりに、
「ぃっぱぃ可愛がって下さぃ! 来栖先輩ぃっ!」
「よーしよしよし」
と理人くんの頭をポンポンする来栖先輩。
来栖先輩も距離近いなぁ。
大場先輩はつかつかと理人くんと来栖先輩の前を素通りして、
「馬鹿みたいに、じゃれ合ってろ。オレは、部室の鍵、返しに、行くから、先、言ってろ」
と言ったので、僕は大場先輩のほうへついていくことにした。
大場先輩は僕を優しく見下ろしながら、
「まあ、来栖と、理人の、傍にいたら、馬鹿が、映るからな」
「いやいや! 部室の鍵の返し方も覚えておいたほうがいいと思って!」
「そうか、真面目だな、理人は、まだ、ついてきたこと、ないな」
「それに大場先輩の話もしっかり聞きたくてっ」
そう言うと、大場先輩はピクッとしてから固まり、でもすぐにまた歩き出した。
一瞬不快だったのかな、と不安になったが、どうやらそうではなく、少し照れているらしい。
最初大場先輩はガテン系の筋肉質で怖そうな感じだったけども、こうやって傍を一緒に歩いているとよく分かる。
とても優しい先輩だということが、雰囲気で分かる。身長差が20cm以上あっても全然威圧感は無い。
僕は少し気になっていることを大場先輩にも聞いてみることにした。
「来栖先輩から顔ハメ看板がすぐ壊されてしまうという話を聞いたのですが、大場先輩はどう思いますか?」
「う~ん、まあ、形あるモノは、いつか、壊れるからな。ただ、承諾、くらいは、してほしいがな」
「勝手に壊されるんですか……」
「そうだ、流れで。というか、壊すと、派手さが、あるから、壊され人気が、すごいらしい」
壊され人気て。
でも何か少し分かる。
ただ文字が書いてあるだけの看板よりも、画が描いている看板のほうが壊したい人からしたら人気ありそう。
大場先輩は優しい目元で、
「まあ、壊れる、瞬間まで、人を、楽しませて、いるなら、本望だ」
「達観していますね」
「そう、思うように、している、というところも、あるかもしれない。まあ、実際、残しても、邪魔だしな」
「でも記念に残したいような気持ち、僕はありますけども」
「いや、壊して、いいんだ。新しく、作れる、からな」
そう言って微笑んだ大場先輩。
その”新しく作れる”という言葉が希望に満ちていた。
部室の鍵を職員室の箱に返し、玄関へ向かって歩いていく。
「来栖先輩は画を担当していると聞いたのですが、大場先輩は主に何を担当しているのですか?」
「オレは、まあ、見た目通り、木材の、カットが、専門だ、あとは、さっきも、見ていたとは、思うが、計画書なども、オレが、作成する」
「確かにそうですよねっ、顔ハメ看板は穴を開けたりしますから、加工の技術も必要ですよね!」
「イチローは、どんな、ことを、したいか?」
真っ直ぐ瞳を見てくださった時に僕は一瞬怖気づいてしまった。
だって、
「僕はその、画を描くことが好きです……でも、来栖先輩のような画は描けないです……下手なんで……」
すると大場先輩は澄み切った声で、
「いや、いいことだ。自分の画が、下手だと、言えることは、とても、いいことだ」
「……いいことなんですか?」
「そうだ。自信が、無いから、努力できる。自信が、無いことは、最高の、才能だ。一緒に、頑張ろう」
そう言って手を差し出した大場先輩。
僕は握っていいのかどうかあわあわしていると、大場先輩自ら僕の手を掴み、握手してくれた。
大場先輩は「おっ」といった感じに、
「ペンダコ、あるんだな」
「分かるんですか!」
「この手とは、よく触れ合って、きたからな。来栖と、一緒だ」
そうか、来栖先輩も画を巧く描くために努力をしてきたのか……僕も頑張ろう!
大場先輩が、
「さて、普通に、考えれば、アイツらのほうが、早く、玄関に、着くから、少し、急ぐか」
「そうですね」
「オレも、イチローと、会話したくて、ゆっくり歩いて、しまった」
「あ、有難うございますっ」
まず大場先輩が僕なんかに興味を持ってくれることが嬉しくて。本当に優しい先輩二人で良かった。
ここから僕と大場先輩が早歩きで玄関に着くと、余裕でまだいなくて、来栖先輩と理人くんの声が後方から響いてきた。
「おい! 遅いぞ!」
急に大きな声を出した大場先輩。
その怒鳴り声を聞いた来栖先輩と理人くんは急いで玄関にやって来た。
大場先輩は大きな溜息をついてから、
「そんなん、してたら、日が、暮れるぞ」
僕たちは外靴に履き替え、学校をあとにした。




