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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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【19 旅館】

・【19 旅館】


 ついに旅館へ到着。

 荘厳な雰囲気のあり、入口近くの花壇を見るだけで、手入れが行き届いていることがよく分かる。

 綺麗な花々が落ち着くのか、もはや高級過ぎて落ち着かないのか、自分のことなのに判別できなかった。

 全員で荷物を持って降りたところで、来栖先輩が指差しながら、

「ラッシー! 旅館にも顔ハメ看板があるなぁっ!」

 ラッシーさんは自慢げに、

「そうだぜ! そうだぜ! 顔ハメ看板ある旅館を選んだんだぜ!」

 大場先輩は会釈しながら、

「わざわざ、ありがとう、ございます」

 というわけで早速顔ハメ看板にハマった。

 ゆるキャラが二体温泉に入っていて、そのうちの一体の顔が空いているというベーシックな顔ハメ看板。

 フォルム的に二体とも同じゆるキャラで、何だか格闘ゲームの1Pカラーと2Pカラーみたいな感じだ。

 まあ顔の部分が顔と穴で全く異なるから、そういうわけでもないんだけども。

 来栖先輩がまた無表情になり、それを大場先輩が写真を撮った。

 温泉に入って無表情って、逆に浮いているなぁ、いや逆でもないけども。

 さらにもう一個、顔ハメ看板があった。

 一升瓶とお猪口を持って、酔っぱらっている風のおじさんの顔ハメ看板だ。そのおじさんの顔に穴が開いている。

 何でおじさんと思ったのかは恰好と、あとハゲているので、おじさんで間違いないだろう。ただこれになりたいと思う人はいるのだろうか。

 まださっきのは、ゆるキャラと一緒に温泉に入りたいという欲があっても不思議じゃないけども、酔っぱらっているハゲたおじさんになりたい欲は無いだろう。

 でも来栖先輩がまた無表情でハマりに行ったので、ハマりたい人もいるんだろうなぁ。無表情で酔っぱらうって何か怖いな。

 菅沼先輩も、チェックインは同時じゃないとダメなので、僕たちの顔ハメを待ってから入館した。

 チェックインやらなにやらは全てラッシーさんがしてくださって、僕たちは荷物を持って、促されるまま、歩き出した。

 エレベーターに乗るのかな、と思っていたのだが、どうやら平屋の部屋みたいで僕は目を丸くした。

 こういうところの平屋の部屋って本当に高いのでは。案の定というかなんというか、庭付きの豪華な部屋だった。

 入口の花壇と同じように整えられた中庭には池があり、鯉が泳いでいる。餌は自由にあげていいらしいので、結構丸々太っている。

 松の枝も風景を邪魔しないようにところどころ美しくカットされていて、風情というものがある。

 僕はつい、

「やっぱり高橋さんと一緒に泊まったほうがいいんじゃないんですか!」

 ラッシーさんは笑顔で、

「いいんだぜ! いいんだぜ! 楽しく少年たちと泊まりたかったんだぜ!」

 部屋の中は広くて、六人で雑魚寝しても十分余るくらいの部屋だった。

 来栖先輩はハイテンションで、

「じゃあ早速、風呂に行くかっ! 裸足になるぞーっ!」

 僕はすかさず、

「いや風呂なんだから裸足は当然ですよ!」

 理人くんは甘えるような声で、

「ねぇん、ねぇん、イチローはどんな水着を持ってきたぁん?」

 僕は普通に、

「普通のだよっ、それはもう普通のトランクス型の水着だよっ」

 そう水着。

 ここのお風呂はスーパー銭湯みたいになっているという話で、男女混浴で、水着を着て入るらしい。

 勿論この部屋備え付けの内風呂もあるみたいだけども、基本はそっちに入ろうというのが事前の取り決めだ。

 だから事前にラッシーさんから知らされた通り、水着を持ってきていたのだ。

 すると来栖先輩が小首を傾げながら、

「……水着って何だ? 風呂は裸足っ! 全身裸足だろっ!」

 僕は即座に、

「全身裸足って何ですか! 全身なのか裸足なのかっ! というか来栖先輩、水着持ってきてないんですかっ!」

 来栖先輩は堂々と、

「だって風呂は裸足であれば十分だろ」

 僕は、

「いや裸足で服着ていたらダメですし、ここのお風呂は水着が無いと入れないんですよっ、勿論備え付けの内風呂はあるみたいですけども」

 来栖先輩は明らかに意気消沈しながら、

「俺一人だけ寂しく……」

 するとラッシーさんがサムアップしながら、

「大丈夫だぜ! 大丈夫だぜ! 水着は売ってるぜ! 買えば大丈夫だぜ!」

 大場先輩は同調しながら、

「そりゃ、そうだ、売ってるに、決まってる」

 でも来栖先輩はさっきと同じようなテンションで、

「でもまあ一人寂しくという手もあるし……」

 僕は伺うように、

「……もしかすると、お金、無いんですか?」

 来栖先輩はツッコミのテンションで、

「お金はコロッケ三個分しか持ってこないだろ!」

 菅沼先輩は若干焦りながら、

「いやいや少なすぎるだろ。ツッコミみたいなテンションで馬鹿なことを言うな」

 理人くんはおののきながら、

「何か不測の事態があったら、どうしてぃたのかなぁん……」

 ラッシーさんは明るくサムアップしながら、

「いいぜ! いいぜ! それくらいのお金は出してやるぜ! ただし! 出世払いだぜ!」

 すると来栖先輩が疑問符を頭上に浮かべながら、

「出生払い……生まれ変わった時に払うのか?」

 僕はすかさず、

「出世です! お金が入ったらそのお金で払ってくれという意味ですよっ!」

 来栖先輩は納得したように、

「そういうことか! 生まれ変わるってどれだけ出世しないといけないんだと思ったら!」

 僕は語気を強めて、

「いや出世という日本語は知っているんですかっ! じゃあそこも分かってください!」

 来栖先輩は少しムッとしながら、

「出生払いに聞こえたんだ」

 でも僕は負けじと、

「聞こえたとしてもそこはもう出世払いでしょう!」

 来栖先輩だって対抗するように、

「出世払いって日本語知らなかったんだよ、知らなかったら別の言葉で代替えするだろ、脳が」

 だからって僕はツッコミを辞めない。

「出生払いなんて聞いたことありませんから!」

 でもとにかく、来栖先輩も水着が買えるみたいで、みんなでお風呂に入れるみたいで良かった。

 早速僕たち五人は……部屋を出て、って、えっ?

 菅沼先輩が部屋から出て行く僕たちに手を振りながら、

「あっ。俺は部屋の中の内風呂で済ますから。五人で行ってきてくれ」

 どうやらスーパー銭湯のようなお風呂には行かないらしい。

 まあ人それぞれだし、昔の僕だったら、それこそ部屋の中のお風呂で済ましていたから気持ちはよく分かる。

 来栖先輩もそこはそれぞれだと認識しているので、

「じゃああとでな! 菅沼! 用意されたご飯一人で全部食べるなよ!」

 菅沼先輩は呆れながら、

「オマエじゃないんだから自分のにも一切手を出さずに待っててやるよ」

 と、来栖先輩はグイグイとスーパー銭湯に誘うようなことはしない。

 きっと顔ハメ看板という人それぞれが好むようなモノを好んでいるから、何かを押しつけがましくすることはしないのだろうなぁ。

 さて、お風呂に着いた僕たちは早速着替えることに。

 ラッシーさんと来栖先輩は全く、一度も隠すこと無く、着替え。

 大場先輩は常識通りに、下を着替える時だけはタオルで隠して、着替え。

 理人くんは、

「ちょっとぉん、何みんなの着替えを見てるのぉん! 私だけ見ててよ!」

 僕は慌てて、

「何で逆に理人くんは見ていいんだ! いや何かこういう慣れていなくて、どんなタイミングで着替えればいいのかなとか思っちゃって」

 理人くんは怪しく笑いながら、

「じゃあ私が着替えさせてあげようかぁん?」

 僕はすかさず、

「子供じゃないんだからそれは大丈夫だよ!」

 理人くんは笑いながら、

「普通に大場先輩みたぃに、タオルで隠せば大丈夫だよぉん!」

 僕はつい、

「いや理人くんも結局人の着替え見てる!」

 理人くんは微笑みながら、

「そりゃ見るよぉん、でもぉん、本命はイチローだからねぇん!」

 僕は焦りながら、

「着替えを見る本命って何なんだ! いやもう着替えよう着替えよう!」

 理人くんはうんと頷いて、

「そうだねぇん」

 いやでも!

「対面で着替えるって何っ! 僕はこっち向いているね!」

 理人くんは上機嫌に、

「ぃぃじゃん、対面で着替えよぅん、気付ぃたらぃなくなってたとか嫌じゃぁん」

 確かに気付いていたらいなくなっていたのはかなり嫌だな、じゃあ、

「じゃ、じゃあ対面で……」

 でも何だろう、すごく恥ずかしいなぁ。着替えているところを見られるって何か変だ。

 いつもは一人だから単純に慣れていないんだろうなぁ。妙に布の擦れる音が聞こえてくる。何か過敏になっているかも。

 理人くんは動く度に、良い香りがしてきて、どんな柔軟剤を使っているんだろうか。というか僕、汗臭くないかな、大丈夫かな。

 ちょっと隠れて、さりげなく、自分の服の匂いを嗅いでいると、理人くんが、

「私もイチローの服の匂ぃを嗅ぃであげるっ」

 と言って、僕の服を優しく奪い取って、そこに顔をうずめた。

 理人くんはニッコリと、

「うん、良ぃ香り! イチローの可愛ぃ香りがするぅん!」

 僕は焦りながら、

「可愛い香りって何っ? 汗臭くなかった?」

 理人くんは優しく首を横に振って、

「いや全然汗臭くなぃよぉん、そんな気にする必要無ぃからぁん」

 そう言って服を返してくれた。

 僕が気にしていたことをわざわざ取っ払ってくれて、本当に優しいなぁ。

 僕と理人くんも着替え終わり、水着になってお風呂の中へ入っていった。

 そこには立って歩ける流れる温泉や、ウォータースライダーのようなモノもあった。

 荘厳な雰囲気な旅館と違って、スーパー銭湯はカラフルでオモチャみたいで可愛かった。

 勿論部分的には和を思わせるところもあり、かゆいところにも手が届くような造りになっていた。

 僕たちはこの温泉を遊びつくして、部屋に戻っていった。

 部屋に戻ると、もうご飯の準備がされていた。

 菅沼先輩は庭を見ながら、画用紙と鉛筆でデッサンをしていた。

 来栖先輩は菅沼先輩へ、

「菅沼! 全員分の一口コロッケが全て無くなっているとか無いよな!」

 菅沼先輩は振り返らずに、

「一口コロッケってなんだよ。大丈夫だよ。食ってないから」

 と言って数秒後、こっちを向いてから、デッサン道具を片付けた。

 全員で席についたところで、六人で豪華な夕ご飯を食べ始めた。

 真っ先に白米をゼロにしてしまったラッシーさん。

 何でもかんでも白米に乗せて食べる来栖先輩。

 行儀良く、見本のように順番に食べていく大場先輩。

 多分嫌いな食べ物をだろう、嫌いな食べ物を別の皿に全て移してから食べ始める菅沼先輩。

 そして嫌いな食べ物を見つける度に、全て僕の皿に乗せていく理人くん。

「これも食べてぇん!」

 僕はツッコむように、

「僕、お腹いっぱいになっちゃうよ!」

 理人くんは甘えるように、

「太らないように食べてぇん!」

 僕はすかさず、

「この場合は若干太るよ!」

 そんなこんなでご飯を食べ終え、それぞれ好きな行動をし始めた。

 外の呑み屋でちょっと呑んでくると言って部屋から出ていったラッシーさん。

 もう一回温泉で遊んでくると言って走って行った来栖先輩に、腕を引っ張られれて一緒に行くことになった大場先輩。

 ラッシーさんからサプライズで受け取った画材道具で、この部屋の庭じゃない、旅館の中庭で画を描いてくると言って部屋から出ていった菅沼先輩。

 そして部屋に残った僕と理人くん。

 二人で隣同士で布団の上で座っている。

 なんとなく、本当になんとなく、言いたくなったから言ったんだ。

「理人くん、今日はありがとう。とても楽しかったよっ」

 すると理人くんは動揺しながら、

「……えっ? 何? イチロー、夜と共に月へ帰っちゃうのぉん?」

 僕はツッコむように、

「全然かぐや姫的なアレじゃないよ!」

 理人くんは目を丸くしながら、

「だって何かお別れみたぃなこと言ったからビックリしたのぉん!」

 僕も逆に驚きながら、

「全然お別れじゃないよ! お礼を言いたくて言っただけだから!」

 理人くんは優しい笑顔で、

「親友なんだからそんなことぃちぃち言わなくてもぃぃのぉん」

 僕は照れながらも、絶対言葉にしたほうがいいと思って、

「いやでも、恥ずかしながら僕、こんな仲の良い親友できたことなかったから。すごく嬉しくて」

 理人くんは僕の手を握りながら、

「そりゃ私とイチローくらい仲の良ぃ親友ぃたら嫉妬しちゃう!」

 僕は頷いてから、

「そういう言葉が本当に有り難くて、じゃあ月に帰らないからこう言うね、これからもよろしくお願いしますっ」

 理人くんは、

「そんな改まって言われたらキュンとしちゃうぅん!」

 そう言って僕に抱きついた。

 僕はツッコむように、

「いやキュンとじゃなくて、ギュっとしてるからっ」

「両方、同時」

 僕の頬と理人くんの頬が触れ合う。

 僕は多分顔が真っ赤になりながら、

「ちょっ、さすがにこれは恥ずかしいよっ」

 理人くんは優しい声で、

「ぃぃじゃなぃ、イチローのホッペ、ぷにゅぷにゅしてて気持ちぃぃ」

 僕は即座に、

「理人くんから嫌いな食べ物をもらいすぎて、ちょっと太っちゃったかなっ」

 理人くんはちょっと不満そうに、

「そうぃうのじゃなぃ! イチローのィジワル!」

 と言って僕から離れて、そしてホッペにキスをした。

 僕は目を丸くしながら、

「すごい海外式の挨拶!」

 理人くんは微笑みながら、

「どうかなぁん?」

 僕はデカめの声で、

「いや海外式でしょ!」

 その後、僕たちはずっと喋っていた。

 話は尽きなかった。

 ずっと一緒にいるんだから話すことが無くなってもいいはずなのに。

 そう、ずっと一緒にいる。

 きっとこれからもずっと一緒にいるんだろうな。

 その事実がとても幸せで。

 この幸せがずっと続けばいいなぁ、と思っている。


(了)


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