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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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【17 国師通り】

・【17 国師通り】


 車窓から見える風景は徐々に活気を帯びていく。

 山から海に行けば行くほど、建物は増えていく。

 やっぱり人は坂の無い場所に住もうとしていくんだなぁ、と思っていると、突然街並みの雰囲気が変化する。

 都会的な建物から、一気に和風なイメージへ。カラーも茶色っぽい色ばかりで、江戸時代のイメージ。

 車から降りて、皆で見渡している時に大場先輩が喋り出した。

「ここは、江戸時代の、宿場町の、趣を、残した、国師通り、という、場所だ」

 こうやって、街並みの雰囲気を残すって大変だと思う。

 住民の人たちの意志が結託していないと、できないだろう。

 趣が残されていることを感謝しつつ、早速顔ハメ看板を探した。

 菅沼先輩が冷静に、

「というかそんな場所にも顔ハメ看板があるんだな」

 確かに。

 景観を残すことをメインにしていたら、顔ハメ看板は作らないだろうに。

 すると大場先輩が、

「ここ、似潟県は、顔ハメ看板を、作る、会社も、あって、他県から、比べて、比較的、顔ハメ看板が、多いんだ」

 そうだったのか、なんとなく普通に顔ハメ看板で観光地に行ったら必ずあるから考えたことも無いけども、僕たちが住んでいる県って、そもそも顔ハメ看板が多いんだ。

 理人くんが、

「確かにぃ、隣県のぉ、長山県に行った時ぃ、顔ハメ看板が少なかったような気がするぅん」

 来栖先輩は拳を強く握りしめながら、

「県ごとにそういう特色もあるんだな! 初めて知ったぞ!」

 大場先輩は呆れるように、

「いや、来栖には、前にも、この話を、したはずだ」

 来栖先輩は感慨深そうに、

「じゃあその時は知れなかったんだなぁ」

 いや聞いたのに知れなかったって何なんだ。

 脳まで届かなかったみたいに言われても。

 ラッシーさんはサムズアップしながら、

「いいぜ! いいぜ! とにかく顔ハメ看板を探すぜ!」

 菅沼先輩は軽く声を大きめにして、

「じゃ、俺はこの風景の写真とか撮ってくるから、一人で歩いていくから」

 即座に来栖先輩が、

「おい! 菅沼! 一緒に歩こうぜ!」

 菅沼先輩はメガネをあげてから、

「いや。こういう風景は写真と網膜に焼き付けて。画の勉強にあてたいんだ」

 本当に真面目だなぁ、ストイックというか。こういう人に僕は憧れるかもしれない。

 いやまあ僕たちの顔ハメ看板探しも勉強なんだけども、いまいち締まらないんだよなぁ。

 モノがモノだけに、仕方ないのかもしれないけども。

 実写のハエトリソウに三つ穴が空いている看板で喜々として遊ぶって、やっぱり勉強感は出ないなぁ。

 大場先輩はうんうん頷きながら、

「じゃあ、菅沼は、別行動で。こっちは、こっちで、勉強、しとく」

「おぅ。まあオマエらの勉強は何だか滑稽だがな」

 そう言って菅沼先輩は別の方向へ歩いていった。やっぱり滑稽だと思われていた。

 いやまあ張本人でもある僕も滑稽だと思っていたから、いいけども。

 大場先輩が同調するように、

「まあ、滑稽だよな」

 理人くんは楽しそうに、

「馬鹿馬鹿しさがぃぃのぉん!」

 来栖先輩はジャンピングガッツポーズをしながら、

「顔ハメ看板のいいところだぜ!」

 いや結果、全員滑稽だと思っていたんだ。

 と言ったところで、来栖先輩だけ小声で、

「……でもコッケイって、ニワトリのことか?」

 いや一人だけ滑稽という言葉の意味を分かっていなかった。

 なんとなく僕はスルーしてしまうと、当然のように誰もツッコまなくて。

 すると来栖先輩が一人で、

「何か良い卵産みそうだな! あっ! 良い作品を産み出すって意味か! なるほど!」

 と勝手に納得した。じゃあもうそれでいいかと思って何も言わなかったら、本当に誰も何も言わなかった。

 それはそれでもう正解の対応なんだっ。

 大場先輩が急にどこかを指差して、

「あっ、ただ、看板、じゃ、無いな……」

 その先を見ると、顔ハメ看板は確かにもう看板では無かった。

 甲冑そのものだった。板や縄、鎖などで空中に固定された兜と、甲冑だった。

 来栖先輩は嬉しそうに、

「この兜と鎧の間から顔を出すわけだなぁっ!」

 僕は目を丸くしながら、

「もう看板じゃないですけども、これも顔ハメ看板って言うんですかっ?」

 来栖先輩は何故かえっへんといった感じに、

「顔を出すところがあれば、何でも顔ハメ看板なんだぞっ」

 僕は感嘆しながら、

「すごいですね! もう定義が緩いじゃいますよ!」

 理人くんはクスクス笑いながら、

「とぃうか定義が緩ぃねぇん」

 ラッシーさんはサムアップしながら、

「いいぜ! いいぜ! 定義なんてもう無いと一緒だぜ!」

 大場先輩は頷きながら、

「段ボールから、顔を出す、紙芝居型の、顔ハメ看板も、あるぞ」

 なんて多種多様なんだ顔ハメ看板。

 というか紙芝居型の顔ハメ看板って良いなぁ。

 今度練習で作ろうっと。

 来栖先輩が小躍りしながら歩いていき、

「じゃあここはこの中で一番勇ましい俺が撮られよう!」

 とウキウキで顔を出した。

 まあ確かに何もしなければ一番勇ましいけども、そんなウキウキしていたら全く勇ましくない。

 一応、撮られる瞬間はいつもの無表情フェイスになったけども、その前後が勇ましくなさすぎる。

 デジタルカメラは理人くんが持っていたので、

「撮りましたぁん! 来栖先輩ぃ!」

 すると来栖先輩がジャンピングガッツポーズをしながら、

「よしっ! じゃあ菅沼のところに行って風景に写り込んでやるか!」

 僕はすかさず、

「いや多分邪魔になりますから! というか僕たちが風景に写り込まないように別行動しているわけですから!」

 来栖先輩はハッとしてから、

「なるほど! そういうことか! 途中までなら一緒にいればいいのに、と思っていたら!」

 ラッシーさんは同調するように、

「そうだぜ! その通りだぜ! 最初の弥生展示館の時に周りをうろついたら、どっか行けと言われたぜ! ケンチンは恥ずかしがり屋だなと思ったら、どうやら違ったぜ! 近くをうろうろされるのが邪魔らしいんだぜ!」

 僕は改めてといった感じに、

「というわけで僕たちは菅沼先輩のことは気にせず、顔ハメ看板をくまなく探しましょう」

 大場先輩は大きく頷いてから、

「それぞれ、やることが、ある、という、こと、だな」

 そこから僕たちは顔ハメ看板を探し回った結果、もう一つ発見したのであった。

 大きな物産館の近くで見つけた。

 理人くんは大喜びしながら、

「これこれぇん! こういうの待ってたぁん! イチローと一緒に撮るぅん!」

 それは二人で撮る顔ハメ看板だった。

 一緒に撮る、と言って喜んでくれて、何だかすごく嬉しい。

 いや何だか、じゃない。理由は分かっている。

 こういうので一緒に撮るとか言われたことが今までの人生で無かったからだ。

 やっぱり僕と理人くんは親友なんだということを改めて噛みしめる。

 というかこうやって普通に”親友なんだ”と心の中でも言えることが本当に嬉しい。

 来栖先輩が小首を傾げながら、

「狐の嫁入り行列って何だっ?」

 大場先輩は説明するように、

「風習の、一つだ。狐の、嫁入り、という、祭り、用に、作られた、顔ハメ看板、だな」

 ラッシーさんは楽しそうに、

「いいぜ! いいぜ! 早速撮るぜ!」

 と言って理人くんからデジタルカメラを受け取って、もう構えてくれている。

 僕は男性のほうから顔を出すと、理人くんは首を横に振った。

「可愛ぃイチローがお嫁さんのほうから顔を出すのぉん!」

 僕はビックリしながら、

「えっ、中性的な顔の理人くんが女性のほうから顔を出すんじゃないの?」

 理人くんは不満そうに、

「違う違う! 可愛ぃ猫顔のイチローがお嫁さんに決まってるじゃないのぉん!」

 決まっているわけではないと思うけども、僕もそこまでこだわりは無いので、言われるがまま、お嫁さん側から顔を出すことにして、写真はラッシーさんから撮ってもらった。

 理人くんはすぐにラッシーさんに近付いて、デジタルカメラを見ながら、

「理想! 理想! これが理想なのぉん!」

 撮れた写真を見て大層喜んでいるので、まあこれで良かったんだと思って、僕の心もほっこりした。

 大場先輩は柏手一発叩いてから、

「じゃあ、そろそろ、菅沼を、見つけて、次の場所へ、行くか」

 と言って、大場先輩が来た道を帰ろうとすると、そこに菅沼先輩が立っていて、

「結構たっぷり探していたみたいだな、俺のほうはもう終わったぞ」

 そう言いながらメガネを上げた菅沼先輩は狐の嫁入り行列の顔ハメ看板のほうをちらりと見て、

「理人。イチローとこの看板で撮ったんだな」

 理人くんは嬉しそうに、

「はぃ! そうなんですぅん! 分かりますかぁん!」

 菅沼先輩はフッと笑ってから、

「あぁ。だいたい分かる。理人。俺は応援しているからな」

 と菅沼先輩が言うと、理人くんは菅沼先輩の手を握り、

「ありがとうございますぅん! 分かってくれているんですねぇん!」

 菅沼先輩は少し嫌そうに、

「いやだから応援しているんだから。俺にくっついてくるな」

 理人くんは慌てながら、

「そうですよねぇん! すぃませんっ!」

 と言って離れた。

 応援って一体何をどう応援しているんだろうと思ったけども、考えても分からないことは分からないので、考えることは止めた。

 というか多分、僕と理人くんの親友関係が続きます様に、とか、そういうことかな。

 そう考えると、そんなことまで気に掛けてくれている菅沼先輩は本当に優しいなぁ。

 そして僕たちはまた車の中に入って、海岸沿いへ走り出した。


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