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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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【03 活動内容紹介】

・【03 活動内容紹介】


 僕が真ん中の机の前に座り、右隣に理人くん、左隣に大場先輩、そして黒板のところに来栖先輩が立ち、説明が始まった。

「さて! 我々の活動をまずイチローに紹介していきます!」

 その来栖先輩の明るさに釣られてしまうように元気に拍手をしてしまった僕。

 小さく女子のように細かく拍手をする理人くん。

 大きな手で一回一回力強く拍手をする大場先輩。

 来栖先輩が拳を天にあげながら、

「基本的に! 顔ハメ看板を作り! 地域に貢献することが俺たちの役目です!」

 僕はちょっとビックリしながら、

「地域に貢献、ですか?」

 と言うと、来栖先輩がうんと力強く頷いてから、

「そう! 地域に貢献だ! 顔ハメ看板を作ってくれと依頼されて作るんだぞ! 別に馬鹿みたいに量産して倉庫をパンパンにさせるだけの迷惑な部活ではないんだ!」

 僕は感嘆の息を漏らしてから、

「いやそんな風には思っていなかったですけども、依頼があるなんてすごいですね!」

 と、ついテンションをあげて言ってしまうと、大場先輩が少し申し訳無さそうに、

「それは、まあ、迷惑なほど、営業、したからな……」

 すぐさま来栖先輩は大場先輩を指差しながら、

「そこ言わない! 言わなきゃバレ無かったヤツ!」

 理人くんは少し体をくねらせながら、

「ちょっとぉん、そんなカッコ悪ぃことぉ、してたんですかぁん!」

 来栖先輩は毅然とした態度で、

「カッコ悪くない! 営業は何もカッコ悪くない! 社会勉強していただけだ!」

 と言うわけだけども、理人くんは溜息をつきながら、

「良いようにぃ、言ってぃるだぇえん」

 来栖先輩はその不安感のある声を払拭させるかのようなデカ声で、

「続ける! ではどんな顔ハメ看板を作るのか! それは依頼通りだ!」

 大場先輩が冷静な声で、

「いらない、言葉を、言うな」

 理人くんは少し慌てながら、

「それは大体分かるよぉん、顔ハメ看板の作り方とかをぉ、言ぃなさぃよぉん」

 すると来栖先輩がちょっとヒートアップしながら、

「理人! 言いなさいとは何だ! 先輩だぞ! 敬え!」

 と言えば、大場先輩が即座に、

「いや、これは、理人が、正しい」

 と来栖先輩が責められ始めていると思ったので、僕はバランスをとるように、

「あのっ、でも、フリとかあるのではないでしょうか……」

 と言うと、来栖先輩が僕にサムアップしながら、

「イチローありがとう! もうオマエだけだよ! オマエしか俺の味方はいないよ!」

 すると理人くんは明らかに不満そうに、

「えぇん、イチローは私のモノなんだからぁん」

 と僕の肩をポンポン触った。

 すると、大場先輩も僕の肩をトントンと叩きながら、

「イチロー、たとえ先輩でも、ダメな時は、ダメだと、言うんだぞ」

 と言った。来栖先輩はダメキャラなのかな……。

 来栖先輩は教壇にバンと手をつきながら、

「俺にダメな時なぞ無い! 続ける! さてどんな顔ハメ看板を作るのか! それは依頼通りだ!」

「えっ?」

 つい高速で僕が疑問を投げてしまった。

 その『えっ?』が絶妙な、食い気味のタイミングだったので理人くんも大場先輩も笑いながら口々に、

「そりゃそうなるよねぇん! 馬鹿なのっ! 来栖先輩は馬鹿なのぉん!」

「それは、無いぞ、来栖」

 僕は少し震えながら、

「わ、わざと、ですよね?」

 と聞くと、顔を紅潮させながら来栖先輩は、

「リズムだ! リズムをつけるために言ったんだ! 決して間違ったわけではない!」

 と叫んだので、間違ったんだ、ということが完全に分かった。

 理人くんはクスクス笑いながら、

「来栖先輩のぉん、司会じゃ話が進まないですぅ!」

 来栖先輩は何故か挙手しながら、

「うるさい! 進む! 俺の司会は進みます!」

 いや全然進んでいないけども。

 来栖先輩はフゥ~と息をついてから、

「で! 俺はどこまで喋った!」

 大場先輩は冷徹な口調で、

「全く、話して、いない」

 理人くんは首を横にフルフル揺らしながら、

「どこまでも何もぉ、何も実のある話はしていないですよぉん」

 すると来栖先輩はキリッとした目つきになり、

「じゃあ最初から始める!」

 その台詞を聞いた時、僕は嫌な予感がした。

 来栖先輩はしっかり呼吸をしてから声を荒らげた。

「まずはどんな顔ハメ看板を作るのかだなっ! それは依頼通りだ!」

「何回それを言うんですかっ!」

 ……と僕の喉から大きな声が出てしまった時に気付いた。

 急に失礼じゃないか、と。

 会ったばっかりの人間が急に大きな声でツッコんでしまうのは失礼じゃないか、と。

 来栖先輩だけではなく、理人くんも、大場先輩も僕のほうを見ている。

 しまった、やってしまった、人との距離感が掴めていない具合が出てしまった、と、思い、心の中で戦々恐々していると、理人くんが嬉しそうに、

「バシッと良いツッコミねぇん! カッコぃぃ!」

 大場先輩はうんうん頷きながら、

「そうだな、それぐらいの、早さで、オレも喋られると、いいのだがな」

 理人くんは大場先輩のほうを見ながら、

「まぁ大場先輩の、ゆったりとした男らしさもぃぃですけどねぇん」

 大場先輩は少し照れながら、

「褒めても、なんも、出ないぞ」

 ……全く怒られないどころか、馴染むぐらいの感じ……い、いや! 来栖先輩だ! そう僕ごときに言われた来栖先輩の返しこそが重要だ、怒っていないかな……。

 来栖先輩は額から汗を噴き出して、焦っているように、

「何回も言っていない! 言っていたとしても重要だから言っているだけだっ!」

 先輩だけども、先輩なんだけども、何だかしぐさが可愛い。

 来栖先輩は拳を強く握りながら、

「続けるぞ! 続けるぞーっ! 場面転換!」

 大場先輩は深く溜息をついてから、

「場面を、転換、しないで、来栖の、話す技術を、上げろ」

「陣に言われたくねぇよ! ゆっくり喋りやがって! 大物か!」

 ムキーッ、ムキーッ、とまるでおサルさんが腹を立てているかのように動く来栖先輩。

 何だこれは……全然、話が進まない……。

 すると大場先輩が僕の背中を優しく叩きながら、

「やはり、オレは、ツッコミに、向いていない。よしっ、頼んだぞ、イチロー」

 と言ってきたので、僕は戸惑いながら、

「えっ? 僕ですかっ?」

 と生返事してしまうと、理人くんは楽しそうに挙手しながら、

「イチローが良ぃわねぇん! 私もつぃつぃ言葉が甘ったるくなってダメなのよねぇっ」

 来栖先輩はムッとしながら、

「おいおい! オマエら! ツッコミって何だ! まるで俺がボケてるみたいじゃないか! こっちは真面目の直角!」

 うっ、ツッコミたい……真面目の直角って何だ……こういう時ってせめて一直線じゃないのか。

 大場先輩も理人くんも僕のほうを見てくるし、えぇい、ここは思い切ってツッコんでみようじゃないか。

 今の状況ならどんな失礼なことを言ったって、大場先輩や理人くんが僕の味方をしてくれるはず!

「真面目一直線ならまだしもっ! 直角じゃ明後日の方向に飛び出していますよ!」

 そう言うと、大場先輩は吹き出し、理人くんは大笑いしながら、

「確かにぃ明後日の方向にポーンと飛び出すねぇ! 直角じゃ急にどこかへ行っちゃうねぇん!」

 二人の反応は上々、あとは来栖先輩だけども、と思いながら来栖先輩のほうを見ると、明らかにしょげながら、

「そうだよな……一直線だよな……ハハッ、馬鹿な先輩でゴメンな……」

 いや思ったより何か喰らってらっしゃる! 何かフォローしなければ!

「い! いや! 和ませているんですよね! 僕が部活に馴染めるようにあえてボケてくださっているんですよね! というか来栖先輩のおかげで大きな声が出せるようになりました! 有難うございます!」

 そう言った瞬間から来栖先輩は元気の塊のような雰囲気を纏い、大きな声で、

「そうだろ! いやそうなんだ! イチローが馴染めるようにボケていたんだよ! 今後もそんなことするから、よろしくぅ!」

 とサムアップしたところで、大場先輩はニヤリとしてから、

「今後も、どんどん、間違えていく、そうだ」

 来栖先輩は足をじたばたしながら、

「うるさい! 陣! 間違えるんじゃなくて、わざとボケるんだよ!」

 理人くんは少し意地悪そうに、

「そう言ってぇ、その後一切間違わなかったらぁ、逆に怖ぃよねぇん」

 来栖先輩はカッカッしているように、でも本当に怒っているわけじゃないということは何だか伝わる感じで、

「それはそれで、そういうことになることもあるだろ! じゃあ続けるぞ! どんな顔ハメ看板を作るのか! それは依頼通りだ!」

 僕はつい矢継ぎ早に、

「もう何回目ですかぁっ!」

 と言ってしまうと、来栖先輩はハッとしてから、

「何回も言ったか! そうか! じゃあ次に行くぞ! 大体依頼は、ザックリとして依頼が来るんだ!」

 大場先輩は腕を組みながら、

「そう、そうなんだ。だから、こっちが、聞かないと、ダメなんだ」

 来栖先輩は眉毛を八の字にしながら、

「人が集まる感じで、と言うだけなんだよなぁっ! 基本的に!」

 僕は思ったことをそのまま口にした。

「まずサイズは知りたいですよね」

 すると来栖先輩がどこか戦々恐々しながら、

「イチロー……オマエ、顔ハメ看板を作るプロか……陣、俺たちがここに気付くまでだいぶ掛かったよな! なぁっ!」

「あまり、恥ずかしい、ことを、大きな声で、言うな」

 明らかに照れている大場先輩。

 こっちを見るな、と言った感じだが、つい見てしまうと。

「イチロー、結構、Sっ気あるな、見ないでくれ……」

 と言って俯いてしまった。

 Sっ気だなんてとすぐ否定する前に理人くんが話に割り込んできた。

「ツッコミもぃぃ感じだしぃ! イチローはサドかもぉん! ヤダ! めっちゃすこ! 私のこと可愛がってねぇん!」

「いや可愛がるって何ですか! ビックリさせないでくださいよ! というかサドとかそういうのじゃないですから!」

 と僕は焦りながら言ってしまうと、来栖先輩は小首を傾げながら、

「というかサドって何だ? 佐渡島のことか? 面白い形の島だよな、佐渡島って!」

 理人くんはクスクス笑いながら、

「本当にぃ来栖先輩はぁ、何も知りませんねぇん」

 来栖先輩は口をぽかんとしてから、

「何っ? 佐渡島が面白い形の島ということを知っているだろ! つまり博学! 称えろ!」

 僕はもう言っていいんだと思って、

「仮に博学だとしても、すぐに称えたりはしませんよ!」

 とツッコむと、来栖先輩は首をブンブン横に振ってから、

「称えてもいいんだぞ、という気持ちだ! すぐには称えなくても大丈夫!」

 理人くんは呆れるように、

「来栖先輩はぁ会話クラッシャーですねぇ」

 来栖先輩は理人くんにサムアップしながら、

「物事はスクラップ&ビルドだ!」

 と言ったので、僕は本当に思ったことをそのまま、

「すごい良いようにとりますね!」

 と言ってしまうと、来栖先輩はうんうん頷きながら、

「そりゃそうだろ、全ての台詞を褒められていると思って聞くと、ものすごく気持ち良いんだぞ。みんなもやってみるといい」

 確かに全ての台詞を褒められていると思って聞くと、相当人生楽しいだろうなぁ、と思うけども、それを実践できる思考回路の人って本当に限られた人間だと思う。

 大場先輩は手のひらを前に出しながら、

「というか、話を、進めるぞ。聞く手順が、あって」

 と言い出したところで、来栖先輩が、

「待て! 陣! 説明は俺の仕事だ!」

「じゃあ、してくれ」

 来栖先輩は何故か鼻高々で、

「聞く手順というモノがあってな! まずサイズ! そしてどんなイメージか! 最後は締め切りはいつだ! の! 三つ! 基本は三つ!」

 僕は相槌を打つように、

「イメージも細かく分けて聞かないとダメですね、大体どんな感じにしてほしいか絵を描いてくれれば楽ですけども」

 すると来栖先輩は力強く、

「絵の方向性をそっちで決めてくれる依頼なんてまず来ない! むしろ妙に頼られて困ったりするのだ!」

 大場先輩は同調するように、

「その割に、変わった、感じに、してくれ、とか、聞き始めると、希望が、多かったり、するんだ」

 理人くんは斜め上のほうを見ながら、

「変わった感じってあれですかぁ、顔以外に穴が開ぃてぃるとか、そういうことですかぁん」

 来栖先輩はハイテンションで、

「そう! その通り! 理人は分かっているだろうが、イチローはまだ知らないんじゃないかな! へへっ!」

 明らかにマウントをとりたそうな雰囲気が出てしまっている……こんなマウントをとりたい雰囲気な人は初めてだ。

 ここまでそんな雰囲気を醸し出すのなら、喜んでマウントとられたい、そんな気分だ。

 きっとこれはアレだ、小さな子供が大人に何か教えたくて仕方ない時みたいな感じだ。

 そういう時、大人は大体知らないフリして小さな子供に聞くものだ。

 いやまあ来栖先輩は先輩だし、僕も実際知らないんだけども。

「顔以外に穴が開いているって、どういうことですか?」

 と僕が素直に質問すると、来栖先輩がガッツポーズしながら、

「ほいキタ!」

 ほいキタて。

 来栖先輩は得意げに、

「まず基本顔ハメ看板というモノは、顔の部分に穴が開いているんだ! 何故だか分かるかっ!」

 僕はまあ思った通りに、

「それは、顔ハメ看板だから、ですか?」

「ハハハハッ、イチロー! まだまだだなっ! よく考えるんだぁっ!」

 すごい得意げだが、ヒントは出してくれないみたいだ。そもそも顔以外に穴が開いている話はどこにいったんだろうか。まあそのことは置いといて質問から考えるか。でも実際顔ハメ看板の顔の部分に穴が開いている理由って、顔ハメ看板というタイトルだからじゃないのか。

 僕は改めて、

「顔にハメる看板だから、顔の部分に穴が開いているんじゃないんですか?」

「そういう難しいことを言うんじゃないよ! そういうことではないんだって!」

「難しいことは言っていないですけどもっ」

「ヒント! 看板は絵!」

 ……何のヒントにもなっていないような気がする……最悪、看板が実写でも顔ハメ看板として成立するだろうし。

 ただ実写の人間の顔をくり抜くことが気持ち悪くて、抵抗が出てくる、というだけで。

 でも絵か、絵ということはそこに顔を出すだけで、その絵になれるということ、そうかっ!

「顔ハメ看板は元々、そのような見た目になりたいという変身願望からきているから、ですか?」

「……! おい! イチロー!」

 急に僕を指差した来栖先輩。

 何で、怒られるのかな、と思ったら、

「難しい言い方をするんじゃない! よく分かんないじゃないか!」

 大場先輩は頷きながら、

「来栖、合ってる、イチローの、言ったことは、全て、合ってる」

「合ってるのかいっ!」

 とツッコミのような台詞を吐いた来栖先輩は続ける。

「まあ俺は”そのようなイタ飯になりたい”という部分は分かったからな、あとの言葉がよく分からなかっただけで」

 僕はすぐに訂正するように、

「イタ飯じゃなくて見た目ですよね! イタリアの食事になりたいってどういう意味ですかっ!」

 すると来栖先輩は優しく首を横に振ってから、

「ちょっと噛んだだけだ、慌てるんじゃない」

 何でそんな余裕なんだろうか……。

 来栖先輩は妙に落ち着いた声で、

「そんな見た目になりたいから顔ハメ看板は顔に穴が開いている、正解です」

 僕は驚きながら、

「急にクイズの司会者みたいなトーンになった……」

 と言ってしまうと、理人くんは溜息を軽くついてから、

「変身願望とぃう言葉を、全然理解してぃなぃのにぃ」

 そこは華麗にスルーして来栖先輩が声を荒らげた。

「しかしだな! 顔ハメ看板は顔以外に穴が開いている看板も存在するのだ!」

 本題だ、と思っていると、大場先輩が軽く小突くような声で、

「続けた、な」

 と言ったわけだけども、僕はやっと本題だ、とちょっとワクワクしながら、

「顔以外に穴が開いているって、どういうことですかっ?」

 と聞くと、来栖先輩はニンマリしながら、

「そうだろう! そうだろう! 聞きたいだろう! 聞きたいだろうなぁっ!」

 と言ったので、これはもういったれと思って僕は、

「来栖先輩! 会話にいちいちノイズが多いです!」

 とツッコむと、来栖先輩は目が飛び出そうなくらいに驚きながら、

「おまっ! イチロー! バカ! リズムを作っているんだよ!」

 と言ったんだけども、理人くんは軽く笑いながら、

「百パーセントぉ、ノィズねぇん」

 大場先輩も、

「ずっと、いらない、言葉が、多すぎるんだ」

 と割って入った。来栖先輩はムンと口を一文字にしてから、

「いらない言葉なんてない! ノイズだって賑やかしだ! 進める! で! 聞きたいか? 聞きたいか? イチローよ」

 どうやら聞きたいと言わないといけないらしい。

 何だこれ、出来の悪いRPGの会話か、スッと言ってほしい。

「聞きたいです。教えて下さい、来栖先輩」

 と僕は落ち着いた声で言うと、来栖先輩はめっちゃ嬉しそうな顔をしてから、

「ほほほほっ! ところで陣! 先輩って言われるの、めちゃくちゃ気持ち良いよな!」

「そういうの、マジでいいから、話を進めろ」

 と大場先輩が来栖先輩のことをジロリと見ると、

「そ! そんな睨むなよ……本気になった陣は怖いんだから、そんなんじゃモテないぞ、全く……」

 と言ったところで理人くんが挙手しながら、

「大場先輩に彼女ができなかったらぁ、私が代わりやりますからぁん!」

 と高らかに宣言すると、大場先輩が咳払いしてから、

「代わりは、いらないし、今は、彼女とか、どうでもいい」

 来栖先輩も語気を強めて、

「そうだぞ! 今はハメ部に全身全霊だろ!」

 僕はここは言わないとと思って、

「いやその前に来栖先輩がモテない的な話をし出したんじゃないですか!」

 来栖先輩は腕を組みながら、

「確かに、一理あるな。イチローは指摘が鋭いな、指摘が鋭いポイントを贈呈してやろう」

 僕はあまりにも話が進まないので、少し熱がこもった言い方になりながら、

「いやそういうのいいんで話を進めてください! 顔以外に穴が開いている看板の話を教えてください!」

 と言ってしまうと、来栖先輩は喜びを噛みしめるように、

「くぅ! 知りたがりだなぁっ! そこがいい! 教えてやる! それが先輩だからな! なぁっ! 陣!」

「おう、先輩だから、早く、教えてやれ」

「そっ……そんなに睨むなよ、陣……怖いじゃないか……」

 明るく笑ったり、ムキーッと怒ったり、顔を青ざめて震えたり、喜怒哀楽の激しい先輩だなぁ、来栖先輩は。

「じゃ、じゃあ! 場面転換!」

 と柏手一発叩いた来栖先輩に僕は、

「でも気を取り直してだと思います!」

 と指摘すると、来栖先輩は僕を指差しながら、

「それ! 正解! イチローには言い換えチャンピオンの称号を与えようかっ」

「早く、次、喋ろ」

 という大場先輩の冷たい声が響いた。

 来栖先輩は静かに体の向きを斜めにして、僕と理人くんだけが視界に入るように立って説明を始めた。

「顔ハメ看板というモノは自由で、顔以外の部分に穴が開いている看板もあるんだ」

 僕は相槌のような感じで、

「動物の顔みたいなことですか?」

 来栖先輩は首を横に振って、

「もっとだな! 動物の胴体の真ん中に顔が開いていることもある!」

 と明らかにありえないことを言ったので、僕は口を大きく開けて、

「えっ! カンガルーの袋の中みたいな感じじゃなくて、ただただ動物の胴体ですかっ!」

 と驚いてしまうと、来栖先輩はうんうん頷きながら、

「そうそう、実はあるんだよ、そう言ったモノが。俺が見た中で一番驚いたモノが人型のご当地キャラの眉間に穴が開いているヤツだな」

 僕はあわあわしてしまいながら、

「人型のご当地キャラの眉間から顔を出すっ? もう妖怪がそのご当地キャラを乗っ取っているみたいな感じじゃないですか!」

 大場先輩は淡々と、

「食虫植物の、顔ハメも、あって、あれは、顔だけ、じゃなくて、手を出せる、穴も、あったからな」

 僕はまたしても驚嘆しながら、

「手を出せる穴っ? もう顔ハメ看板を逸脱しているじゃないですか! すごいですね! 顔ハメ看板っていろんな看板があるんですねっ!」

 来栖先輩は拳を強く握りながら、

「奥が深いんだぞ! 顔ハメ看板は! そんな顔ハメ看板のイメージを聞き出す作業は一苦労なんだっ!」

 大場先輩も言葉を思い出すように、

「人間を、たくさん、描いてくれ、と言われて、たくさん、顔に、穴を開けたら、穴は一つだけに、してくれ、とか、言われて」

 来栖先輩は大場先輩のほうを見ながら、

「あれからできた絵を一回見せて、どこに穴を開ければいいか聞くことにしたよなぁ!」

 大場先輩は軽く息をついてから、

「でも、あれは、酷かったな、結果、穴は開けない、と言われた時」

 僕はビックリしながら、

「それじゃあただの看板部ですね!」

 理人くんは不満げに、

「そんなぁ! ハメて写真を撮ってぇみんなで遊ぶことが楽しぃのにねぇ! 変な人もぃたものねぇん!」

 僕はでも、と思いながら、

「まあそれだけ出来の良い絵だったということでしょうけどもね」

 と思ったことを言っただけなのに、

「褒めてくれてありがとな!」

 来栖先輩は卑怯だな……急に満面の笑みを向けてきて、ちょっとドキッとしてしまった。

 こんなに明るい瞳で見られたことないから、慣れていないから、戸惑ってしまう。

 来栖先輩はサムズアップしながら、

「まあその時は結局太陽を追加して、太陽に穴を開けたけどなぁ! 助かったぜ! あの時は陣のアイディアに!」

「一応、ハメ部、だからな」

 いつの間にか大場先輩のほうも向き、ニコニコしている来栖先輩。

 それに釣られて大場先輩も笑った。

 来栖先輩の”卑怯さ”に、大場先輩も理人くんも喰らっているのかもしれないなぁ。

 来栖先輩は改めてといった感じに声を整えてから、

「まあ、あとは実際に作業をして教えていくぞ!」

 僕は「えっ」と声を出してから、

「実際に作業って、もう依頼が来ているんですかっ」

 来栖先輩はグッと声に力を入れて、

「そう! ちょうど一昨日依頼が入ったんだ! 今日はまあ仲を深めるトークをして、明日の放課後からまずはイメージの話をしに行くぞ!」

 そして一時間くらい深い自己紹介などをして部室で過ごし、その日が終わった。

 何だか変な部活に入ることになってしまったけども、楽しそうな、優しそうな先輩方だし、明らかにちょっと変な感じだけども、友達もできて良かった。


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