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顔ハメ看板部へようこそ!  作者: 伊藤テル


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【14 旅行当日】

・【14 旅行当日】


 当日になった。

 亀本高校の前で、来栖先輩、大場先輩、菅沼先輩、理人くん、僕で、ラッシーさんの車を待っていた。

 前日だって顔ハメ看板部のみんなと一緒で、何なら理人くんとはクラスでずっと一緒なわけだから、何がどうってわけじゃないんだけども、すごく緊張する。

 菅沼先輩もいるけども、菅沼先輩への苦手意識はもう無いし、馴染んだ感があって、いつものメンバーと言ってもいいくらいなんだけども、それでもだ。

 多分慣れない状況だからだ。

 こんなことでもいちいち緊張してしまう自分の小ささが好きになれないけども、徐々に頑張っていこうと、考えられる部分もできてきて。

 昔だったら、そんな前向きな思考にならなかっただろうし、そもそも休日に誰かと旅行なんてことはしなかっただろうなぁ。

 僕たちは各自着替えだけ持ってきた。

 それ以外は、買い食い分のお金以外不要という話だ。

 大場先輩はスマホを使って、運転席の隣でラッシーさんをサポートするらしい。まあスマホは全員持っているだろうけども。

 実際問題、地図自体は読めないんだけども、地名は頭に入っているので、カーナビを操作するという話だ。

 あとはまあ適当に座って、出発といった感じだと思ったんだけども、思ったんだけども、変なことで揉めている。

 理人くんがムキになるように、

「イチローは私の隣に決まってるじゃぁん!」

 来栖先輩はピシャリと制止するように、

「いやいや、顔ハメの絵を描く同士で座ったほうがいい」

 理人くんは少し攻撃的な声で、

「ぃやだって! 菅沼先輩も絵じゃないのぉ! イチローと私、来栖先輩と菅沼先輩でいいじゃないのぉん! 年齢も合うじゃないのぉん!」

 菅沼先輩は首を横に振ってから、

「いや俺は正直来栖の隣はキツイから、今日だけは来栖に賛同しようと思っている」

 来栖先輩は菅沼先輩にサムアップしながら、

「やっぱりそうか菅沼! 仲間だな!」

 思い切り敵なんだけども……。

 正直僕としてはどっちでもいいような気持ちで、そんなことよりもただただ緊張しているんだけども。

 理人くんは突然僕に軽く抱きつき、こう言った。

「絶対私の隣がぃぃよねぇん! ぃぃよねぇん!」

 何だか理人くんはいつにも増して良い香りがして、何だか少し緊張が落ち着いた。

 もしかしたらそういった香水をつけているのかもしれない。聞いてみようかな。

「理人くんって、もしかするといつもと違う香水付けてる?」

 理人くんは目を皿にしてから、

「……! すごぃ! やっぱり相思相愛! 今日は休日だから休日の香水付けてるのぉっ! 気付くのすごぃん! これはもう隣パワー最高潮だねぇん!」

 隣パワーって一体何なんだろうか。

 でもそんな不思議な言葉に違和感を抱かないことが来栖先輩のすごいところだ。

 普段の、ちょっと難しい言葉にはすぐ引っかかるのに、来栖先輩は勢いよく、

「俺だって隣パワーがすごいぞ! イチロー! 何か俺のこと、分からないか!」

 なんてザックリとして問いなんだ……答えさせる気ゼロの質問文でこの答えてほしい気持ち満載の表情。すごいな。

 えっと、じゃあ、

「いつでも裸足になる気でいる、ですか?」

 来栖先輩はクゥッという顔をしながら、

「分かってるなぁっ! これは隣パワーがすごいぞ!」

 理人くんは悔しそうに、

「ぅぬぬぬぅ……まさか来栖先輩も隣パワーがすごぃなんてぇん……」

 菅沼先輩はこのやり取りに飽きたのか、早速オヤツを取り出して、食べ始めた。

 ……って、

「それ、新作のプリッツですよね、確か柚子胡椒味でしたよねっ」

 と僕がつい菅沼先輩にそう言ってしまうと、菅沼先輩は小さく驚きながら、

「……! 分かるのか、さすがイチローだな、わけてやる」

 そう言って僕は菅沼先輩からプリッツを手渡ししてもらい、モグモグ食べた。

「美味しいです! 柑橘系のさわやかな香りにピリリと辛い青唐辛子の辛み!」

 すると来栖先輩が割って入ってきて、

「ん? 胡椒なんだから黒くて小さい粒だろ? ハッハッハ! イチローは味覚馬鹿なところがあるんだなぁっ!」

 菅沼先輩は溜息交じりに、

「馬鹿はオマエだ。来栖。柚子胡椒は青唐辛子と柚子を塩で漬けた調味料だ。そうか。それもありか」

 そう言ってから、静かに頷いた。

 一体どうしたのだろうか、と、

「菅沼先輩、頷いてどうしたんですか?」

 すると菅沼先輩がハッキリとした声でこう言った。

「いや。俺がイチローと隣の席になることもありだな。オヤツの話ができるからな」

 理人くんは大慌てで、

「ぃやぃやぃやぃや! そんなのは絶対ナシですからぁん!」

 理人くんはきっと、僕の隣に座りたいから否定したけども、菅沼先輩がそう言ってくださったのはすごく嬉しかった。

 というかそもそもみんなから、隣の席に座りたいと言ってもらえていることはとても有り難い。

 本当に夢みたいで嬉しい、だから、

「僕は誰が隣でもいいですよ。隣の席に誰か座ってくださるだけで僕はすごく嬉しいですから」

 とただ正直に今思ったことを言うと、理人くんが僕を強く抱き締めながら、

「そんなこと言わなくてぃぃんだよぉん! 座るに決まってるじゃん! 馬鹿ぁん!」

 と言ってくれたので、ただただ心が温まった。

 それを見た菅沼先輩は、

「まあ同じ年齢同士の人間の邪魔を先輩がしちゃダメだな。仕方ない。嫌だけども来栖。俺と一緒に座るぞ」

 来栖先輩はまだ納得いっていないように、

「えぇぇええっ! ハメ絵同士じゃないとダメだろ!」

 菅沼先輩が諫めるように、

「顔ハメ看板は全員一緒に見れるんだからいいだろ。車から降りるだろ。観光地へ行ったら」

 来栖先輩はどこか不満げに、

「そうだけどさぁ……」

 とまだ納得いかないような表情を浮かべる。

 そもそも何なんだ一体、ハメ絵同士って。

 来栖先輩の背中をトントン叩き、慰めているような菅沼先輩は、急に僕のほうを振り向いて、こう言った。

「ただ席順的にイチローは来栖の真後ろに座れよ」

「……えっ、どうしてですか?」

 と僕が質問すると、菅沼先輩が毅然とした態度でこう言った。

「後ろから俺の代わりにツッコミを入れてくれ。肩とか背中とかは叩いていいから」

 来栖先輩は嬉しそうに、

「おっ、肩や背中を叩いてくれるってマッサージ付きか?」

 すると理人くんがカットインしてきて、

「ぅぅんっ! 私が後ろの席でイチローのことマッサージしてあげるのぉん!」

 僕は慌てて、

「多分マッサージ的な意味じゃないですよ! 理人くんもマッサージは大丈夫だから!」

 そんな会話をしていると、ラッシーさんの車がやって来た。

 車の窓から顔を出したラッシーさんが、

「早速乗るんだぜ! 善は急げだぜ!」

 僕たちはそれぞれ決めた席順で座った。

 それを見ていたラッシーさんが、

「おっ! 席順は特に決めなかったんだな! 適当もいいぜ! いいぜ!」

 大場先輩はラッシーさんに説明するように、

「いや、ガッツリ、決めて、ました」

 するとラッシーさんは目を丸くしてから、

「おぉ! じゃあ席順の説明をしてほしいんだぜ!」

 席順の説明なんていらないでしょう、と思ったが、ラッシーさんがしてほしいと言っているのだからしょうがない。

 大場先輩が後ろを振り返りながら、

「じゃあ、イチロー、説明、よろしく」

 僕は即座に、

「僕が説明するんですかっ! 説明できるほど造詣が深くないですよ!」

 大場先輩は首を優しく横に振って、

「でも、オレは、喋りが、遅い」

「ここは俺が説明する」

 そう立候補したのは菅沼先輩だった。

 ラッシーさんが、

「じゃあケンチンよろしくだぜ!」

 と言えば、矢継ぎ早に菅沼先輩が、

「だからケンチンって言うな!」

 このやり取り、多分ずっと見ていくことになるんだろうな。

 菅沼先輩がコホンと一息ついてから、

「まずは大場がラッシーのサポート、顔ハメ看板に詳しいのは大場だから当然だな。そしてその後ろの席に俺と来栖。俺が真ん中にいるのは、みんなにオヤツを行き渡らせるため」

 そんな理由だったんだ。

 菅沼先輩、本当にオヤツ大好きだなぁ。

「そして来栖の後ろにイチロー。そしてその隣に理人。同い年で仲良く座ればいい。そしてイチローには後ろから来栖にツッコんでもらう」

 ラッシーさんは小首を傾げながら、

「でも来栖くんの声は前に飛ぶわけだから、声が聞こえない可能性もあるぜ」

 菅沼先輩はやれやれといった感じで、

「いや。来栖は声がデカいからどこにいても全員に聞こえる。だからそれよりもイチローの声が来栖に一番届くことが重要だ」

 来栖先輩は楽しそうに、

「なるほど! それはいいなぁっ!」

 いや来栖先輩、全体的にやんわりディスられているんですよ……。

 ラッシーさんは大きく「うん」と頷いてから、

「じゃあ分かったぜ! 早速出発するぜ! 車窓から変なモノあったら言うんだぜ! ツッコミを入れていくんだぜ!」

 何だその旅行の仕方。

 音楽とか流して各々だと思ったら、車窓から見える変なモノにツッコんでいくって。

 でもそれに対しては、大場先輩も肯定的だ。

「面白いモノを、見て、顔ハメ看板に、生かすことは、重要だからな」

 確かに道中に変な看板ってあるからな。

 なるほど、そうやって旅行を楽しむこともできるのか。勉強になるなぁ。

 というわけで、僕たちの顔ハメ看板旅行は始まったのであった。


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