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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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18/19

【18 海岸沿い】

・【18 海岸沿い】


 車窓から入ってくる風が徐々に塩気を帯びていく。

 実際は触れるとベタベタするんだけども、その塩気が妙にさわやかで、高揚感を抱かせる。

 ふと、今日は山のほうへ行っていたことも思い出す。

 そうか、僕は今、親友や先輩方、頼れる大人の人と旅行をしているんだ。

 家族で行く旅も楽しいけども、他の人と行く旅行も胸が躍る。

 そんなことを考えながら、車窓を眺めていると理人くんが僕の足をさすりながら、

「イチロー、何黄昏て外を見てるのぉん! たまには私を見てよっ!」

 僕はつい思っていることをそのまま、

「いや理人くんのことはいつでも見れるじゃないかっ」

 理人くんは嬉しそうに、

「ちょっとぉん、ぃつでも見れるってぇん、ずっと一緒にぃる気じゃぁん! 大好き!」

 一瞬”ずっと一緒にいる気”の後に、そんなに仲良くないからすぐ去るよ的な言葉を言われてしまうのでは、と思ったが、そうか、そんな嫌な台詞を吐きつけられていた日々ももう終わったんだ。

 いやでも、すぐに天狗になってもいけない。僕も気持ちを伝えないと。

「うん、理人くんのこと大好きだよ、一緒にいて楽しいし、何だか嬉しいからね」

 と普通に、理人くんみたいに言ったつもりだったのに、急に理人くんは顔を耳まで真っ赤にして俯いた。

 いやまあ確かに恥ずかしいこと言ったけども、理人くんも言ったから僕も言ったのになぁ。

 理人くんは小さな声で、

「ちょっとぉん……急に……そんな……私にはもったぃなぃ言葉だよぉん……」

 僕は反比例するかのように大きな声で、

「いやどこがっ! いつも思っているからいつもの言葉だよ!」

 と言ってしまうと、理人くんはまたいつもの調子で、

「もぅ! イチローったらぁん! えっちなんだからぁっ!」

 僕はすかさず、

「いやいや! それこそどこがっ! 全然えっちじゃないよ! 通常台詞だよ!」

 理人くんは何故か軽くヒくように(とは言え冗談の感じだとは分かる)、

「それが通常ってもぅ、すごぃ……」

 でも僕は勢い余ってデカい声で、

「すごくない! 普通! ずっとそう思っているから普通だよ!」

 その後、理人くんは太陽のように赤くなって俯いて、ごにょごにょ何か言うだけになってしまった。

 う~ん、でもまあ嫌がっている様子ではないから良かった。

 そんなこんなで、旅館前の最後の目的地に着いた。

 ラッシーさんが自動車を優しく止めてくださったところで、

「着いたぜ! 着いたぜ! 海岸沿いの道の駅だぜ!」

 大場先輩は嬉しそうに、

「この地で、とれる、塩と、ここより、少し、山手の、場所で、とれる、枝豆が、有名な、道の駅だ」

 来栖先輩は突然ツッコむように、

「ちょいちょいちょーい! 陣! 塩はとれるもんじゃないだろ! 何言ってんだよ!」

 大場先輩は小首を傾げながら、

「いや、塩は、海から、とるもの、だが」

 来栖先輩は本当に不思議そうに、

「えっ? 何言ってんの? 海からとるって魚じゃないんだからさ!」

 僕は伺うように、

「……来栖先輩、もしかすると塩は岩塩ばかりだと思っているんですか? いや確かに世界的に見たら海からとる日本のほうが少数派ですけども」

 菅沼先輩はおそるおそる、

「いやイチロー。大場。来栖はこれからかなりヤバイことを言い出すんじゃないか?」

 来栖先輩はちょっとムッとしながら、

「何もヤバイことは言わないぞ! 健全第一だからな!」

 僕はツッコむように、

「安全第一みたいに言われてもっ」

 来栖先輩は拳を天に掲げながら、

「塩は天からの恵みだろ! 空からパラパラと振ってくるもんだろ!」

 僕は慌てて、

「いや雪みたいな感覚でいちゃダメですよ! さすがに高校生なんですから、海か岩かのどっちかだと分かっていてください!」

 理人くんは呆れるように、

「岩塩が初耳ならまだしも、海も初耳はすごぃわぁん」

 来栖先輩は自信満々に、

「いやいやいや! 塩は天から降ってくるんだよ! 星空が綺麗な日にっ!」

 僕は即座に、

「妙にロマンティスト! 違いますよ! 基本的に海水を火でたいて、塩を取り出すんですよ!」

 来栖先輩は堂々と、

「海水は赤飯じゃない! たくって言うな!」

 僕は矢継ぎ早に、

「赤飯は関係無くて! とにかく海水からとれるんですよ! 塩はっ!」

 来栖先輩は目を丸くしながら、

「本当かっ! じゃあちなみにさっきから時折誰かが喋るガンエンって何だっ!」

 大場先輩はやれやれといった感じに、

「誰が、喋るかは、分かっていて、くれ」

 僕は説明するように、

「岩塩というのは、岩からとれる塩のことです。主に山でとれます」

 来栖先輩はじゃあといった感じに、

「その山の塩が上から降ってきてるんじゃないか! 星空が綺麗な日にっ!」

 僕は語気を強めて、

「だとしたら星空が綺麗な日は関係無いじゃないですか!」

 来栖先輩は負けじと、

「それは何か天候と密接な関係があるんじゃないか! 星空が綺麗な日に!」

 僕はもう、かなり大きめの声で、

「何回星空が綺麗な日って言うんですかぁ! 全然違いますよ!」

 菅沼先輩は溜息交じりに、

「一般的な常識でここまで時間をくう高校生って珍しいな、俺はもう一人で海観に行くから」

 そう言ってまた僕たちの群れから離れていった。

 いやでも、この来栖先輩を中心とする群れはかなり嫌だな……。

 早く顔ハメ看板を見つけなければ、と思ったが、全然見つからない。

 もしかするとここの顔ハメ看板はもう撤去されてしまったのだろうか。

 僕は大場先輩へ、

「大場先輩、ここの顔ハメ看板はどういった顔ハメ看板なんですか?」

 大場先輩は少しだけ申し訳無さそうに、

「いや、あるという、情報だけで、どんな、顔ハメ看板かは、分からないんだ」

 理人くんがガッツポーズしながら、

「じゃあもう探すしかなぃですねぇん!」

 そう言って僕に抱きついてきた。

 いや元気だな、というか元気な状態に戻って良かった良かった。

 頃合いを見て理人くんも僕から離れ……ない! 今日は離れない!

 僕は焦りながら、

「ちょっと、理人くん、今日は長いね……」

 理人くんは嬉しそうに、

「私もイチローのこと大好きだからぁん!」

 そう言ってギュッと強く抱き締められた。

 いやちょっと、

「ちょっと痛いかも……理人くん……」

 理人くんは慌てて離れて、

「あっ! ゴメン! 大丈夫! イチローぉん!」

 僕は一息ついてから、

「いやまあ大丈夫だよ、うん、大丈夫」

 理人くんはちょっとだけ意地悪そうに笑ってから、

「……でも、痛がったイチローも、ちょっと、ぃぃんっ」

 僕はすかさず、

「いや痛がった僕はダメであれ!」

 そんなやり取りをしていると、大場先輩が指を差した。

「あったぞ」

 来栖先輩は疑問符を浮かべながら、

「……陣? どこだ? オマエ、どこを指差しているんだ?」

 確かに大場先輩が指差した方向には自動販売機しかなかった。

 いや待てよ、あの自動販売機、何かおかしい、妙に平面というか……!

 穴が空いている! あの自動販売機の真ん中! 顔をハメるサイズの穴が空いている!

 大場先輩は妙に落ち着いた声で、

「なるほど、自動販売機に、なれる、顔ハメ看板か」

 僕は焦りながら、

「何がなるほどなんですかっ! どういう気持ちでハメればいいんですかっ!」

 大場先輩は深く頷いてから、

「それは、各々が、考えると、いい」

 自動販売機の中央に穴が空いている顔ハメ看板。

 顔の上下には飲み物の画、そして両耳の隣には、枝豆の宣伝が描かれていた。

 来栖先輩は嬉しそうに、

「これは俺の無表情がいいだろうなぁっ!」

 そう言って自動販売機の顔ハメ看板にハマったので、デジタルカメラを今持っていた大場先輩が写真を撮った。

 僕はその撮れた写真を見て、

「確かにこれは無表情以外の顔は合わないですね」

 理人くんも同調しながら、

「機械的な感じが機械に合うねぇん」

 大場先輩は、

「他に、もう一つ、あるはず、だから、探すぞ」

 ラッシーさんは本当に楽しそうに、

「いいぜ! いいぜ! 顔ハメ看板は何でもありで楽しいぜ!」

 僕はなんとなく、

「目的不明でも大丈夫なんですね」

 と言うと、ラッシーさんが即座に、

「きっとこれの目的は宣伝だぜ! 枝豆の宣伝なんだぜ!」

 僕はちょっとツッコむように、

「だとしたら変に回りくどいですよね、枝豆の顔ハメ看板でいいですよっ」

 理人くんはクスッと笑ってから、

「でも枝豆の顔ハメ看板ってどうぃうことって思うよぉん」

 大場先輩は淡々と、

「それは、それで、な」

 来栖先輩は走り出しながら、

「とにかく勉強になる! それに尽きるなぁっ!」

 来栖先輩は時折意味無く走り出すなぁ、犬なのかなと思いつつ付いていくと、その走って行った先に顔ハメ看板があったので、犬なんだ、と思った。鼻が利くとかそういったイメージ。

 その顔ハメ看板は大きなハートマークで、顔みたいになっていて、ニッコリ微笑む口元はあるんだけども、目が顔ハメの穴になっていて、その二個の目からそれぞれ顔を出すといった感じだ。

 大場先輩は何だか少し呆れるように、

「恋人の、聖地と、書いてある。初めて、聞いた、けども」

 ラッシーさんはガッツポーズをしながら、

「いいぜ! いいぜ! こうやって言い切ってしまう観光地は嫌いじゃないぜ!」

 理人くんは僕の腕を引っ張りながら、

「ちょっとぉん! イチローぉん! 私と一緒に顔ハメしよぅん!」

 こうやって積極的に引っ張ってくれる理人くんには本当に助けられているなぁ、と思いつつ、僕は二人で顔ハメして、大場先輩に撮ってもらった。

 大場先輩が微笑みながら、

「ここは、二人の、笑顔が、合うな」

 すると理人くんが少し恥ずかしそうに、

「ちょっとぉん! イチローも笑顔だったのぉん! 照れちゃぅん!」

 僕は思ったことをそのまま口にする。

「そりゃ笑顔だよ、こんなに楽しいんだもん」

 理人くんは僕の肩に手を置きながら、

「こっちの台詞ぅん!」

「じゃあ両方の台詞だねっ」

 こんなことを言い合えるなんて幸せだ。

 菅沼先輩と合流してから、道の駅で買い物をして、ここをあとにした。

 ついに次が旅館だ……って! 来栖先輩!

 僕は来栖先輩が手にいっぱい持っている枝豆を見ながら、

「それ試食の枝豆ですよね! もらったんですかっ?」

 来栖先輩は嬉しそうに、

「めっちゃ食ってたらくれた、ラッキーだ」

 大場先輩は呆れるように、

「そもそも、試食を、めっちゃ、食ってたら、ダメだ」

 来栖先輩は笑いながら、

「いやだって旨いからさ、あんなのが試食ってもはやバイキングだよな」

 理人くんもやれやれといった感じで、

「海賊という意味のバイキングねぇん……」

 菅沼先輩は頷きながら、

「まあ常識知らずの馬鹿は年寄りには可愛く見えるからな」

 すると来栖先輩はムッとしながら、

「菅沼! そんな年寄りの店員さんじゃなかったぞ! そうだ! ラッシー! これくらい若さ溢れる楽しさだよなっ!」

 ラッシーさんは少し間をとってから、眉間にしわを寄せて、

「来栖くん! それはあんまり良くないぜ!」

 僕はビックリしながら、

「良くないぜ、が出た! あんなに『いいぜ! いいぜ!』言って下さるラッシーさんから良くないぜが出た!」

 ラッシーさんは溜息交じりに、

「まあ感謝するしかないぜ! 次来た時はいっぱい買うんだぜ!」

 来栖先輩はシュバッと挙手しながら、

「分かりました! 枝豆コロッケ以外も買います!」

 というか来栖先輩またコロッケ買ったんだ。

 本当にコロッケがめちゃくちゃ好きだな、この人。

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