【02 教室で】
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・【02 教室で】
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入学式が終わり、教室に入り、全く友達ができそうな気配が無いまま、一人でイスに座っていると、一人の同級生に話し掛けられた。
チャンスだと思って、渾身の笑顔で振り向くと、
「友達が居たら迷惑かと思ったけどもぉ、ぃなぃんだったらぁん、話しかけてもぃぃよねぇん」
この顔、そしてこのどこか言葉がぬるぬるしている喋り方は間違いない、あの時の妙に艶っぽい男性だ!
「その顔ぉ、覚えててくれたみたぃねぇん」
僕の頬を優しく撫でながらニコニコしている妙に艶っぽい男性。
僕はその言動、そしてこの場にいるという事実全てに驚きながら、こう言った。
「じょっ! 上級生が入ってきていいんですかっ!」
「あぁらヤダ、同級生、オナクラよぉん。私は来栖先輩と知り合いで春休みから部活に参加してぃただけっ。ほらぁん、寮生活始めるスポーツ強豪校はぁ、入学前から練習に参加するでしょぉん?」
いや顔ハメの部活(?)をスポーツ強豪校で例えられても……。
その妙に艶っぽい男性はちょっと早口で、
「でね、でねぇんっ、君は顔ハメに興味があるんでしょぅ? 一緒にハメ部に入りましょうよぉん、ハメまくりましょぅん?」
「ハメまくるって! その言い方やめて下さいよ!」
……と叫んだ僕の声は、思ったより大きな声だったらしく、結果、急に『ハメまくる』と叫んだヤバイヤツ認定されてしまい、僕はクラスで浮いているヤツになってしまった。
そんな僕に話し掛けてくるのは、
「私は早乙女理人ね、君の名前を教ぇてぇ?」
「……、……、……、平井一郎です……」
「じゃあイチローねぇっ、よろしくぅん!」
……理人くんだけになっていた。
そうなると、もう理人くんしか友達になってくれそうな人がいないので、なし崩し的にハメ部へ行くことになった。
友達ゼロで過ごせるほど僕の心臓は強くない。
あまりにも変な人だし、こうなってしまった原因のような人だが、それでも友達がいないよりはマシだ。
自己紹介を兼ねたホームルームも終わり、普通なら明日ある部活動紹介から、仮入部みたいな流れで、今日は皆大体はそのまま帰るのだが、理人くんに連れられて僕はハメ部へ向かっていた。
部室までの道中に、ちゃんと聞きたいことがあった。
「ハメ部って、顔ハメ看板部の略、だよね」
と僕はできるだけ真面目な声でそう聞くと、理人くんはクスクス笑いながら、
「ぅ~ん、もうぅん、恥ずかしがらなくてぃぃのよっ、ハメ部はハメ部でぃぃのっ!」
と言ってきたので、ここは本当にちゃんと確認したかったので、ちょっと大きな声になってしまったけども、
「いやいやいや! 顔ハメ看板の部活動ですよねっ!」
と念を押すと、理人くんは少し不満げに、
「……まあそうだけどもねぇん」
まあそうか、それならとりあえずは安心だ、顔ハメ看板の部活動なら……いや! 顔ハメ看板の部活動って何だよ!
僕は心の中の荒ぶる疑問を押さえて、できるだけ平常心で、
「看板を作るの?」
「基本的にはそうねぇん、後はたまに顔ハメ看板巡りの旅をしたりぃ」
旅をするのか……変なことする旅じゃないよなぁ……って、ハメまくりの部分に引っ張られてしまっているな、いけない、いけない。
普通に看板を巡るだけだ、そのはずだ、うん。
部室と思われる教室前で理人くんは僕のほうを見て、
「さぁん、着いたわよぉん、ハメ部に!」
と、あげた声に釣れられて、部室から元気にさっきの上級生思われる二人が扉を開けて出てきた。
最初に声を上げたのは、明るい感じの男性からだ。
「おぉっ! 校門の君も来てくれたか! 俺は来栖! 二年生の来栖秀介だ! よろしくな!」
「校門の君ぃってぇ、来栖先輩、お尻の穴みたぃですよぉん」
「そう、考えるのは、理人、オマエだけだ。あっ、オレも、二年生で、大場陣という」
ガタイの良い大場先輩は手を差し出し、僕と握手をしてくれた。
同じ男性とは思えないほど、手が大きく、また武骨で、カッコ良かった。
来栖先輩は理人くんの背中をバンバン叩きながら、
「それにしても理人お手柄だな! これで部費が増えるぞ!」
大場先輩は咳払いをしてから、
「すぐに、お金の、話をするな、失礼だろう」
来栖先輩は手でゴメンのポーズをとりながら、
「そっかそっか! ゴメンね! ゴメン! ……で、君はなんて名前なんだい?」
と聞かれたので、ここは普通に答えたほうがいいかなと思って、
「あっ、僕は、平井一郎と言います」
「だからイチローよぉん!」
そう言って僕と肩を組み、僕の体ごと抱き寄せてきた理人くん。
理人くんの髪の毛が僕の鼻の前にきて、何だか妙に良い香りがしてきて、少しクラクラした。
というか理人くんはどこか中性的な顔をしていて、声も高くて、女子と言い張れば女子で通るような男子だ。
それの真逆と言うべき大場先輩は、体全体がゴツゴツしていて、制服の上から見ても分かるほどの筋肉質、特に首の筋肉がすごい。
でも顔は老けているというわけではなく、ガテン系の男前といった感じ、こんな感じならいくらでも女子にモテるだろうな、といった感じで羨ましい。
来栖先輩は今どき一番ウケるような人懐っこいイケメンで、明るい雰囲気が全身から滲み出ている。学ランも少し着崩していてお洒落だ。
意味無くハイスペックな部員たちだなぁ、と思っていると、より強く理人くんが僕を抱き寄せてきて、
「それにしてもイチローはぁ、猫顔の童顔だねぇん。少年じゃぁん!」
とニコニコしていると思ったら、急に頬ずりをしてきたのだ。どっちが猫だ!
僕は驚いて、バッと理人くんから離れると、その勢いで少し転びそうになり、危ないっと思った時、大場先輩が腕で支えてくれた。
「理人、距離が近すぎ、急には、困るだろ」
と低音のイケボで理人くんをたしなめた。
シュンとする理人くん。
でも、と思って僕は思っていることをそのまま言うことにした。
「突然で驚いただけで、何か、愛着持って接してくれて嬉しいです。あんまり僕”近い”友達ができたこと無かったんで……」
別にいじめられていたわけではなかったけども、僕にはみんなそこそこの付き合いで、深く付き合った友達はいなかった。
だから全てをリセットできるような高校を選んだんだ……と、心の中で少ししんみりしてしまった。
いやいや違う、心の中じゃない、そのしんみりとした気持ちがそのまま表情に出てしまっているんだ。
結果、空気を重くしてしまっている……ダメだ、こんなんじゃいつもの僕だ、全然ダメだ、と俯きそうになったその時、来栖先輩が真来栖な表情でこう言った。
「愛着は持つよ」
予想外の一言に僕は驚きながら、来栖先輩の目を見ると、今度は柔らかく、綿飴のように笑い、
「だって同じ部員だからな! 一緒に楽しく過ごそうぜ!」
と言うと、それに同調するようなテンションで、理人くんが、
「怖がらせてゴメンねぇん! あまりにも可愛くてテンション上がっちゃったんだぁん! 仲良くしてぇん!」
と僕の腕を優しく掴んで揺らしながら、泣きそうな感じでそう言った。
その理人くんの姿と、まだちょっと困惑しているような表情を浮かべていてしまった僕を見た大場先輩が、それぞれの手で、僕と理人くんの頭をポンポンしながら、
「じゃあ、仲直り、だな」
と言ってから、優しく微笑んだ。
どうやら僕はこのハメ部でうまくやっていけそうだと思うと、自然と笑みがこぼれた。




